☆8☆水浸しの村
群れで行動する習性があるオオカミが、一匹しかいなかったことに、ヒオーギの頭脳では疑問に思わなかったらしい。
「おかえり、何か変わったことはないかしら」
傷を負ったオオカミが戻った先は、アネとモネの住処であった。悪魔でない者に従順になる魔物はいない。推察するに、アネの毒には、魔物を操れる効力もあるらしい。
「えぇ!!!どうしたのなの!?その傷」
切り傷は浅いが、火傷を負った跡が確認できた。他の魔物にやられても、こうはならない。モネは感付いたようだ。悪魔の能力だ。
「ヨモちゃん、治せるの?」
モネに呼ばれたのは、明るい緑髪の小さな女の子だった。おちょぼ口の彼女は、無言のまま頷くと、オオカミに近づき傷口に手をかざした。
『治癒草』
すると、黄緑色のみずみずしい葉が覆い被さり、みるみるうちに傷と火傷跡が治っていった。
「やるじゃん!ヨモギ」
腰に手を当て見下すアネも信頼しているようだ。ヨモギは、少し口角を上げてオオカミを優しく撫でた。双子の姉妹と共にいる彼女は、グロリオーサ復活隊のメンバーなのだろうか。話すことは苦手なようだ。
◇ ◇ ◇
小高い丘を登りきると、見晴らしの良い場所に辿り着いた。景色が見渡せるそこからは、目的地の村が確認できた。四ツ星村よりも小さく思えた。疲れの見える2人も、もうひと頑張りと踏ん張れそうだ。
「よーし、頑張るぞ!おー!」
ヒオーギのテンションは、いつもと変わらない。右手拳を突き上げる彼を見るルピナスは、ニコッと笑い、兄に合わせた。
「あともう少しだよー」
少しジャンプし、ヒオーギよりも高く拳を掲げた。元気一杯の妹を見る兄は、寝不足なんてどうでもよくなっていた。
そのまま突き進み、一気に村の門までやってきた。
「何か用かい?子供たち」
門番の槍先は空を向いていた。構え方も知らなそうなその人は、気だるそうに聞いてきた。
「四ツ星村から来たのですが、中へ入れてもらえますか」
丁寧に聞いたルピナスは、断られたらどうしようと不安であったが、回答はあっさりとしており、すぐに開けてもらえた。悪魔が滅んで村の警備にバラつきがあるようだ。
「あぁ、ぬかるんだ道には気を付けな、厄介な奴が住んでいるんだ」
中へと足を踏み入れた2人を呼び止めた門番は、怪訝な顔をして忠告した。双子の兄妹は、感謝の言葉と会釈をし、先へと進んだ。
この世界は、太陽が隠されているせいで、道はいつも湿っている。それなら気にならないが、忠告するほどだから、その限りでないのだろう。ルピナスは、そう考察した。
2人はまずは、村長に会いに行きこの村の現状を知ろうとした。しかし、陽光の射す村があることや、悪魔の子の存在も認知していないようだった。ルピナスは、疑問に思ったが、追及し過ぎて村を追い出されては意味がないと考え直し、そのまま村長宅を後にした。最初に訪れた村で突拍子もない事を話されては困るので、外で待機させていたヒオーギと合流した。
ヒオーギの指差す方向に、草木が生い茂った林があるようだった。来客を想定されていないこの世界では、宿などは存在しない。家のない2人は野宿を選択するしかなかった。また、通貨や売買の概念がないのは四ツ星村と同様で、1日に3度、村の皆で出しあった作物を分配している。悪魔という共通の敵がいたおかげで、仲間意識は強い。しかしながら、よそ者にまで分け与えてくれるかどうかは別問題だ。
2人はひとまず野宿できそうな場所を確保し、腰を下ろした。少しの仮眠を取るつもりだったはずが、目を覚ますと辺りは暗くなり始めていた。
「冷たっ!」
手に冷水が当たり、周辺がぬかるんでいた。ヒオーギは、隣のルピナスを見た。彼女も同様に驚いた様子でいた。
ピタッピタッ、ぬかるんだ道を歩く足音が聞こえてきた。だんだんと近づくそれは、林の奥からだった。
「あら、こんなところに人がいるなんて……珍しい」
振り返るとそこには、真っ白なワンピースを着た背の高い人が立っていた。
見かけない顔だと分かると、木の枝で作られたバスケットにたくさん摘まれたラズベリーを分けてくれた。
「ありがとう、この村の人だよね?名前は?」
ルピナスから自分たちの名を明かした。
「ネリネよ、この村で産まれ育ったけど、皆からは避けられてるの、曇天の世界には向かない体質だから」
そう話し、俯く彼女は自身の立つ地面を見て驚いた。
「どうして?固まった土なんて初めて触れたわ」
ヒオーギの朱い眼は周囲の温度を上げられるようだ。
「あなた、体質って言うけど。私たちと同じ境遇なんじゃない?」
門番の話していた厄介な奴とは、ネリネのことだ。ルピナスは、悪魔の子である事実と、母親を助ける目的があることを話した。
他の子とは違う自分自身に嫌気がさしていたネリネは、理由が知れたことは良かったが、今後どう生きていけば良いのか不安が募った。
「ネリネ!どこで油売ってんだい」
遠くから声が聞こえてきた。
「ごめんね、行かなくちゃ。これ、持って帰ってる途中だったの」
バスケットを抱え、ピタッピタッと音を立てながら走り去っていった。
2人は互いに似たようなことを思ったようだ。悪魔の子に対する理解が乏しいこの村は、彼女には住みにくい。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から火花を散らつかせられる
周囲の温度を上げられる
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
蒼い髪には時間を操れる効果がある
ネリネ☆悪魔の子
全身から溢れ出る水で、通った道はいつもぬかるむ
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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アネ☆悪魔の子
モネは双子の妹
グロリオーサ復活隊を構成する一人
赤い掌→変色するとピンク色
風を起こせる
毒技:猛毒液玉
モネ☆悪魔の子
アネは双子の姉
グロリオーサ復活隊を構成する一人
紫の掌→変色すると青色
風を起こせる
毒技:毒薬銃
ヨモギ☆悪魔の子
グロリオーサ復活隊?
傷口に手をかざすと現れる葉には癒しの効果がある
回復技:治癒草
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
魂を持っていかれ瀕死の状態
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた
諜報役も務めている




