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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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19 秘術士と錬金術師の秘密の花園での噺

 アンテが現れたかと思うと、また空間は入れ替わり、またも温泉露天風呂、二人は裸というシチュエーションにチェンジした。


 自分の姿に驚き、前を隠して湯船に肩まで浸かるアンテ。


 ウイックもアンテの隣に腰を降ろし、欲望のままに手を動かす。


「ねぇ、ウイック……」


「うん?」


「僕は別にいいんだけどさ。君って……」


 ウイックは手を止めるとほんの少し後ろに下がって、アンテに向き直る。


「お前よく触れるな」


「ごめん、半分は興味あったからで、半分は確認の為」


 顔を向けあってはいるが、目を合わせる事はできない。


「やっぱりそうだよね。女の子の体に興味持ってるのに、性欲がないなんてことないよね」


 アンテが自分の右手を見つめながら、言葉を選びながら口を開く。


「その、どうして君は、自分が望む事をしないの? 僕もイシュリーも、多分マニエルも、君がしたい事を受け入れられる。イシュリーは特に、それを望んでいるんだし」


 ウイックの言い訳はアストラルボディーである事。


 イシュリーの望みを叶えてやる事はできない。そう言っていた。


「そうか、君はイシュリーの事があるから、僕たちの事も平等にしたいんだね」


 アンテは自分なりの答えを導き出し、ウイックの心の内を案じる。


 そうするとまた空間は移り変わり、アンテは身を隠す必要がなくなる。


「ここなんだろ? なんか楽しい場所だね。いろんな乗り物いっぱいだね」


 二人は知らない。


 いや、彼らの世界には存在しない場所、ウイックの頭の中に響く声が教えてくれる。


「ここ、別次元の遊戯施設で遊園地って言うそうだ。ここの乗り物は、五感に刺激を与える事で、興奮状態を楽しむもんらしい」


 セリーヌは今の状況も覗き見をしているようだ。


「ねぇ、ねぇ、ねぇ、あのなんかゴウっていってるの、あれに乗ってみたい」


 いつものツナギではない、もっと動きやすそうなシャツにスカート姿のアンテは大はしゃぎ。


 同じように薄手のシャツと、柔らかい生地のパンツルックをしたウイックが後から付いていく。


「へぇ、ジェットコースターって言うのか。で、君のその情報源はどこからの物だい?」 アンテへの隠し事は、昔からできた試しがない。


素直にセレーヌの事を言い、アンテは思考を巡らせる。


「そうか、僕はあの洞窟で直ぐに君の手を掴んだつもりだったけど、君の中での優先順位はそうではなかったんだね」


「誰かを優先した覚えはないぞ」


「そうだね。相手が魔女様なら、君の意志なんて関係ないかもね。或いはこの時間に何か意味があるのかも」


 ジェットコースターの急制動にも動じず、アンテは話を続ける。


「それでここは□の□って、魔女様は言ったんだよね。君にメダリオンと“烙印の乙女”? セレーヌ様が名付け親だね。僕達との絆の形を見極める空間がここって事なんだ」


 高いところから一気に落とされるフリーホール、大きな船が振り子になって揺られるバイキング、どれも聞いた事のない名前の絶叫系アトラクションを次々と攻略していく。


「そうか、烙印の乙女、いいんじゃない」


 ウイックには聞き取れなかった□の□という言葉を、何故か彼は言葉にする事ができ、アンテも聞き取る事ができた。


 ただそれでも秘術士は、やはり禁止ワードを理解する事はできなかった。


「愛を試されるかぁ、そいつは僕も専門外だ。けどこうして君と遊ぶのはとても楽しいよ」


 魔女セレーヌの時とは少し違う。自分の言いたい事は、自分で選ばないといけない。


 小さい頃は川で釣りをして、野山を走り回り、喉が渇けば、野生の果物を口にした。


「俺はずっと楽しかったよ。こういった今までにない遊びもいいけど、お前が色んな知恵をくれたから、何をやっても楽しかった」


「なら、僕の事を選んでくれる?」


 それは呼び水、ウイックの放ったキーワードに反応するように、アンテが潤んだ瞳で、観覧車の狭い密室で迫り寄る。


「僕ならずっと、君の疑問に答えを出してあげられる」


 その目を見ていれば分かる。


 これはセリーヌの時と同じ、シナリオに沿って、ウイックは選択を迫られ、自らの意志で答えを導き出さないといけない。


 観覧車は一番高い位置にたどり着く。


 二つの影が重なり合う。


 アンテが覆い被さるようにウイックの両肩を抑え、ゆっくりと唇を重ねる。


「ふふっ、マーニーのを見てて、ずっと羨ましかったんだ。ごめんね強引にしちゃって」


「いや、それはいいんだ。その……俺もそう言う気分になる事はあるから」


「そうか、やっぱりウイックは自分を抑えてきてたんだねずっと、それでも“操体そうたいの秘術”は使わないといけないから、お触りだけはやめられなかった。なんならエッチだって最後までしてくれていいのに」


 大切な親友が、大事な異性に変わる瞬間。

 ウイックは目を逸らした。


「これはアンテの意志なのか? それともこれもシナリオってヤツの所為なのか?」


 一線を越える事はできない。


 何より今すぐ答えを出す事なんて有り得ない。


 ウイックはアンテを一度強く抱きしめて、耳元で囁いた。


「すまねぇ、俺はまだこの空間には早過ぎたみてぇだ。なにより俺には成し遂げなけりゃなんねぇ事がある。メダリオンの……烙印の乙女の力を借りるのに必要な事だってんなら、まどろっこしい事は止めてくれ」


 一体誰に向けた言葉なのか?


 アンテの体はウイックの胸の中から消え、代わりにセイラの事をしっかりと抱きかかえていて、お互いにとっていきなりの展開に、二人は同時に大きな声を上げた。


 今、二人が立っているのは夜の大都会。


 町を照らしているのは月や星の明かりではない。


 とてつもない騒音と、人々が行き交う喧噪に包まれた、石の建物が建ち並ぶ世界だった。

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