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身体は児童、中身はおっさんの成り上がり冒険記  作者: 力水
第二章 受験とラドル解放戦編
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第54話 最悪の真相 青髭


 闇中混濁


「また振り出しに戻ってしまいましたよぉ!」


 ようやく目的が達成できると思ったのに、一気に遠ざかる。そのあまりの理不尽に、暗闇の中、「畜生っ!」と天へ向けて怒鳴っていた。

 あの小生意気な餓鬼を初めて見つけたとき、最高の素材が手に入ると思った。

あの人(・・・)に【羅生門】という異能を植え付けられてから、【青髭】はその目的達成を夢見て、ただ我武者羅に最強の鬼を降ろすための方法を模索してきたのだ。

【羅生門】は、次の三つの段階で制御されている。

一つ、【血魂布】により他者の魂と肉体を鬼に変化させ、【鬼憑依】により天然の鬼を召喚、憑依させる。さらに繰り出した鬼は、保管場所である【鬼城】という複数の異空間に保管可能となるのだ。

【鬼憑依】により憑依できる天然の鬼の強度は、器となる【血魂布】により鬼化した人造の鬼により左右される。同時に、素材となる人間の魂と肉体が良質なほどより強力な人造の鬼が製造可能となるのだ。

あの餓鬼の強度は今までの素材の原住民共を圧倒していた。

さらに、その魂の持ち主が絶望や憤怒、憎悪などの負の感情を覚えて鬼化するほど人造の鬼の強度は増す。まさに、あの小僧は至上の鬼の器たりえる。そのはずだったのに、リーマンとかいう原住民の愚かな行為により、肉体を失ってしまった。

ここで、【血魂布】により創られる人造の鬼には、遠隔操作しうるタイプと、肉体をそのまま乗っ取る寄生タイプがある。

遠隔操作のタイプは、相性は大して問題とはならないのに対し、肉体を乗っ取る寄生タイプは、【青髭】の魂を直接鬼化した個体に注入するため、魂相互間に極めて高い相性がなければならない。故に寄生タイプは、対象個体を見つけるのが著しく難しいという問題はあるが、その分、身体を自在に変化できる。

もっともさっきのように、中核である心臓が潰されると簡単に滅びてしまう。故に普段、【青髭】は心臓の形態を紐状(ひもじょう)にして収納している。こうしておけば仮に攻撃を受けても、その位置を咄嗟(とっさ)にずらすことで肉体が滅びることがないからだ。

 さっき、本来の肉体の魂であるリーマンが一時的に青髭の支配を退け、喉にあった急所を突いて自滅してしまったのだ。

 今、肉体を持たぬ【青髭】は、この寄生タイプの肉体がなければ現世で行動し得ない。現世に顕現できなければ、この暗い闇の中で永遠に浮遊せざるをえなくなる。それは死と大差ない。

 だから、【青髭】はアムルゼス王国内に常に複数、肉体のストックを用意してある。


「あと二体、残しておいて本当によかったです」


新たな肉体に寄生し、命令を遂行するとしよう。


「あれ? ならこっちは?」


 あるはずの二つの肉体に入ることができない。

 一時的な接続上の障害だろうか。こんなの今まで一度もなかったのだが……。


――無理だよ。


 咄嗟(とっさ)に顔上げると、【青髭】の前に数人が(たたず)んでいる気配がする。

その全員の上半身には真っ白な濃い霧がかかっており、顔までは判然(はんぜん)としない。


「お前達は誰ですかっ!?」


 一人の男が、一歩前に出ると、


 ――つれないな。忘れたのか? お前に散々(さんざん)(なぶ)られ異形の怪物化された者だよ。


 どういうことだ? ここはいわば、【青髭】の心の中、いわば、心象世界のようなものだ。他人が干渉できる筋合いのものでは断じてない。ましてや、鬼化した魂など論外中の論外。絶対にありえない。


――お前の二つのストックの肉体は最強の冒険者シーザーが滅している。


「どうやって? それ以前に、この世界の下等な原住民が私のストックを殺せるはずがないっ!」


 こんなこともあろうかと入念に隠蔽(いんぺい)していたのだ。それに仮に正面切って戦っても【青髭】渾身(こんしん)の創作物が、この世界の原住民に遅れをとるとは思えなかった。


――哀れだな……。


相変わらずその顔は見えない。なのに、今奴らがどんな表情をしているのか、朧げに理解できてしまっていた。それがどうしても許せず、


「たかが実験動物の分際で私を憐れむなっ!」


怒声を上げていた。


――異世界の下等生物。そうとでも信じなければ、やってられなかったんだろう?


 その声には怒り、憎しみ、その他一切の負の感情が感じられず、代わりに強烈な憐憫の情があった。


「だから、その気持ち悪い声を止めろぉ!」


その哀れみの言葉は、どんな罵声よりも、【青髭】に最後に残された人としての心を(えぐ)り、ぐちゃぐちゃに引き裂いていく。

 当然だ。だって――だって、それは――。


 ――俺達はお前と同じ人間だよ。一人、一人に心があり、分かり合える。


「違う! お前達は低能で、愚かで、無力な家畜だっ!」


 この世界の家畜共と理解しえる? 認めない……絶対にそれだけは認めないぃ!


