22 意外な事実と、納得の展開に途惑う噺
目を閉じて頭を撫でられるのに癒しを覚え、黙って母性を受け入れていたウイックだったが、その異変に気付き、頭を上げようとすると、頭蓋を鷲掴みにされ、乱暴に髪をくしゃくしゃにされる。
「って、何すんだマーニー!」
「おお、これはスマン、スマン」
軽く相手を突き出し、驚きの表情を浮かべるウイックは、よく知った胸の弾力の持ち主を前に言葉を失う。
「なんだ、もう撫でさせてくれんのか?」
「あ、あれは撫でるとは言わんわ。何しに来たんだよセレーヌ」
この空間に飛ばされて、最初に係わった始祖の魔王は、不敵な笑みを浮かべる。
「なに、お前に一つ教えてやろうと思ってな」
「わざわざ出てきて? 頭に語りかければいいだろう」
ここまで進行役(?)だった妖艶の魔女が現れ、メダリオンについての新しい情報を教えてくれた。
「ティーファ=ベルビアンカ=ラクシュバームを覚えているか?」
「メルティアンの女王だな。忘れるわけねぇだろ。まだ会ってそんなに経っちゃいない」
お子様女王は、実は年上で、かなりの精霊力を一度に扱える精霊界の重鎮。
「ティーファ=ベルビアンカ=ラクシュバームはお主の、メダリオンの烙印が落ちた。それを報せようとな」
一体どういう事か? 烙印落ち? それはつまり……。
「お主の想像通りよ。かの女王はお主への興味を示さなくなった。絆が途切れたという事だな」
メルティアンの郷の危機を救った事で、外の世界の話を渇望する女王は、並々ならぬ秘術の使い手として、ウイックに強い関心を抱いていたが、それも時間と共に薄れていった。
メダリオンが彼の国の宝として扱われていたから、“操体の秘術”をティーファに施し、烙印が刻めた事で安心していたが、心の繋がりが重要な術式は、その効力を持続するためにも、絆を繋ぎ留めておく必要があるようだ。
「かの秘宝が盗まれた事も、刻印を忘れる理由の一つとなったのであろうな」
「盗まれた?」
在処が判明しているメダリオンの数は八つ、そう思っていた。
「勘がいいな。あの竜人の娘に使ったそれが、精霊界ラムーシュの女王が持っておった物よ。盗んだのがあの仮面の男かどうかは、妾にも分からんがな」
本当にずっと見ていたんだな。情報をもらえるのは有り難い。
お陰でこの空間でも、迷うことなく話を進める事ができている。
「なぁ、メダリオンは一体俺達の旅の、何に関わっているんだ?」
「そいつを答えてやる事はできん。妾が分かるのは、妾が関わりを持った物についてのみだ。確かに烙印の乙女として刻印は刻まれたが、それだけでは神話の秘宝の、全てを知る事には繋がらんのだ」
だからあの鳥像が作り出したこの空間で、実はメダリオンがここを制していることも、魔女には分かっていない。
「そうか、ありがとうよ。何となくだが、ここでの行動に、間違いはなかったって事は分かったぜ」
とにかく認識を改める必要はある。現所在が判明しているメダリオンは七つ、セイラの刻印の打たれたメダリオンを持つのはエルラム、それ以外は手元にある。
これは出来過ぎと思えるほどの成果と言える。
「さて、こうしてまた、ここに来られたのだ。今度こそ妾の望みを!」
勇み足で学校の制服に着替える魔女様は、「なぜだぁ!?」というセリフを最後に姿を消した。
そして代わりに姿を見せたのはイシュリー、その二人がいるのは、王立図書館のように、いっぱいの本に囲まれた空間。
建物の壁はこの空間で何度か見た、石造りの建物の外壁と同じ質感をしている。
それに図書館にしては妙な事に、同じ本がいくつも並んでおり、平らな棚にも幾重に同じ物が積み上げられている。
「そうか、ここは本を売っている店なんだな」
ウイックもイシュリーも冒険には向かない軽装で、恐らくは二人だってこの場所に本を買いに来たと言ったところか。
「ウイックさん、あそこですよ」
イシュリーは自分の両腕をウイックの左腕に絡ませて、二人は寄り添い、一つの本棚に歩み寄る。
「これですよ。探し物は」
そう言って渡してくれたのは結婚情報誌。
どうやらここでのシナリオは、二人が結婚の準備を進めているカップルである設定のようだ。
こうして結婚に関する情報を示した本を買いに来るという事は、恐らくはプロボーズをウイックがしたというのだろう。
「それがイシュリーの望みか……、そうだよな。イシュリーはずっと、そう言ってるもんな」
しかしそうなると、この展開は既にイシュリーの望みは、叶ったことにはなっていないのか?
場面は変わり、白の燕尾服に袖を通すウイック。
場所は教会だ。
壁の質感から、やはり大海洋界とは違うようだが、こういった場所は似たような作りとなるのだろう。
ウイックの隣には純白のドレス姿、イシュリーはウエディングドレスを着ていた。
戸惑いはウイックをその場から逃走させた。




