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第10話 魔法行使障害原因の解消と新たな難題


 次の日の早朝、私がGクラスの敷地へ足を運ぶと、殊勝なことに四人は既に来ていた。

さて四人には一般的な魔法行使の障害となる原因があったわけだが、昨日でどれほど解消されたのかを確認していきたい。

 昨日、訓練所での【火球ファイアーボール】の指導を通じて、近眼だったミアの魔法コントロールの不能の克服を確認した。問題は他の三人だが、確認するまでもないのが一人いるな。

 目の下に大きなクマを造りながら、子供のように頬をほころばせつつも、鞄を抱えてさっきから色を点滅させているテレサに視線を固定する。まさか、一睡もせずにしていたのだろうか。


『スタンダードモードだよぉ。できるかなぁ?』

「うん! 頑張るよ!」


 テレサの奴、鞄と会話しているよ。そのテレサの痛すぎる姿に、隣のミアがドン引きしていた。

 それにしてもスタンダードモードは相当難関だぞ。とてもじゃないが昨日の今日でできるとは思えないのだが……。


『2、いってみよう!』

「はい、2!」


 鞄が一瞬で赤く染まる。


『できたねぇ。じゃあ、1、4、9、一気に行ってみよぅ!』

「1! 4! 9!!」


 鞄がゆっくりと数字を叫び、鞄の色もそれに応じて黒、黄、紫へと変わっていく。


『最後が、1、8、5、7、6、10、4、3、2、3、8、2、9だよぉ。出来たらメッチャ凄ぃぃ!!』

「1! 8! 5! 7! 6! 10! 4! 3! 2! 3! 8! 2! 9!!」


鞄の色が目まぐるしく変遷していく。


『全問正解! マーベラスッ!! 貴方には魔法少女の称号を与えましょう』

「やったぁ!!」


 ぴょんぴょん飛び上がってはしゃぎまくるテレサ。


「マジかよ……」

 

 呆れ半分、驚嘆が半分という心境だ。【スタンダードモード】は、一応、スタンダードと銘打ってはいるが、一人前の魔法師に必要とする魔力制御能力を基準としている。

 つまり、たった一日で魔法の発動すらできぬポンコツ少女が一人前の魔法師と同等の制御能力を身に着けたことを意味する。


(子供の集中力には毎度驚かされるな)

『ほんまに。ボインボインなんやけどなぁ』


 そんなムラの見当外れのしょうもない感嘆の言葉を完全スルーする。

ともあれ、テレサは条件クリアか。あとはこの二人だが……。

 テレサから顔を右に向けると、暗い笑みを浮かべ俯き気味にブツブツ呟いているクリフと、立ったまま熟睡しているプルートが視界に入る。

 クリフに関しては血走った両眼に、右顔面の皮膚がピクピクと痙攣していた。


「クラマ」

「主よ、お呼びでしょうか?」


 突如現れるちょび髭紳士の姿を一目見ただけで、クリフから忽ち血の気が引き、姿勢を正すと、ガクガクと全身を小刻みに震えだす。


「クリフは、魔法を無事発動し得たか?」

「はい。問題なく」

「そうか。ご苦労さん」

「御意」


 胸に手を当てて優雅に一礼すると、スーとその姿を消失させる。

 悪魔の姿が気配もろとも消失した途端、クリフは両膝を付くと、大きく息を吐き出し、地面に数回嘔吐する。引くくらい怯えているな。クラマの奴、一体クリフに何をしたんだ?


(……まあ、どうでもいいか)


 触らぬ神に祟りなしともいうしな。むしろ、問題が解決したのなら、喜ぶべきだな。うん、きっとそうだ。

 自分にそう言い聞かせ、十数年一気に老けたかのようなくたびれた表情で、立ちながら眠っているプルートに視線を移す。この衰弱具合から察するに、ロシュの奴、開発チームに加わりたい一心でプルートに徹夜で教授したな。

 

「おい、プルート、【炎舞(フレイムロンド)】を使ってみろ」

「……」


 爆睡したまま返答すらしないプルート。


「おいっ!!」

「……」


 億劫そうに僅かに右目を開けて、大きな欠伸をすると再度、瞼を固く閉じようとする。


「寝るなら、せめて【炎舞(フレイムロンド)】を使ってからにしろっ!」

「……すぅ」


 寝息を立てながらも、


「¨輝き燃える赤き炎よ、我が力に従い、炎舞を踊れ¨」


 と器用にも詠唱する。

 突如、炎の球体が生じ、それらはベッドを形作っていく。そしてその煉獄のベッドへ抱かれんと、夢遊病のごとくフラフラと近づいていくプルート。

 阿呆か! 大地が真っ赤に発熱しているし、相当な熱量だ。限界突破はしたようだが、あんなものに身を投げれば、忽ち火達磨だろう。


「馬鹿者っ!! トーストになりたいかっ!」


 すんでのところでプルートを押さえつけると、そのまま完璧に眠ってしまった。

 この調子では、プルートが今日授業を受けるのは不可能。そしてそれは今も地面に大の字に熟睡しているテレサも同じ。クリフは別の意味で限界だろう。本日は自習にでもして本格的な授業は明日からにするしかあるまい。


