第2話 幹部会議
話し合った結果、マグワイアー家に貸し付けた200億Gは、やや一方的な話し合いの結果、年利5%に落ち着いた。
当初、バルトあたりが、「利子が払えない!」との不満を漏らすかと覚悟していたのだが、実にあっさり受け入れた。
よく考えたら当然かもしれない。ライナとの悪巧みを聞かされて、バルトは私を甥ではなく商人と認識した。帝国中の地方豪族すらも巻き込む元も子もない計画を考える私達を心の底から信じられるはずがないのだ。そんな信用に問題がある相手からの無償の貸付など、恐ろしくて、手放しには喜べまい。
それに元々、ウエィスト商会の場合には年利55%だ。年利5%がどれほど破格であるかは、赤子でも思いつく。
私は当該領地の相談役として経営手段のみを関与するにとどまり、この領地の主導権はバルト達にある。相互の利益は保たれている以上、彼ら領主が最も安心できる構図なのかもしれん。
ともあれ、この領地への実質的な介入が可能となった。あとは、この地での改革を粛々と進めるだけ。
現在、母アンナの目を盗んで、マグワイアー家の屋敷を抜け出し、幹部会議へと出席している。
「これがラドル地区での本商会の本月の決算です」
「1000億Gの利益か。もっと、トントンくらいかと思ったのだがな」
ラドルはまだ開発途上の地。出費も莫大だ。しかも、これは問答無用で入ってくる我らの商会の特許料を除いた額。
この大幅な増収の理由はおそらく……。
「発電機と産業機械の開発の成功により、各種部門での大幅な作業効率の向上が見られたことが主な理由です。まさに空前の好景気です」
興奮気味に報告してくるサガミ商会の幹部職員に大きく相槌を打つ。
【人間スライム事件】からほどなく、開発チームは発電機を開発。其の後も、紡績や生活必需品を中心に、産業系機械の開発が進んだのだ。
大量生産が進み、各国各地の商人達に飛ぶように売れている。
「帝国内に存在する七箇所の油田は全て我らの商会が抑えた。埋蔵量は相当なものだし、化石燃料は十分に確保し得ているぜ」
ジュドの報告に、一斉に会議室中に歓声が上がる。化石燃料の重要性を知らぬものなどこの我が商会の幹部には存在しない。
電気や石油の燃料も確保した。あとは技術を向上させるだけだ。
「インフラ整備はどうなっている?」
「ラドル領内は今や建設ラッシュ。電力もキャメロットとアークロイの大都市の九割で既に供給済みだ」
ジュドの言葉通り、先日、キャメロットを訪れたがその風景は一変していた。
複数の車線に綺麗に整備された路上を馬車に交じり自動車が走り、その脇の歩道を自転車や歩行者が行き交う。
もっとも、自動車については、ラドルの生産力の関係からまだちらほらとしかいないわけだが、それでも鉄の物体が走っているのだ。ラドルを初めて訪れる貴族や商人は、大抵、腰を抜かすくらいぶったまげる。
木造の近代的な建物の脇に街灯が規則正しく設置され、夜間でも煌々と周囲を照らしていた。
まさにキャメロットとアークロイだけは、地球の光景を一部再現しているといってよい。
「鉄道は?」
「ああ、ラドル領内の各都市については、来年中には完成予定だ」
「商業ギルドから、このキャメロットとサザーランドを繋ぐ鉄道の建設の依頼があった。無論、当面はギルドと我らの商会の両者で経営は行うが、建設費用は全額ギルド負担だから心配いらん」
そのためには莫大な数の人員と専用の作業用の機械が是非とも必要だ。
一番問題となるのは、人員の確保だが、ジルの意思を受け、今も奴隷だった者達が解放され、我らが商会に一時的に雇われている。
間者の摘発の件も、サトリとアクウが我が商会に加入したことにより、上手く稼働している。
現在、彼らは既に数千人にも及び、商会の工場や商店での労務に従事してもらっている。彼らの一部に建設作業を担ってもらえば効率よく進むと思われる。
「了解した。みなもいいな?」
ジュドの言葉に対し、全員からの無言の同意を確認する。
「では、次の議題は軍事部門だが?」
私は救いようない無抵抗平和主義者ではない。領地を守護するだけの軍事の増強は必須だ。特に私はアムルゼス王国と帝国の門閥貴族の両者と敵対しているわけだしな。
「ラドルの志願兵は2000を超えた。通常は訓練をしつつも、都市の警備や警察を担ってもらっている」
テオ・グリューネを将軍として、ようやくラドル軍も形になってきた。
軍隊に警察の真似事をいつまでもさせるわけにもいくまい。やはり、人員の確保が急務だ。
(ラドルの解放か……)
いつかはしなければならない宿題だが、実際の実行は、そう遠くないのかもしれん。
「兵器の製造は?」
「銃火器や銃弾等の消耗品は、製造したものを魔法の鞄に収納しロックした上で、倉庫に厳重に保管している。銃弾総数はおよそ100万発にも及んでいる」
「100万発か……まだまだ足りぬな」