 ――そうだよな。理解し合うということは、互いの存在と価値を認めるに等しい。お前が必死で自己正当化していた思い込みは、通用しなくなる。


「黙れ! 黙れ! 黙れぇ!!」


 【青髭】が叫べば、叫ぶほど今まで抑え込んできた堪えようのない感情が、胸の底から湧き上がってくるのを自覚する。


 ――俺達もこの場所に招待されるまでは、お前を理解できるとは微塵も思っていなかった。ただの心のない怪物としか見られなかった。


 これ以上聞けば、二度と前に進めない。そんな気がする。


 ――だけど、今は違うよ。お前にも守りたいものがあったんだなぁ……。


「口を(つぐ)めっ!」


 ――たとえ、この世界の全てを犠牲にしたとしても。


「やめろぉぉぉっ!」


 ――もう俺達はお前を憎んではいない。お前の気持ちに痛いほど共感してしまったから。今は彼女と同じ気持ちさ。


「かの……じょ?」

 

 頭が混乱する。こいつらが鬼化した魂なら、なぜここまで穏やかでいられる? 憎悪に塗りつぶされ、罵詈雑言をぶつけてこない?


 ――答え合わせだよ、シアン・アオバ。あとは彼女に任せる。


「貴様、なぜ私の名を――」


 疑問の言葉は、


(兄ちゃん)


 背後から聞こえる懐かしい声により妨げられる。


「嘘だ……」

 

 それは、【青髭】こと青葉髯安(あおばしあん)が最も待ち望んだ声。

 肩越しに振り返ると、ずっと会いたかった髯安(シアン)のたった一人の肉親がいつもの優しい微笑みを浮かべて立っていた。


(ありがとう。でも、カンナはもういいの)


「待つのですっ! もう少しで至高の鬼の器ができる! そうすれば、お前を治してやれるっ!!」


 そうでなければならない。元はといえば、シアンが好奇心であの場所に足を踏み入れたのが原因なのだから。

 あの全てが死に絶えた場所で、地に伏す栞奈(かんな)を抱きしめ泣くシアンにあの人は、『条件が成就すれば、必ず彼女は目を覚ます』、そう断言してくれたのだから。


(それは絶対に無理)


大きく首を振るカンナ。


「なぜ!? もうすぐ最高の鬼が――」


(だって、カンナの肉体はとっくの昔に死んでるもの)


「死ん……でる?」


 その言葉の意味が頭に入ってこず、口でただ反芻していた。


(実際は、もっとひどいことになってるけど)


 栞奈(かんな)は、左の人差し指で頬をポリポリと掻き、寂しそうな笑みを浮かべる。


「どういうことですっ!?」


 聞いてはいけない。それは理解しているのに、口は疑問の言葉を紡いでいた。


(あの日、カンナは鬼に襲われた。それはいいよね?)


「あ、ああ……」


 栞奈(かんな)は鬼神とかいう存在に憑依され、急速に生命力を吸い取られてしまっていた。このままでは死を待つのみ。そこで、あの人は栞奈(かんな)の肉体と魂を一時的に強制休眠状態にした上で、【羅生門】という異能をシアンに授けた。

【羅生門】を得たことにより、鬼神という怪物との意思の疎通も可能となり、鬼神の器となる人造鬼の製造に成功した暁には、栞奈(かんな)の肉体から出ていくとの確約を得た。

以来、鬼神と共に、この世界の現住民を使って、鬼神の器にたりる人造の鬼を作り続けたのだ。


(カンナの肉体に鬼神が臨時的に憑依した。それは真実よ。でもその時、もうカンナは人間じゃなくなってたんだ。そう。お兄ちゃんがあの人達にしたように――鬼となっていた)


 カンナの声が妙に遠く聞こえる。


「そんなわけありますかっ! 私は瀕死のお前の傷がいやされる奇跡をこの目で直にみているっ!」


(ううん。そうじゃない。カンナの傷が癒えたのはあの食人鬼の憑依により、鬼化したから。そもそも、あの惨殺現場を目にしたカンナを傷つけたのは、あいつらだし!)


「嘘だぁっ!!」


 そんなはずはない。あの人(・・・)は、死ぬしかなかった栞奈(かんな)を一時的とはいえ助けてくれた。【青髭】として【英雄楽土】という組織に迎え入れ、様々な協力をしてくれた恩人中の恩人なのだ。あの人(・・・)が、そんなことするはずがない。


(嘘じゃない。真実だよ)


「フハッ! フハハッ! そうか、わかりましたぞぉ! お前はあの小僧の作り出した幻覚か何かですねぇ!?」


 そうに決まってる。そうじゃなければ、あまりに滑稽過ぎるじゃないか!


