☆13☆洗脳された村
「ご飯ができたわよ」
暗闇の中から聞こえてきたのは、母の声だった。目を開けたヒオーギは、四ツ星村の自宅にいた。台所から料理を運んでくる母に、ダイニングに座るルピナス。理解が追い付かず声も出ない。
「早く座りなよ、何ぼーっとしてるの?」
着席を促すルピナスは、くすくす笑った。
どうなっているんだ。頭が混乱しているヒオーギは、そっと席に着いた。
「さぁ、今日は2人の大好物よ」
真っ白なご飯に、ピリッと辛みのある汁をかけたものだ。ヒオーギは、驚きを隠せず目を見開いている。
「どうしたの?お兄ちゃん食べないの?」
パクパクと食べ進めるルピナスを見て、ヒオーギもスプーンを手に持ち食べてみた。美味しい、素直な感想が声に出た。
「さぁ、食べ終わったら外へ遊びに行っておいでね。凄く良いお天気だから」
可笑しな事を言う母に、チラッと窓の外を見た。外が明るい。今まで見たことのないくらい明るかった。無意識にスプーンを落としたヒオーギは、立ち上がり駆け出していた。
空に神々しく光る太陽がある。一体何だこの世界は。
「どうしたの?急に出てったりして、行儀の悪い」
「だって、だって太陽だよ」
当たり前の光景だよ、といった母の表情に不思議がった。ヒオーギは、考え直した。俺が可笑しいのか。
生まれてから一度も太陽を見たことが……呼び起こす脳裏の思い出には、いつも太陽が見えている。3人でピクニックした時も、運動会の時も、今日だって……。
悲しくないのに涙が溢れる。驚いたヒオーギは、鏡を求めて走った。眼が朱くない。
もう全て解決したんだ。悪魔なんてもういない。本当と嘘の記憶が交錯するヒオーギは、膝から崩れ落ち、笑いながら泣いた。
☆ ☆ ☆
「ねぇ、ヒオーギ!ヒオーギ!目を開けて」
衝撃波を受けたルピナスも一時的に気を失ったが、すぐに目を覚ました。
「どうして効かない?」
自身の技の効かない相手に困惑したデイジーは、直ちに拘束するよう村人に命じた。
扉が強く開かれ、多くの村人が流れ込んできた。ルピナスは咄嗟に、近くの鉢植えの植物を生長させ、伸びた枝で村人を威嚇し、窓を割った。
捕えられたヒオーギを尻目に、仕方なく窓から外へ逃げ村からも遠ざかった。雑草の伸びた蔓で壁を越え、デイジーの能力の範囲外に出るまで走った。
「私は、なんて無力なんだ」
身体を大木に預け、そのままズルズルと座り込んだ。
「2人で頑張ろうって決めたのに」
私がヒオーギを守るって誓ったのに、ダメな子だ。自然と涙が溢れてくる。意識を失ったヒオーギの姿が、フラッシュバックする。心臓は動いていた。それだけが唯一の救いだ。
雑草は小さな花を咲かせながら、ルピナスを覆っていく。
村人を見るに、明らかに洗脳されていた。あのデイジーという悪魔の子の仕業だ。何が目的なのか。デイジー様は美しい?村人の語尾に続く言葉は、気になっていた。あの子は私と同じ年齢のはずだ。構ってほしいだけなのか。しかし、グロリオーサ復活隊に目をつけられたら困る。何としても、早急に対処しなければならない。
「あぁー、頭がぐるぐるする」
まずは、ヒオーギを救い出すことだけに集中しよう。
鳥がさえずり近くを飛び交う。蝶がルピナスを覆う草の周りを舞う。
ピチャピチャ
聞き覚えのある足音がする。だんだんと近付いてくる。そして、止まった。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から火花を散らつかせられる
周囲の温度を上げられる
火技:火炎狙撃
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
蒼い髪には時間を操れる効果がある
時間技:時間超正転
ネリネ☆悪魔の子
全身から溢れ出る水で、通った道はいつもぬかるむ
水技:水力鉄壁
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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アネ☆悪魔の子
モネは双子の妹
グロリオーサ復活隊を構成する一人
赤い掌→変色するとピンク色
風を起こせる
毒技:猛毒液玉
モネ☆悪魔の子
アネは双子の姉
グロリオーサ復活隊を構成する一人
紫の掌→変色すると青色
風を起こせる
毒技:毒薬銃
ヨモギ☆悪魔の子
グロリオーサ復活隊?
傷口に手をかざすと現れる葉には癒しの効果がある
回復技:治癒草
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
魂を持っていかれ瀕死の状態
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた
諜報役も務めている




