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つなガール!  作者: 松竹梅竹松
第2章 讃美歌パフォーミング
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第2章 第19話 行進曲・二匹のスズメバチ

〇環奈



「ここが紗茎学園……」


 目の前にいる建物の数々を見て梨々花先輩が口を開く。


「でかーい!」


 歓迎会を開いた日の週末。あたしたちは紗茎学園高等学校へと足を運んでいた。


「いやー……初練習試合がこんな強豪校なんてな……少し緊張してきた」


 校舎を見上げてそうつぶやく一ノ瀬さんの顔が珍しく強張っている。


「初って……今年度に入ってもう三カ月が経つというのに何をしていたんですの……?」

「いえ。ボクたちが花美に入って初の練習試合という意味よ。他校との繋がりなんてないし、こんな弱小校と試合しても何の練習にもならないでしょうからね」


「マジですの……」

「でもこれは花美にとって大きな一歩。きっかけを作ってくれた環奈さんに感謝ね」


 先日の歓迎会の最中突然来たメッセージ。それは飛龍からの練習試合のお誘いだった。


 どうやら飛龍たちの偵察はただ単に練習を観に来たのではなく、あたしたちが練習試合をするに値するかの視察だったらしい。結局嘘だったんじゃん。


「それはいいけどさー、これどうすんの?」


 建物をずっと眺めていた日向さんがつまんなそうに口を開いた。あたしたちがいるのは守衛室の前。五分以上校門前で待機してるんだからそういう反応にもなるだろう。


「んーそろそろだと思うんですけど」

 一応到着の数分前に飛龍に連絡は入れたからそろそろ迎えに来てくれるはず。


「もう入っちゃえば?」

「駄目ですよ。ここの警備員さん馬鹿みたいに頭固いんで」


 飛龍から来たメッセージの内容は主に二つ。週末に練習試合をしないかということと、顧問を連れてこないでほしいということ。


 理由を聞いてもはぐらかされるばかりで教えてくれないし、実際徳永先生に内緒で来たんだから勝手なことはできない。


「おーい、環奈ちゃーんっ」


 スマホを無駄に点けて催促してる風を見せていると、あたしの名前を呼ぶ声が学内から聞こえてきた。


「ひっさしぶりーっ」

「――双蜂(そうほう)