(ごめんね、兄ちゃん)


 だが、カンナは、シアンの言葉に肯定も否定もせずにただ悲しそうに俯く。


「本当……なのです……か?」


 コクンと顎を引くカンナを視界に入れ、今まで根底にあった土台がガラガラと崩れ落ち始めるのを自覚する。

たった一人の、命より大切な妹なのだ。その仕草を見れば本人であることは最初から知っていたんだと思う。シアンはただ信じたくなかっただけだ。


「ふざける……な。今まで何のため私は――」


 痺れるような虚無感に目の前が真っ暗になり、両膝をつき、両手で顔を覆う。


(ある人のおかげで、今私はこの姿で動けるようになったの。何もできないけど、夢の中で思いを伝えることはできる)


「私の器を滅ぼしたのも?」


(うん、これ以上、カンナのせいで、兄ちゃんにあんなひどいことして欲しくなかったから)


「ははっ……そうか、とっくの昔に終わっていたのですねぇ」


 意外にも自身の顔に現れたのは、泣き顔でも怒りでもなく乾ききった笑みだけだった。


(まだ終わってないよ。理由は見当もつかないけど、カンナの鬼の器とあの下種鬼の魂が急速に馴染み始めてる。もうじき下種鬼が目覚めるの。カンナ達兄妹には阻止する義務がある。そうでしょう?)


「カンナ、本当に君は変わりませんねぇ」


ああ、そうさ。どこまでもまっすぐで、どんな悲劇にも決してへこたれない。カンナは昔からそういう奴だった。


(兄ちゃん、カンナ――)


「わかっていますよ。私は何をすればいいのです?」


 今更己の行為により、許されるとは思っちゃいないし、この世界の者達への贖罪のためなどという殊勝な心は持ち合わせていない。あくまで、カンナの解放のためだ。


(ここからは僕が説明しよう)


 眼前には、一人の男が悪質な笑みを顔一杯に漲らせながらも佇んでいた。

 二股の帽子にぶかぶかの白と赤のツートンカラーの衣服に、顔への独特の化粧。サーカスにでてくる道化(ピエロ)だろうか。


「お前は、誰です?」


 このタイミングだ。十中八九、カンナを動けるようにした者だろう。


(僕はグリード。初めに断っておくけど、この世界では僕はただの思念に過ぎないから、現実世界には一切の干渉はできないんであしからず)


「それで?」


(惜しいねぇ。運を味方につけたとはいえ、あの彼(・・・)をあそこまで追い詰めるという偉業を成した。これは他の誰にもできないことだよ。道を誤らなければ、僕らの側にいてもおかしくなかったのに)


「私は何をすればいいのです?」


 もうくだらない話に興味はない。だから精一杯、力を籠めて発言を促す。


「せっかちな子だねぇ」

「……」


 無言になったシアンに肩を竦めると、グリードは姿勢を正す。どうやらようやく本題のようだ。


(まず前提条件。どうやら【羅生門】の中で鬼の魂が突然変異を起こしたらしくてね、拒絶反応を示していたカンナちゃんとの器との融合が進んでいる。おそらく、これは止められない)


「止められない?」


だったら現世に影響を及ぼせない今のシアンには打つ手がない。


(そう。彼の魔力に影響でもされたんだと思う。まったく、益々もって化け物染みてきたよね)


「早く本題に入ってほしいのですがっ!」


(はーいはい。えーとね、今、眠っている彼を起こして来て欲しいんだよ)


「あの小僧を起こす?」


 話の流れから言って彼とはあの小僧だろう。


(そういうこと。寝坊助な彼が起きれば、きっとこの場を収めてくれる)


 小僧の異常性は、実際に戦ったシアンの方がよほど熟知している。

 あの子供の容姿に似つかわしくない言動に思考力、そして異常というほかない戦闘能力。

一度目の会合では、奴の不思議な力に手も足も出ずに嬲られる一方だった。

 二度目の会合では、偶々小僧が力を失っているという事情があり捕縛できたが、仮に小僧が万全ならシアン程度では何度やっても軽くあしらわれていたことだろう。

 あの小僧は好きになれない。あのやけに尊大でいかなる事態にも動揺しない態度も、有言実行してしまう能力も全てイライラさせられる。だけど、その実力だけは信じることができていた。

それに迷うことなどない。今ここにいるカンナは自身を本来の魂の残り粕といった。つまり、カンナはまだ解放されていないのだから。


「どうやって起こすんです?」


(生贄にするんだよぉ)


「生贄?」


 グリードは悪趣味な笑みを顔一杯に浮かべて、


(うん、君の魂をさぁ)


 そういい放った。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 途中までは凄く面白くて心惹かれていたのに、最近は全然面白くない。特にルチアとかイライラする [一言] 評価を付けさせて頂くなら、最初は5だったけども今は3かなぁ。勿論好みは人それぞれで…
[一言] コミック版から来ましたけど、なんだかなー 設定を盛り込みすぎてて、エピソードを描き切れていなくて、読者が置いてけぼり、作者さん独走! という感じかなー
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