「ご苦労だったな。今日は寮に帰って寝ろ! スパイ、プルートとテレサを寮へ連れて行ってやれ。丁重にな」

「は!」


 いずこから現れたスパイが二人を担いで姿を消す。クリフも私の授業終了宣言により、ゾンビのように生気を失った顔で、フラフラと帰路へついてしまった。

 残されたのは金髪幼女ミアのみ。


「本日の授業は終わりだ。お前も帰って休め」

 

 休めるときには十分な休息をとるべきだ。

 実のところ、四人の魔法行使の障害の原因の排除には相当な時間がかかると踏んでいた。

正直この第一課題(ミッション)自体クリアできるとは私は思っていない。この課題(ミッション)は終了時点で全員がいくつかの魔法を制限なく使えるようになっていれば御の字。そんな立ち位置に過ぎない。いわば次の真の課題(ミッション)に進むためのステップなのだ。


「時間を無駄にしたくない。教えて欲しいの」


 時間を無駄にしたくないか。確かに彼女の言にも一理ある。

 次の彼女に必要なのは壁。立ち塞がる聳え立つ高い壁に、挑戦者達は深い絶望と挫折感を覚える。そしてその苦難という名の壁を四苦八苦して乗り越えたとき、本人に本当の意味での自信がつくのだ。

 つまり、適度な挫折感(フラストレーション)は、人の成長には必要不可欠なものなのである。

 どの道、彼女達にはたっぷりの絶望感を味わってもらわなければならない。本人が望むならそれを前倒ししても構わない。


「いいだろう。他の三人も午後には復活しているだろうし、本日の授業の内容は君が彼らに教えたまえ」

「わかったの」


 口を堅く結んで、大きく頷くミアに私は生活魔法に分類される三つの魔法の教授を開始した。

一つが、土属性の中位魔法――【粘土細工】。土や石などの土壌の成分を自在に操れる魔法。慣れればかなり精巧な石像を作ったり、石のタイルや壁を作ることが可能。

 二つ目が、風属性の中位魔法――【風の彫刻刀】。その名の通り、風の細かい刃により、樹木を細かく切っていく魔法。

 三つ目、水の中位魔法――【強化水ボンド】。表面に塗って乾かせば石や木材を強化させ、乾く前にくっ付ければ、凄まじい付着力を有する水を生成する。

 これらは私が魔導書の検索で見つけた新種の魔法。当然、魔導学院の授業で教えているはずもなく、まさに彼女にとって未知の魔法というわけ。

 当然――。

 滝のような汗を流しつつも、ミアは地面に蹲り、


「できないの……」


 敗北の言葉を喉から絞り出す。


「そのようだな」


 それはそうだ。これは必要不可欠な極めて難解な課題なのだから。

 彼女達には、この授業を通して魔法とは才能などではなくただの学問だという事実をその魂に刻んでもらう。

 世には個人の努力だけでは乗り越えられぬ限界がある分野が存在することは否定しない。だが、これだけは誓ってもいいが学問にはそうした制限が事実上ない。老若男女、貧富、人種を問わず、いかなる者も特定の分野における中心命題(セントラルドグマ)へと至る可能性を秘めている。

 限界を認識しているものとしていないもの。いずれの伸び代が高いかなど考えるまでもなかろう。これはいずれ決定的で絶望的なアドバンテージとして顕在化してくる。


「次行くの!」


 やる気を振り絞り、魔法を発動しようとするミアを、


「いや、本日の授業はこれで終わりにする」


 右手で制し、終了の宣言をする。


「なぜ!?」


 相当、あせっているな。まあ、彼女の置かれている状況を鑑みればむしろ、当然の反応か。


「これ以上は無意味だからだ」

「それじゃあ、意味がわからないの!」

「わからないなら考えろ。それができなければ君に未来はない」


 私のいつになく冷たい言葉に、悔しそうな顔で歯を食いしばるミア。

 とまあ、そうは言ったがヒントくらい与えるべきだな。こんな時のために書き留めて置いたレジュメがあったし、あとで寮に届けよう。

 トボトボと歩く彼女の小さな背中を見送りながら、私はストラヘイムへ転移した。


お読みいただきありがとうございます。


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