 バレーボーラーとしては比較的小柄な少女が躍るように駆け、あたしに抱きついてきた。


「……離れてよ」

「なんで? 昔はよくこうしてたじゃん」


 あたしは見上げながら睨みつけるが、双蜂は快活な笑顔を見せるばかりで放そうとしない。


「なんでって……言ったでしょ? あたしはあんたたちを許さないって」

「あーまだあんなこと気にしてるんだ。でも大丈夫、ぼくは気にしてないからっ」


「だぁぁーっ、はなせっ」

「あははっ、これでどうだーっ」


 相変わらずの無神経さに本気で暴れようとするが、脇に手を入れられて簡単に持ち上げられてしまった。


「めんどうな環奈ちゃんにはぐるぐるの刑だーっ!」

「ちょっ、振り回すなっ、パンツッ、パンツ見えるからっ」

「こらっ、やめなさい音羽(おとは)っ」


 あたしがぐるぐる振り回されていると、それを止める幼げな声があたしの右……いや左? とにかく横から誰かが止めてくれた。


「ちぇっ」

「わっ」


 双蜂が急に放したことであたしの身体から背中から地面に落ちていく。でも誰かがあたしを受け止めてくれたのでなんとか事なきをえた


「大丈夫? 環奈ちゃん」

「梨々花先輩……梨々花せんぱーいっ」


 あたしを抱きしめて助けてくれたのはなんとあの梨々花先輩っ。さすがは最高のレシーバー! ほんと大好きっ。


「ごめんねっ、うちの音羽が暴れて……」

「いや大丈夫ですっ、梨々花先輩が助けてくれたんでっ。むしろありがとうございましたっ」

「……なんか変わったね、環奈ちゃん」


 ん? あたしのこと知ってる? ていうか誰が双蜂を止めてくれたんだろう。


「わっ、天音(あまね)ちゃんっ」

「ひさしぶりっ、環奈ちゃんっ」


 名残惜しくも梨々花先輩の温もりから離れ、あたしは天音ちゃんの手を取った。


「うわー、いつぶり!? ごめんね最近連絡しなくてっ」

「ううんっ、そっちの学校でちゃんと友だちできてるみたいでむしろ安心したっ。今日は来てくれてありがとねっ」


 三カ月ぶりの再会に二人とも意味もなく飛び跳ねてしまう。うわ、ほんとにうれしいっ。


「環奈さんって紗茎の方全員に塩対応ってわけじゃないんですね」

「環奈さんが怒っているのは同期と後輩の数人くらいですわ。これが素の環奈さんですわよ」


 あ、後ろできららと新世がしゃべってる。そうだ、挨拶させないと。


「はじめまして、花美高校女子バレーボール部部長の一ノ瀬朝陽です。今日はお招きいただきありがとうございます」


 と思っていると朝陽さんが天音ちゃんに手を差し出していた。さすがは部長、こういうところはちゃんとしている。


「はじめまして。紗茎学園高等部女子バレーボール部二年の双蜂天音(そうほうあまね)です。こちらこそ本日は遠いところわざわざ足を運んでいただきありがとうございます」


 それに対して天音ちゃんも手を握ることで挨拶をした。


「それとこっちは……」

「紗茎学園中等部女子バレーボール部三年、双蜂音羽(そうほうおとは)ですっ、天音おねえちゃんの妹なんだっ、よろしくねっ」


 天音ちゃんはしっかりした挨拶を見せたというのに双蜂はえらくラフだ。


「こら音羽っ、他校の先輩だよっ。ちゃんと挨拶して」

「えー別にいいじゃん。それにその条件なら環奈ちゃんも怒ってよね」


「環奈ちゃんはお友だちでしょっ。……ほんとすいません、うちの音羽が自由で……でも悪気はないんですっ。……そこが問題というかなんというか……」

「いや、うちも似たような奴いるんでお構いなく。な、日向」

「ひーはちゃんとする時はちゃんとするよ。……それはそれとして、なんで中学生がここに?」


 ちゃんとすると言った割に日向さんは触れちゃいけないことに気にせず触れた。しかもたぶん意図的に。


 でもそう思うのは仕方ない。これじゃあお前たちの相手なんて中学生で十分だと言っていると捉えられてもおかしくない。


「えーと……そこら辺は後で説明させてもらいます。……それより今日は顧問の方不在でお願いしたんですけど守っていただけました?」


 ……挨拶の次にその確認だなんてよっぽど重要なんだ。一体なんでそんな条件を……?


「まぁ一応言われた通りにはしましたよ。でも万が一事故でもあったらめんどうなんで保護者を連れてきました」

「……どうも」


 朝陽さんの挨拶で前に出てきたのは、半ば無理矢理連れてきた小内さん。朝陽さんの言う通り有事の際に大人の存在は不可欠。そこで歓迎会の日に一緒にいた小内さんに同行を頼んだのだ。


「なんであーしが……」

「小内さんが自分でオッケーしたんスよ。文句は言わせないッスから」

「ほんとなんでオーケーしたかなあーし……全然覚えてないんだけど」


 確かに小内さん自身が了承したけど、覚えてないのも無理はない。あの日小内さんベロベロに酔ってたんだもん。まぁそれを知っててお願いしたんだけど。


「一応学校関係者じゃないんでいいですか?」

「それなら特に問題は……。それより小内さんお久しぶりです、わたしのこと覚えてますか?」


「え? 天音ちゃん知り合い?」

「うん。ていうか環奈ちゃんたちも……」


「そんなんどうでもいいでしょ。ほら、迎えが来たならさっさと行くよ」


 なにか天音ちゃんが不可解なことを口にしたけど、小内さんがわざと遮って学内に入っていこうとする。


「あ、そうですね。それじゃあみなさん……」


 天音ちゃんは前に駆け出して腕を広げ、


「ようこそ、紗茎学園へ。バレー部有志一同、歓迎いたします」


 意味深なことを口にした。

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