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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
97/192

20 状況に慣れてきて、意外と楽しんでいる秘術士の噺

 セイラは帝都で一部の高官が着ているようなスーツ姿。それはウイックも同じだった。


 アンテと違うのは最初、二人で向き合って大声を上げた瞬間から、セイラはシナリオに飲まれていき、雑踏の中で抱き合うシーンが続いた。


「大丈夫か? 弱いくせに強い酒を飲み過ぎなんだよ」


 本当のウイックは経験のない飲酒、それはセイラも同じなのだが、感じた事のないほろ酔い気分が心地よい。


「先輩、次行きますよ。今夜は帰しませんからね」


 千鳥足で一人で立ってもいられないのに、セイラはウイックを先導しようと前に。


「ほら、アブナイだろ!? もう今日は帰った方がいいぞ。送っていってやるから大人しく帰りなさい」


 またおかしな口調で何を言っているのか、自分でも分からない状態でシナリオを受け入れ、ウイックはセイラを肩で抱えた。


「送ってくれるんですか? 先輩は優しいなぁ~」


 質の悪い酔っぱらいは、支えられた肩を基点に180度回転し、ウイックの頭を抱え込む。


「だぁ、もう鬱陶しい。大人しく真っ直ぐ歩け」


「はぁ~い、私の家は結構近くなんですよ」


 そう言って指差した石の建物は、宮殿よりも高く、光の護符を存分に使用した明るさに包まれており、看板にはHOTELの文字、これも光を放っている。


「ここ? な訳ないだろ」


「ダメ、私もう歩けませ~ん」


 確かに彼女の自宅がどこかは分からないが、このハイテンションガールを連れ歩くのは骨に思える。


「休憩していくか」

「おぅ!」


 二人は風変わりなベッドルームに入り、ウイックはセイラをベッドに寝かせようとしたが、風呂に入らないと眠れないというので、冷たい水を飲ませてから、シャワールームに連れて行った。


「一緒に入りません?」


「少しは酔いも醒めたようじゃないか。さっさと入ってこい」


 今回のシナリオはなかなかに凝っている。

 ただ何故かいつまで経っても選択しにたどり着かない。


 ここに来てセレーヌの声は聞いてない。


「先輩……」


 シャワーを浴び、タオルで髪の雫を拭いながらベッドに来たセイラは、恐らくはその大きめのバスタオル一枚しか纏っていないのだろう。


 透き通るような白い肌を少し朱に染めて、ウイックに並んで腰を掛ける。


 ウイックに近付き、少し赤味を増しただろうか、顔も腕も、足の先まで蒸気を纏っているようだ。


 これもこの空間の特性なのだろう。


 人魚であるはずの彼女の足も、人種ひとしゅと同じ質感の肌になっている。


「こんな所に連れ込んで、何する気ですか?」


「ここに来たのはお前の意志だろう。しかしそんな恰好で減らず口が叩けるなら、もう酔いも冷めてきたな。さぁ、帰ろうか」


 立ち上がろうとするウイックの手を掴むセイラ。


「お話、聞いてもらってもいいですか?」


 ふざけた雰囲気は全くない、真剣な眼差し。


「分かったよ。その前に風邪引かないように服着ろ」


「ああ、ご心配してもらってありがとうございます。服は今、洗濯乾燥機の中で回ってます」


 目のやり場に困る? ウイックは良くも悪くも女体に耐性があるから、そのままでも構わないと言えば言えなくもないが、理性という物が抑えられている内に、サクッと話を聞いてやる必要がある。


「先輩って上京してもう二年以上になるんですよね」


「そうだな。そんな物かな」


 実家は町工場をしていて、地元で生活するのも悪くはなかったが、自分の能力を活かすには家を出る方がいいと、母親にも勧められて上京した。


「私も実家を出たいなって、思ってて、この出張終わっても、帰りたくないなって、勤務地の移動願い出したんですけど」


「なんだ、一人暮らしなら、地元でもできるだろうに」


「それじゃあダメなんです。親の手元から離れないとダメなんです」


 何か込み入った事情がありそうだ。しかしそれを聞くのは今ではない。


「そうか、来週はもう長期出張も終わって帰るんだな。でももし移動願いが受理されれば、いやセイラは優秀だからな、もしかしたらすぐにでも、本社で一緒に仕事できるようになるかもな」


 新しいプロジェクトのリーダーとなったウイックの、ご当地協力スタッフとして出向してきていたセイラ、プロジェクトスタートの目処が立ち、支社との作業はひとまず終了、出向社員のセイラも一度地元に戻る事となる。


 しかし本社のある、この街での生活に憧れを抱いていた彼女は、この数ヶ月で気持ちを固めてしまった。自分も上京がしたいと。


「先輩の部屋、転がり込んでいいですか?」


 来た、これがこのシナリオの選択肢だ。

 この話を本当の彼女に照らし合わせる。


 セイラはあの海底都市を出たがっている。しかも遠く離れた新世界、人魚にとっては地上での生活が、憧れであったのだろう。


 そして冒険をするウイックの所に来る事を望む、つまりは色んな世界を見て回りたいのだろう。


 ウイックはまた立ち上がり、手を差し伸べる。


「この件を俺達だけで決める事はできないけど、そうだな、協力はしてもいいぞ。今は個人的にって話だけどな」


 セイラも笑顔で手を伸ばし、歪む空間、薄暗かった室内は、やたらと明るいプールサイドに、そして手を伸ばすのは……。

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