21 妹と思っていた少女に抱く新たな感情の噺
「どうしたの、ウイック?」
差し出した手を取ったのは、水着姿のマニエル。
大海洋界にも大衆用のプールというのはある。
しかし見渡せばここの施設は、異国文化漂う、いや今までの経緯を考えればこれも多次元の遊技場なのだろう。
「ウイック?」
自分の手を取り動かない彼を心配して、立ち上がるマニエルが顔を近付ける。
「ああ、わりぃな。ちょっと頭の整理をしてたんだ」
マニエルの雰囲気も少し違和感を感じる。恐らくは何らかの設定が働いているのだろうが。
「へへっ、でも嬉しいな。ウイックがちゃんと、二人がつき合いだした記念日を覚えていて、遊びに誘ってくれたの」
ここでは二人は恋人同士、記念日でプールに来ていると言う事。
今までの流れを見てきて気付いた事がある。
シナリオがあり、本人の預かり知れない力で流される世界ではあるが、彼女達の本音を元にストーリーは流れている。
「ほーら、泳ご」
長い髪をポニーテールに括って、白いビキニ姿ではしゃぐマニエルがウイックの手を引き、プールに向かおうとする彼女は足を滑らせ転び掛け。
「アブナイだろ。気をつけねぇと」
危うく後頭部を打ち付けるところを、ウイックが見掛けに似合わない力強さで、マニエルをお姫様だっこで助ける。
「えへっ、怒られちゃったけど、得しちゃったな。ウイック力持ち」
マニエルとは兄妹として育っただけあって、子供の頃からいろんな遊びを体験してきたが、如何にも恋人と言ったイベントは初めて、テンションの上がる彼女は水の中でも大はしゃぎ。
言葉を交わさずとも彼女の考えている事は分かっている。
このイベントを全力で過ごせば、満足できるはず。
その際少しでも妹扱いしたらゲームオーバーとなる。
「ねぇ! あれ、一緒に飲も」
売店を見つけたマニエルが、一つのカップに二本のストローが刺されたカップル仕様。
「流石に照れくせぇな。こういうの人前でやれるヤツの頭の中を見てみてぇな」
「えぇー、いいじゃない。周りも人の事なんて気にしてないって」
「でもこんなもん、兄妹でするこっちゃねぇだろ」
NGワードと知りながら、油断はあった。
今までは選択し意外で、禁止ワードがあれば口にする事はおろか、考える事もなかったのに、自然と吐いた言葉が、二人の空気を凍らせた。
「またそれ言う? もういい! 怒った!! だったら今すぐHOTEL行こう。抱いてくれるまで今日は絶対帰らないからね」
スイッチの入ったマニエルは強引にウイックの手を引っ張る。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと待て、落ち着けって」
「いつもいつまでも何なのよ!? 私がウイック好きって言ってるの、冗談だとでも思ってた? そう言っていたらそのうち諦めるとでも?」
涙いっぱいで、力一杯に訴えてくる。
実のところウイックはもうとっくに、マニエルを一人の女の子としか見えていない。
それを言葉にして認める事が一番怖いのだ。
(怖い……、何がだ?)
その何かが分からないから、真剣に向き合う事ができないのだ。
「分かってるよ。自分の所為で私が竜になっちゃったの、未だに気にしてんでしょ。私は感謝してんだよ。確かに子供の頃は悩んだし泣いちゃったけど、今はこうして一緒に冒険できてるのが嬉しい」
確かにそれもある。ほとんどがそれと言ってもいい。
けどその他になにか、その何かが気に掛かっているが自覚がなく、こうして彼女に竜人化のことは気にするなと言われても、感情をコントロールすることができない。
「女の子として、魅力を感じないって言われるならしょうがないよ。でも妹だからって理由はもう嫌なの」
ここは本音で語り合う空間、同じような事は言われ続けているが、こんなに強く押し込まれるのは、何かが作用しての事だろう。
「分かった。俺が今出せる答えを包み隠さず出すぞ。一度しか言わないからな、黙って最後まで聞いていてくれ」
「うん」
またも景色は消えて白の空間に、水着姿だった二人はいつもの恰好に。
「俺はとっくにただの妹だなんて思ってないよ。俺の問題が片づけば、多分お前もそういった対象に思えるんじゃないかと考えている」
「うん」
そう言ってもらえただけで今は満足なのだけど、ウイックの言葉は終わっていない。
恐らくはマイナスな意見が被せられるんだろう予測のマニエルは、静かに目を閉じた。
「俺な、マーニー……、俺はやっぱりお前は工房に帰って欲しいと思っている」
いつもならここで間髪入れずに反論するが、唇をグッと引き絞って、最後まで無言で耳を肩受ける。
「それとは逆に、本気で一緒に付いて来て欲しい俺もいるんだ」
もしかしたらまだ終わっていないのかも知れないが、今の言葉を聞かされて黙ってはいられない。
「だったら一緒にいる。ウイックはみんなを護る。私達はウイックを護ってあげる」
マニエルは両手を広げてウイックに抱きつき、初めて感じる母性を全身で表現し、頭も抱える。
何故か穏やかになる心、頭を抱えられるのがこんなに心地よいなんて、子供の頃に母にしてもらった思い出を蘇らせるまで、忘れていた感覚であった。




