☆6☆門出
四ツ星村にいる双子は、自らの能力を扱えるよう何度も同じ動作を繰り返して、身体に染み込ませている。
弓矢を火矢に、槍は焔槍、剣を炎剣へと装いを変え、男心をくすぐる武器たちは、ヒオーギに操れるのか。それぞれの武器を身に付けた姿は、とても動きにくそうだ。弓は左肩で矢は右腰に、槍は背中に斜め掛けし、左腰には剣を携えた。
その立ち姿は、ルピナスからの笑いを誘った。重々しい格好の朱い眼の少年は、妖艶な蒼い髪の少女の心の支えだ。
「どれか……ププ……持ってあげようか……ハハハ」
ヒオーギの溢れ出る面白さに、ルピナスは堪えきれず吹き出してしまう。両手で口を隠す仕草は可愛いが、完全にバカにしている。それを感じたヒオーギは、いいよと吐き捨てるように言い断った。
「ねぇ、見てみて」
機嫌を悪くした兄に、妹なりのユーモアを表してみた。自身の髪をバタつかせ、両手を空へと向けると、地面の雑草がみるみるうちに生長し、ルピナスを覆い隠した。
語彙力のないヒオーギは、驚きを隠せずただ一言「……凄い」とだけ口にした。そこには、安堵の表情も見え隠れする。
そして伸びた草は、ルピナスを守る盾になるだろう。ヒオーギに心配をかけないよう、攻撃力のなさを上手くカバーした。
「ただ凄いだけ?凄まじいでしょ」
ヒョコっと顔を出し、ヒオーギを煽った。
「賢さアピールするなよぉ」
地面を強く蹴った。それに合わせ、身に付けた武器がガシャガシャと音を立てる。もうルピナスには笑われっぱなしだ。
2人の物語は始まったばかりだ。未熟さの残る少年少女は、目的を果たすべく突き進む。
悪魔族の族長グロリオーサに、魂を持っていかれた母親は、今も瀕死の状態が続く。治す方法は不明だが、グロリオーサの影響が残ったままではいけない。根絶しないことには、先へ進めない。
それを朱眼と蒼髪が担う。悪魔の能力を持つ2人でないと敵わない。
「あの子たちは、逞しくなったよ」
ここ数日で著しく成長した2人の事を、リリーに報告した。頭は悪いが武術に長けるヒオーギと、ひ弱だが聡明なルピナス。きっと互いの短所を補いながら、長所を生かせるよ。
そう信じて疑わないホウセンの元に、マリーゴが駆けつけてきた。
「大変な事が分かった」
血色を悪くした男は、どうも落ち着かない様子だ。
アネとモネについて調べてきたのだ。
二人の出生した村は、統率が取れていない無法地帯と化していた。噴火の影響が強く、作物が育ちにくい環境となってしまった。結束を固めるべきところなのに、略奪が横行してしまい、とても住める状況ではない。ほとんどの村人は、外へ出て散り散りになっている。村としての機能は果たしていない。
アネとモネが、人間を信用しない理由の一つかもしれない。また、グロリオーサ復活隊については何の情報もなかった。つまり、二人のみで構成されている可能性が高い。
「悪魔がいなくなったからといって、全てが上手くいくわけではないのだな」
同族で争うことに酷く悲観するホウセンは、他に情報はないかと訊ねた。
「その村出身の者から聞いたのだが、どうやら陽光が射す村があるらしい」
そこでは、悪魔の支配は無かったらしい。文明も発展しており、うちとは比にならないくらい進んでいる。その者は、そこを目指しているようだったが、場所の検討はついていないらしい。
「とても曖昧で不確かだから、噂程度に聞き流してほしい」
場所の検討がついていないとなると、2人には危険すぎる。しかし、悪魔を根絶する上では外せない地帯になる。
「どうにかして、その情報を集めてくれ」
希望が出てくるかもしれない。
しかしこのことは、2人には黙っておくことにする。まずは近くの村へ赴き、リリーを救う手がかりを探そう。その方が動きやすいだろう。
☆登場人物紹介☆
ヒオーギ☆悪魔の子
ルピナスは双子の妹
朱い眼から火花を散らつかせられる
ルピナス☆悪魔の子
ヒオーギは双子の兄
蒼い髪には時間を操れる効果がある
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グロリオーサ☆悪魔族の族長
大噴火による天災で滅ぶ
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アネ☆悪魔の子
モネは双子の妹
グロリオーサ復活隊を構成する一人
赤い掌→変色するとピンク色
風を起こせる
毒技:猛毒液玉
モネ☆悪魔の子
アネは双子の姉
グロリオーサ復活隊を構成する一人
紫の掌→変色すると青色
風を起こせる
毒技:毒薬銃
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リリー☆四ツ星村の住人
ヒオーギとルピナスの母親
魂を持っていかれ瀕死の状態
ホウセン☆四ツ星村の村長
元々は護衛の職に就いていた
マリーゴ☆四ツ星村の住人
元々は護衛の職に就いていた
諜報役も務めている




