☆9☆悲しき水人間(1)
ヒオーギの寝ているところを襲おうとしたオオカミは、アネの指示により仲間を引き連れて2人を追っていた。傷口には、赤いスカーフを巻いている。ルピナスの作った道と匂いを頼りに、魔物の大群は着実に近づいていた。双子の姉妹と謎の多い少女ヨモギは、最も後方から戦況を伺おうとしているようだ。
「こんなに大勢、どうやって集めたのなの?」
モネの知らないところでアネは、戦力を増やしていたようだ。満足気の表情に鼻を高くした。ヨモギは、無表情のまま二人の掛け合いを注視していた。
「ふふん♪ワンちゃんには好かれるのかもしれないわね」
そう言うアネだが、実は1匹ずつ毒で操っている。頭の良いモネは、気が付かないふりをしている。手伝ってなんて頼まれたら面倒くさい。
◇ ◇ ◇
この林は、ネリネの植えた木の実の栽培地のようだ。ラズベリーの他にもあるのだろうけど、勝手に散策するのはやめておこう。でも気になる。ルピナスがネリネに会いに行っている間、ヒオーギは留守番中だ。女の子同士の方が分かり合えるからと、正論っぽいことを並べられて、言いくるめられた。決して納得しているわけではない。暇すぎて横になるヒオーギは、空を見上げた。相変わらず曇天だ。
「ネリネさん!」
畑仕事をしている彼女は、大きめの長靴を履いている。水が溢れんばかり満たされている。とても歩き辛そうだ。
「あぁ、昨日はどうも。何もしてあげられなくて……ごめんなさい」
声のトーンが暗い。何か嫌なことでも言われたのだろうか。ルピナスも一緒に手伝いながら、それとなく聞いてみた。
ネリネには、5つ下に弟がいるようだ。実の子である息子を両親は溺愛しているようで、悪魔の子である彼女は冷たく扱われている。家族にまでも愛されていないのでは、生きていても辛いだろう。村の中心地からも遠いこの場所に暮らすのは、村民の信用を回復させるためにしている。弟が10歳になれば、村の人の見る目が変わる。そう信じて疑わない。この世界は、それだけ10年生きるのに拘っている。
「ねぇ、私たちと一緒に来ない?」
ルピナスは、静かに耕しながら聞いてみた。ネリネは多少驚きを見せたが、また作業に戻った。
「行かないよ」
私は、生まれるべきじゃなかった。だからこそ、ここで誰にも気が付かれず一生を終えるんだ。
その目は、滲んでいた。滴る汗と混じって分かりにくいが、確かにそれは涙だった。悪魔の子であろうと、変わり者であろうと、彼女は人間だ。ルピナスには、同じ思いの兄がいるが、ネリネは独りだ。2人には感じられない孤独を味わっているはずだ。軽率に誘った自分を叱った。
そして、ネリネに別れとお礼を告げ、ヒオーギのもとへと帰った。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から火花を散らつかせられる
周囲の温度を上げられる
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
蒼い髪には時間を操れる効果がある
ネリネ☆悪魔の子
全身から溢れ出る水で、通った道はいつもぬかるむ
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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アネ☆悪魔の子
モネは双子の妹
グロリオーサ復活隊を構成する一人
赤い掌→変色するとピンク色
風を起こせる
毒技:猛毒液玉
モネ☆悪魔の子
アネは双子の姉
グロリオーサ復活隊を構成する一人
紫の掌→変色すると青色
風を起こせる
毒技:毒薬銃
ヨモギ☆悪魔の子
グロリオーサ復活隊?
傷口に手をかざすと現れる葉には癒しの効果がある
回復技:治癒草
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
魂を持っていかれ瀕死の状態
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた
諜報役も務めている




