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くじらの唄  作者: 音夢
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15. お隣√男女+幼馴染=付き合う?

レポートも無事終わり締め切りよりも早く教授に提出することができたと喜んでいる友2人がうらめ……じゃない、ウラヤマシイ。

オレ達が選んでいる一般教養科目は論理学、今のAI主流の時代に考える力を身に着ける科目として一番人気でもあるが、教授も人気の一つである。

 

有坂裕也教授ありさか ゆうやをこの大学で知らない人はいない程の有名人だ。

毎日黒皮のライダースパンツとジャケット、中にはピッチリとした白いシャツに赤いスカーフを首に巻き、かっちりとしたリーゼントヘアをしている。


あとから調べて知ったのだがリーゼントは頭のトサカみたいにもっこりしている部分ではなく、サイドを後ろに流した部分の事を言うらしい。

あのトサカis何・・・?


そんな変わり者の有坂教授の授業はとても面白く興味深い内容が多い。

「嘘をつくのは悪い事だと子供は教わる。しかし、カントは嘘をついて真実を隠す事は倫理学的に悪であると言う。

では、誕生日サプライズをするのに嘘をついてニセのスケジュールを伝えた人は悪なのか?」


不肖、田中太郎(19歳)野球部坊主頭は、この考え方を元にすると何度も嘘をついた最低最悪の男になるなと思った。

好きな子と一緒に帰ってみたくて真逆の方向なのに嘘をついて遠回りしてみたり。

姉のプリンを食べてしまったのを食べてないと嘘をついたり。

夕飯のから揚げをみんなより2つ多く食べたのを1つだけと嘘をついたり。


グループディスカッションでは、様々な意見が飛び交っている中、オレのダチであるもーりぃが発言する。神守だからもーりぃなのだ。

「嘘にも種類があると思うんだ、誰かを守るための嘘なのか、自分を守るための嘘なのか。その本質によって変わってくるんじゃないかな」


おぉぅ、めっちゃインテリ発言するじゃん。君いつも脳筋なのに。

挙手するもう一人の友、神楽がゆっくりと手を動かしみなホログラムパネルやレンズを見る。もーりぃだけは彼女をしっかりと見ている。


『誰が傷つくのかでも善悪が変わってしまうと思うの。

AがBを守るためについた嘘でCが傷つく事もある、その場合CはAを悪者と認識するかもしれないが、Bにとっては善者になる。嘘によって悪となるのは受取手の感情が大きいのかなって思うの。』


インテリカップルなの?目の前の二人がとても眩しくて前がよく見えない。


「人の認識とはこの個人がリアルタイムに経験したこと、本やインターネットなどによる感覚で経験した物事を当てはめて考える生き物である。」

「故に各々がどのように経験し、物事を受け止めてきたのかによって、善悪が変わるものであるのではないか。とワタシは思う。」と有坂教授が締めくくって講義が終わった。

 

いつものように、食堂でお昼を3人で食べていた時に、オレは発言しなかったが遠回りやプリンの話を2人に話した。

大概は田中のギャグ話!で終わる。

だが、この2人だけは「あるよねぇ、自分たちはねこう思ったことあってね」と目のまえの人に向き合った話を返してくれるのでそういう考え方もあるのかと話していて楽しいんだよなぁ。


そういえば、二人とも5歳からの幼馴染なんだろ?もう付き合って長いのか?と何となく聞いてみる。


もーりぃはすすっていたラーメンを吹き出しそうに、神楽はワンテンポ遅れて文字が表示された後に顔を赤くして慌てふためいて手を動かした。同時にサンドイッチの中身がにゅっと飛び出す、厚焼きたまごサンドか。


―つきあう だなんて わたしたち おさななじみだから! おさななじみ!―


と最後の動きで厚焼きたまご様がマッシュされた。

しかも、横のインテリ脳筋ヤロウもブンブン縦にヘドバンしている。

 

ほぉーん……?

つまり両想いなのに、お互い気が付いてないやーつ?

カレーを食べる。

オレ甘口頼んだっけ?中辛だった気がしたんだけどなぁ。

あ、七味がある1瓶入れちゃえ☆

パクッあまーい。


「ハハハ、オレ、ねーちゃん達の少女漫画読んで幼馴染ってそういうもんだって当てはめちゃってすまんなぁ。でも二人すげー信頼してる夫婦みたいなカップルの感じしたからいいなと思ってさ。」


二人が夫婦という単語に反応して顔が赤くなり目は泳ぎまくってる。

そ、そそそそんな、ねぇ?みたいな顔して二人で手動かしてる。

空気があまーい。

あ、デスソースある入れちゃえ☆

パクッ、世知辛ーい。ウッ…………!!クソガッ!!机に突っ伏すオレ。


「ぬお!田中大丈夫か!てかデスソース?!目と唇真っ赤だぞ?!牛乳買ってくる!待ってろ!」そう言い残してもーりぃはダッシュで自販機にいく。


神楽は水を取りにいってくれている。

とてもいい友人達と出会えて田中太郎は幸せである。

ただ、ちょっぴりハートと唇と胃が痛いぐすん。オレも彼女ほしい。

ちなみに夜にはオレのケツもスパイシーにブロークンした。


この清々しいほどに真っすぐな二人を友として見守り支えたいなと思う。 


* * *

 

「田中!! 左からくるぞ!!」

 

「もーりぃ!右に曲がった所、防災扉を下すパネルがあったからおろせ!俺が止める!神楽はもーりぃのとこから援護してくれ!」

 

「よく覚えてるな?!てか、お前も閉じ込められるだろ!!」

 

「一度通った道!を!覚えるのは得意なんだよっ!」

 

バキィィン!!

バットを振る。


キュンッパシュッ

神楽の矢がとどめを刺した。


「高選で盗塁決めまくった俺の足をしんじろおおおおおおろせえええ!!」


ブンッ

バァァァン!!

キュンッバシュ

 

「絶対こいよ!!!!くそ!!!」

 

二人が勢いよく扉まで走ってパネルを開きバーに手をかける

「田中ぁぁあああ!はしれええええええ!!!!」

ガコンっ


太郎!やればできる子!うおおおおおお!!!

もうあと3分の1しかスペースがない……!


オレは頭から滑り込むようにダイブして飛び込んだ。


ガシャン!!!!バンッバンッ


「「ま、まにあった~……」」

 

コクコクと力強くうなづく詩音。

 

「さんきゅ~もーりぃ~……あと言い忘れてたけど俺3回戦敗退なんだ……」

 

「お前すげーギャンブラーだな……」

 

支えたいとは言ったがどうしてこうなったのやら。

無機質な天井を仰ぎながらため息をついた。

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