第3章 第5話 バレー以外の主人公
〇日向
「さっき話してた子たち知り合い?」
夕飯時になり、次第に客足も落ち着いてきたころ。小休憩がてらバックヤードに戻ると、おそらく同じ目的の店長がひーに話しかけてきた。
「はい。バレー部の後輩ですよ。あと……知り合い? と、知らない人たち」
雰囲気的にかんちゃんのお友だちか。紗茎の人たちもいたし、あの五人は同中なのかな。だとすると五人ってところから見るに『金断の伍』ってやつなのだろう。きららん並にでかい子もいたし、あの小さな子もどこかただ者じゃない雰囲気を漂わせていた。大半の時間は幸せそうに笑ってたけど。
「少し騒がしかったですよね。あとで注意しておきます」
店長の手前一応こう言ったけど、もちろん注意なんてするつもりはない。そんなひーの性格をわかってか、店長は小さく笑った。
「いいっていいって。かわいい子たちがいると売上も上がるしねー」
なにかの資料をパラパラとめくり、仕事してる雰囲気を出す店長。こういう適当なところがあるからここは居心地がいい。
「それよりシフト希望見たよ? あんなに入れちゃって大丈夫? そろそろ試合なんじゃないの?」
と思ったら触れられたくない話。学生時代は部活すごいがんばってたって言ってたし、たぶん心配してくれているのだろう。
「あー……大丈夫ですよ」
でも言っちゃ悪いけどありがた迷惑だ。ひーとみんなとじゃ価値観が違う。ひーは何の疑問も抱かず部活に打ち込むなんてできないし、やりたいとも思わない。
「ひーの代わりはいるんで」
一応。本当に一応、現在ひーはレギュラーだ。身長が普通にあるせいで、毎日部活に来ているリリーを差し置いて試合に出られる。
でもひーは試合に出たいわけじゃない。もちろん出られるならうれしいけど、がんばっている人が報われる方がもっとうれしい。
もしかしたらひーがサボることでリリーがレギュラーに繰り上がるかもしれない。別にそのために部活に行かないわけじゃないけど。
「ふーん。まぁ調整はできるからさ。何かあったら言ってよ」
「はーい」
さて、区切りがついたしそろそろ仕事に戻ろう。これ以上話してたら部活大好き店長の反感を買っちゃいそうだし。
うん、今日も完璧対応。後輩をいじったけどラインは超えてないし、店長ともめんどうな話で丸く収められた。
でもきららんとかんちゃんの同級生たちにはちょっと印象が悪かったかな。今度きららんになんか奢ってあげよう。知らない人たちは別にいいや。話すことはないだろうし。
んー。今日もいい日だったなぁ。
明日も気楽に、適当に、誰より楽しく生きていこう。




