18 魔女再び、新たな展開でレクチャーを受ける噺
「くそ、また別の場所に飛ばされたのか?」
深海にいたはずが、気付けば潜水服も着ていない、いつものローブ姿で隣には……。
「また魔門界に来たのか?」
誰の手を最後に掴んだのかは、確認できなかったが、あの場には間違いなくいなかった始祖の魔王と手を繋いでいる。
「ここがどこかを知りたいのか?」
「分かるのか?」
「そうだな。ここは例えるなら□の□、□の□□といったところだな」
セレーヌは全てを理解しているようなのだが、その説明は肝心なところが抜けていて、聞き取る事ができない。
「そうか、それもしかたないな。簡単に言えば別の次元という事だ」
「全く簡単じゃあねぇな。よく分からんが別世界という事だな」
「世界の違いだけではないのだがな。まぁいい。それでだ」
妖艶の魔女は、それこそ全てを納得の上でこの場にいるようだが、核心に触れる問いは聞き取れなくなるようだし、どう質問をすればいいのかも分からない。
「そうだな。まぁ、慌てるな。この場が何かなどはさしたる問題ではない。ここで試されるのは、お主の心だ」
ここへ来る前にマニエルに施した烙印。
そしてここに魔女セレーヌが現れた理由。
「俺の心、メダリオンとあいつ等の事か」
メダリオンは大魔王をウイックとの絆として認め、ここへ呼び寄せた。
「そうさな。我ら烙印の乙女にさぁ、お主よ。妾に愛の形を示すが良い」
また目の前が歪み、曖昧な淡い白の空間は、何かの建物の中へと場面を移した。
「ここは?」
「学校だな」
規則正しく並べられた椅子と机、大きな窓がたくさんあり、大きな黒い壁が二カ所にある。
「なんか学問所みたいだな」
「そうだよ。ここは学問を学ぶ場なの」
「セレーヌ、なにその喋り方。なんか変だよ。って、俺も!?」
普段より少し畏まった物言いに、意識してもしなくても、なんともくすぐったい思いだが、逆らう事はできなさそうだ。それに……。
「なんか変わった衣装だよね。軽くて動きやすいけど、こんなので防御力あるのかな?」
「ふふふっ、学校で防御力は必要ないよ。ウイック」
頭に思い描いたとおりに言葉は出てるけど、一体誰の喋り方だよと言う違和感が気持ち悪いが、セレーヌに関してはこれも悪くないと、受け入れるのに抵抗はない。
「それで結局なにをすればいいんだろう?」
「決まってるじゃない。この場所でこの恰好、学園ラブコメよ」
「なにそれ?」
セレーヌが言うには、二人で芝居を、エチュードをするというのが、ここでのルールらしい。
「つまりここでは相手の望みを叶えていくのが、俺に課せられるミッションという訳なんだね」
設定はクラスメイト、出会いはこの春の入学式で。
出会いから直ぐに仲良くなり、楽しい学園生活を送っていた。
決まっているのはここまで、お題は恋愛。
後は自由にウイックの持つ、セレーヌへの想いを示せばいいと言う話。
「立ち話も何だし、座ろうよ」
魔女はすっかり楽しんでいるが、何がどうなっているのか?
促されるままに並んで椅子に座り、しばしの談笑。
実のところさっきからのおかしな喋り方同様。
最初は自由だったのに、喋る内容も自分の意志とは関係なく、口からこぼれ落ちるようになった。
つまりは不安だらけではあるが、成り行き任せに自分も傍観者でいられる様なので、暫くは静観する事にした。
窓の外からは様々な喧噪が聞こえてくる。
部活動で汗を流す、男子生徒達のかけ声。耳を澄ませば感じられる多くの楽器の演奏。
人の気配は感じるのに、ここには他に誰もいない二人だけの空間。
ムードは十分。見つめ合って、そしてしばし続く無言の時。
(あれ? 頭に何も浮かばなくなったぞ? もしかして自分で考えねぇといけねぇのか?)
ウイックは小首を傾げる。見ればセレーヌは少し憂いを帯びた目をしている。
(さて、どんな会話の流れだったかだ? 最初は他愛のない話、それから昨日のテレビの話題。って、よく分からんがペラペラよく喋って、……そうだ! 俺の好きな女の子のタイプを聞かれたんだっけ? それには……ちょうどセレーヌみたいなイメージなんだと調子いい事を言ったな。そんでもって、そっちからも俺が気になる相手だみたいな流れになって……)
そして今だ。この目には覚えがある。
普段からことある毎に、特にイシュリーから向けられる目。求められているのは愛の形。
「ねぇ、黙ってないで教えて」
いくらシナリオ通りに進んでいるとは言え、これはエチュード。ここからはフリー演技。つまり思いの丈をぶつければいい。
だがウイックは役者でも何でもない。ならば出せる答えも限られてくる。
「俺、俺は……」
「おや? もう時間か、なんだ残念だの妾のターンはこれまでのようだ」
「へっ?」
見ればあの教室の風景はなく、最初の白く淡い空間に逆戻りしている。
「全く、お主がもたもた考え込んでいるからだぞ」
着物も元に戻っている。
「しかし、そう言ったところもお主らしいがな」
さっきまで頭に浮かんでいたおかしな言葉も、どこかに消えてしまった。
「つまりここはそう言った場所だ。お主はこれからメダリオンに印を刻まれし者達と、お主の心について考えなくてはならん」
魔女は満足そうな顔をしている。
「誠に楽しかったぞ。お主のその顔が見られて満足した。だが皆は妾のように理解してはおらんからな。お主がリードしてやるのだぞ」
セレーヌがウイックの手を取る。
そうすると目の前はまた歪み、今度はアンテが現れた。
「あれ、ウイック? 僕が掴んだのは君の手だったんだ」
どうやらこうして、メダリオンの数だけ次元を渡り歩かなければならないようだ。
セレーヌは最後にこう言葉を溢した。「ありのままのお主を示せ」と。