本格的な戦争に耐えられるだけの数にはまだまだ程遠い。
「戦車は?」
「一応、開発には成功しておるがな、予算的にも人員的にもまだまだ実戦配備するレベルにはないぞ」
ルロイのこの進言は私も予想済みだ。一般公道すらもまだまばらにしか走っていないようだし、戦車の製造に回す余裕など当分はないことくらい重々承知している。
しかし――。
「50輌は可能な限り早く作っていて欲しい。これは私のポケットマネーで行ってくれ」
最近、門閥貴族の勢力の動きが活発になってきている。高い買い物だが、あとで泣くよりよほどいい。
「わかった。急がせるわい! まったく人使いの荒い奴じゃ」
ルロイが頷くと眠そうに欠伸をしつつも返答した。
最近、例の魔法武器の開発が佳境を迎えており、碌に寝ていないらしい。相変わらずな御仁だ。
「では最後だが、今帝国内で起きている動きについてだ」
「ああ、通商連合ですか? 帝都中心とする商人の間で加入者が急速に増えているとか」
帝国の貴族出身の豪商を中心とした商業ギルドの支配に異を唱える者達が発起人となっている。
彼らは、特許という名目で一部の者達が利益を独占しているのを批難し、その解放を謳っている。
要約すると、私が特許で儲けているのが生意気だから、ただで技術を使わせろ。そう言いたいのだろう。
「ギルドは通商連合なる組織を認めていないようだがな」
ジュドが皮肉気に肩を竦めた。
特許は商業ギルドの中核の概念。ギルドが認めるはずもない。それ故、かなりの数が脱退し、通商連合への在籍者が増加している。
「商人の勢力が、二分しているってこと?」
カルラが、頬を人差し指で押しつつも、独り言ちる。
「ああ、相当な数の商会が商業ギルドではなく、通商連合の傘下へ入っている。既に無視し得ない勢力になっているようだ」
この前の相談の際に、ライナから直接聞いたから間違いなく事実だ。
「随分、綺麗な口上を垂れ流しているようだが、門閥貴族と組んでやりたい放題のようだがね」
端で笑うジュドの言葉に、次々に同意の言葉や嘲笑が巻き起こる。
「商業ギルドと私達は一先ず事態を静観することにした」
ざわめく会議室。単純に考えれば、静観すれば、門閥貴族と通商連合の力が増す。この反応も無理はない。
しかし、
「ああ、この機会を利用し、難癖をつけられている地方豪族の債権を買い取り、領地の経営に強制的に参入しようってわけだな?」
ジュドが、うんざり気味に口にする。思い至るということは、ジュドも私やライナと同様の案を考えていたのだろう。
もっとも、少なからず不幸となるこの方法を実際に実行に移そうとは思っていなかったのかもしれないが。
「その通りだ。この件で帝国内の科学技術は著しく向上するし、地方豪族の領地に我らが商会の勢力を浸透させられる。何より、我らにとって最大の利益がある」
「通商連合を領地から、締め出せるってわけね?」
カルラも中々やるではないか。兄や他の商人たちにもまれ、相当鍛えられたと見えるな。
「まあな。領主には、各領地で通商連合所属の商人には一切の商売は認めぬよう領令を発布してもらう。仮にも一度は、通商連合から、奪われかけたのだ。領主たちも喜んで賛同してくれるだろうよ」
要するに目には目を歯には歯をだ。通商連合の奴らがやろうとしていることと同じ。地方豪族への債権を買い取り、奴らを合法的に商いの現場から排除しようというわけだ。
これに必要なのは、莫大な金銭と信頼だ。奴らには金と権力はあるが、信頼はない。だから、地方豪族もよほどの破滅主義でもなければ、私達の話に乗るはずだ。
「大将、相変わらず、恐ろしいことを考えるな……」
そう呆れてくれるなよ。これなら利益を最大化できるのだ。
通常なら地方豪族たちも領地経営に部外者から口を出されることを嫌うはず。例え、門閥貴族共の勢力の減弱を謳っても説得は難しかろう。
だが、債権者と債務者の関係なら話は別。私の言を素直に聞くはずだ。
そして、各領地での領民の間での富の爆発が起きれば、その利益は筆頭商人である私の利益にもなる。何せ特許はその使用につき金銭が発生するわけだしな。同時に、門閥貴族共や通商連合の勢力を相対的に弱体化させることにもつながる。まさに一石二鳥だろうさ。
「どうだろう? 賛同はもらえるだろうか?」
「もちろんだ。それが利益になるのなら」
ジュドに皆も次々に賛同の意を表明してくる。
「では、既に問題が起きている領地を調査し、その領主へのコンタクトを取って交渉にあたってくれ」
「「「「「はっ!!」」」」」」
私の指示に幹部達は一斉に立ち上がり、胸に手を当てる。
こうして、我が商会の各領地への介入は開始された。
お読みいただきありがとうございます。
来週あたりから、週2回のペースに戻ります。
あと、人物紹介は今作っている最中です。遅れてしまい本当に申し訳ありません。




