☆11☆家族水入らず
その場に膝を付いたネリネは、身体中から水を垂れ流した。ヒオーギの熱気でも蒸発は追い付かない。
「あーあ、畑が……台無しだ」
溢れる涙は、止まる気配がない。
「また、怒られちゃうな」
ルピナスは、寄り添いぎゅっと抱きしめた。服が濡れちゃうよと言う忠告も無視し、その場に居続けた。
もっと普通に生まれていたら、こんな苦しまなくても済んだのではないか。能力なんていらない。悪魔が憎いよ。そんな気持ちで満たされるネリネを、林の方から呼ぶ声が聞こえる。ネリネの両親と弟だ。
「お姉ちゃん!」
眼鏡を掛けたネリネの弟は、大きな声で名前を呼び、格好いいよと続けた。
「あんまり、お喋りできなかったけど……お姉ちゃん、凄いよ」
両親も微笑み、ネリネを迎え入れた。ルピナスが促すと彼女は、ぬかるむ道を必死に走った。滴る水滴が、髪のなびくのに合わせて、放物線を描くように飛びはねた。
家族の輪がそこには完成していて、ヒオーギとルピナスはただ眺めているだけだった。笑顔の溢れる空間に2人も釣られて、笑みを浮かべた。この時間が一生続けば良いのにと思ったルピナスは、近くの雑草を伸び縮みさせた。自分には、こんなことしかできない。未熟だ。何の役にも立たないじゃないか。俯く妹を見たヒオーギは、手を引きその場から離れようと、歩き出した。
門の前まで来た2人は、冷たい村人の視線を横目に、静かに開かれた門をくぐった。
「ネリネには、悪いことをしたな」
ヒオーギは、自身のせいでオオカミの大群が来てしまったことを悔いた。
「仕方ないよ、ヒオーギが守ってくれなきゃ、私たちがやられてたんだから」
兄の行いを擁護し、地図を広げたルピナスは、次なる目的地を目指すため、歩を進めた。余韻に浸る間もなく切り替えの早い妹に、頼もしさと共に怖さも感じる。
2人はまた、険しい道なき道を歩いていく。ヒオーギは、こっそりと忍ばせておいたラズベリーを頬張る。後ろからルピナスを呼び、振り返る妹の口にその木の実を放り込んだ。
「美味しい」
ネリネが大切に育てたことを考えると、より美味しく感じる。2人の仲睦まじい姿を見ると、本当に悪魔を憎む。
「ん?というか、持ってきたの?」
食べちゃったんだから、同罪だよ。そう言うヒオーギは、共犯者を得た。怒ろうとしたルピナスも、美味しく頂いてしまったしと罪を認めた。
家族水入らずの時間を、過ごしているであろうネリネのことを思い、2人は水浸しの村を振り返った。
「また会おうね」
ルピナスはそっと呟くと、再び前を向き歩んでいく。2人の旅はまだ、始まったばかりだ。
◇ ◇ ◇
「あーもう!上手くいかないわね」
森の住処へと帰還したグロリオーサ復活隊は、やりきれない思いを吐き散らしていた。場の空気はどんどん悪くなり、次第に口数は少なくなっていた。
「次の作戦、考えるわよ」
熱が冷めてきたアネは、机を囲むよう指示した。魔物のオオカミは、水が苦手なんて知らなかった。今度は、空から偵察よ。そう言う姉は、妹に目配せした。
「私がやるのなの?」
アネの液玉では空の魔物には当たらない。銃でないとダメだ。瞬時に理解したモネは、直ちに準備に取りかかった。
ヨモギは、二人の会話をただ黙って聞いていた。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から火花を散らつかせられる
周囲の温度を上げられる
火技:火炎狙撃
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
蒼い髪には時間を操れる効果がある
時間技:時間超正転
ネリネ☆悪魔の子
全身から溢れ出る水で、通った道はいつもぬかるむ
水技:水力鉄壁
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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アネ☆悪魔の子
モネは双子の妹
グロリオーサ復活隊を構成する一人
赤い掌→変色するとピンク色
風を起こせる
毒技:猛毒液玉
モネ☆悪魔の子
アネは双子の姉
グロリオーサ復活隊を構成する一人
紫の掌→変色すると青色
風を起こせる
毒技:毒薬銃
ヨモギ☆悪魔の子
グロリオーサ復活隊?
傷口に手をかざすと現れる葉には癒しの効果がある
回復技:治癒草
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
魂を持っていかれ瀕死の状態
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた
諜報役も務めている




