☆20☆黒帽子の少年との約束

「本当に上手くいくかな？」

　黒い帽子を被る少年は、不安な様子で鉄棒にぶら下がる。鉄棒と言うが、木と竹で作られたものだ。恋心を寄せる少女に格好いいところを見せるべく、ルピナスが作ってあげた。逆上がりのできる子は、皆の憧れの的だ。この挑戦に前向きなヒオーギと乗り気でない美少女2人の関係が、良好なのが疑問だ。

　そもそも何故、こんな状況になっているのか。村へ到着した一行は、母を救う手掛かりを探すことを優先した。ヒオーギが、変な意地を張って1人で村中を歩き回った結果、この黒帽子の少年に出会った。話を聞くに、少年の言うことを叶えてくれたら、手掛かりを教えてくれると言うのだ。兄は、信じている。同年代の少年が知るわけがないと、ルピナスとネリネは、感づいている。他人の心を傷付ける必要もないため、2人は付き合ってあげている。

　少年同士の真っ直ぐで澄んだ瞳が、キラキラと輝いている。まるでそこに太陽があるかのように、熱い友情が溢れ出ている。

「さぁ、もう少しだ。勢いつけて一気に空へ突き上げる！」

　自身は逆上がりができるのか分からないが、一丁前に熱意のある指導をしている。たぶん、運動神経が良いヒオーギなら簡単にやってのけるんだろうな。そう思うルピナスは、ネリネと共に少女の元へと向かっていた。ヒオーギの火を筒にいれて持ち歩くネリネは、水を制御できている。少年と少女は、幼馴染みで村の中でも仲の良い子供として知られていた。

　この村に悪魔の子は誕生していないのか。どうも、それらしき人物は見当たらない。まだ芽が出ていないのか、そもそも皆が、悪魔の能力を継承するわけでないのか。不明な点が多い。リリーの手掛かりを見つけることは可能なのだろうか。続けていれば必ず報われる。そう信じる3人は、目の前のことに一生懸命になれる。

　ルピナスとネリネと少女は、ヒオーギと少年の頑張る姿を見つめる。回転する瞬間を待ちわびている。手を握る力が強くなり汗ばむ。

「いっけぇ～！」

　ヒオーギの応援と共に少年も気合いを入れた。竹を握る手に力を這わせ、蹴りあげる足をバネのようにしなやかに……そして、弧を描くように回れ。反比例の図のように、靴に伝う砂が跳ねる。

「ぃやった～」

　手を上げて喜ぶのは、少年以外の4人だ。少年の顔は、喜びに満ち溢れている。一回転したあとに立つその姿は、一つレベルが上がったように凛々しかった。

　達成感の漂う雰囲気の中、ヒオーギは少年に約束の情報を要求した。空気の読めないのも彼の特徴だ。他に短所という見方もある。

　少年は、黒帽子の鍔(つば)を持ち整えると、少女の耳を塞いだ。

「ごめんなさい、存じ上げておりません」

　そんなことだろうと思っていたルピナスやネリネは、驚くこともなく、先を急ぐため村を離れようとした。ヒオーギは、驚きを隠そうとしない。それでも、平静を装うことを選択した彼は、とても歪んだ顔になっている。諦める兄の背中をさする。そのまま、とぼとぼと歩を進めた。

　カッコつけたがる男の子の気持ちは分かる。好きな女の子には良いところを見せたい。そして、その手段は見られたくない。でもいつの日か必ず、悔いるときが来る。そしてその時、人は成長する。

「待ってください」

　3人を呼び止める少年は帽子を脱ぎ、深く頭を下げた。感謝を叫び、少し時間を与えて欲しいと懇願した。

「必ず、必ず力になります」

　その眼差しに嘘はないと信じるヒオーギは、その言葉を鵜呑みにする。またしても、容易に騙されてしまう。そう感じ取るルピナスだが、何も言わない。情報が欲しい我々に、選択する余地はない。ただもう少し、吟味はしてほしいものだ。