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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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18 魔女再び、新たな展開でレクチャーを受ける噺

「くそ、また別の場所に飛ばされたのか?」


 深海にいたはずが、気付けば潜水服も着ていない、いつものローブ姿で隣には……。


「また魔門界に来たのか?」


 誰の手を最後に掴んだのかは、確認できなかったが、あの場には間違いなくいなかった始祖の魔王と手を繋いでいる。


「ここがどこかを知りたいのか?」


「分かるのか?」


「そうだな。ここは例えるなら□の□、□の□□といったところだな」


 セレーヌは全てを理解しているようなのだが、その説明は肝心なところが抜けていて、聞き取る事ができない。


「そうか、それもしかたないな。簡単に言えば別の次元という事だ」


「全く簡単じゃあねぇな。よく分からんが別世界という事だな」


「世界の違いだけではないのだがな。まぁいい。それでだ」


 妖艶の魔女は、それこそ全てを納得の上でこの場にいるようだが、核心に触れる問いは聞き取れなくなるようだし、どう質問をすればいいのかも分からない。


「そうだな。まぁ、慌てるな。この場が何かなどはさしたる問題ではない。ここで試されるのは、お主の心だ」


 ここへ来る前にマニエルに施した烙印。

 そしてここに魔女セレーヌが現れた理由。


「俺の心、メダリオンとあいつ等の事か」


 メダリオンは大魔王をウイックとの絆として認め、ここへ呼び寄せた。


「そうさな。我ら烙印の乙女にさぁ、お主よ。妾に愛の形を示すが良い」


 また目の前が歪み、曖昧な淡い白の空間は、何かの建物の中へと場面を移した。


「ここは?」


「学校だな」


 規則正しく並べられた椅子と机、大きな窓がたくさんあり、大きな黒い壁が二カ所にある。


「なんか学問所みたいだな」


「そうだよ。ここは学問を学ぶ場なの」


「セレーヌ、なにその喋り方。なんか変だよ。って、俺も!?」


 普段より少し畏まった物言いに、意識してもしなくても、なんともくすぐったい思いだが、逆らう事はできなさそうだ。それに……。


「なんか変わった衣装だよね。軽くて動きやすいけど、こんなので防御力あるのかな?」


「ふふふっ、学校で防御力は必要ないよ。ウイック」


 頭に思い描いたとおりに言葉は出てるけど、一体誰の喋り方だよと言う違和感が気持ち悪いが、セレーヌに関してはこれも悪くないと、受け入れるのに抵抗はない。


「それで結局なにをすればいいんだろう?」


「決まってるじゃない。この場所でこの恰好、学園ラブコメよ」


「なにそれ?」


 セレーヌが言うには、二人で芝居を、エチュードをするというのが、ここでのルールらしい。


「つまりここでは相手の望みを叶えていくのが、俺に課せられるミッションという訳なんだね」


 設定はクラスメイト、出会いはこの春の入学式で。


 出会いから直ぐに仲良くなり、楽しい学園生活を送っていた。


 決まっているのはここまで、お題は恋愛。


 後は自由にウイックの持つ、セレーヌへの想いを示せばいいと言う話。


「立ち話も何だし、座ろうよ」


 魔女はすっかり楽しんでいるが、何がどうなっているのか?


 促されるままに並んで椅子に座り、しばしの談笑。


 実のところさっきからのおかしな喋り方同様。


 最初は自由だったのに、喋る内容も自分の意志とは関係なく、口からこぼれ落ちるようになった。


 つまりは不安だらけではあるが、成り行き任せに自分も傍観者でいられる様なので、暫くは静観する事にした。


 窓の外からは様々な喧噪が聞こえてくる。


 部活動で汗を流す、男子生徒達のかけ声。耳を澄ませば感じられる多くの楽器の演奏。


 人の気配は感じるのに、ここには他に誰もいない二人だけの空間。


 ムードは十分。見つめ合って、そしてしばし続く無言の時。


(あれ? 頭に何も浮かばなくなったぞ? もしかして自分で考えねぇといけねぇのか?)


 ウイックは小首を傾げる。見ればセレーヌは少し憂いを帯びた目をしている。


(さて、どんな会話の流れだったかだ? 最初は他愛のない話、それから昨日のテレビの話題。って、よく分からんがペラペラよく喋って、……そうだ! 俺の好きな女の子のタイプを聞かれたんだっけ? それには……ちょうどセレーヌみたいなイメージなんだと調子いい事を言ったな。そんでもって、そっちからも俺が気になる相手だみたいな流れになって……)


 そして今だ。この目には覚えがある。


 普段からことある毎に、特にイシュリーから向けられる目。求められているのは愛の形。


「ねぇ、黙ってないで教えて」


 いくらシナリオ通りに進んでいるとは言え、これはエチュード。ここからはフリー演技。つまり思いの丈をぶつければいい。


 だがウイックは役者でも何でもない。ならば出せる答えも限られてくる。


「俺、俺は……」


「おや? もう時間か、なんだ残念だの妾のターンはこれまでのようだ」

「へっ?」


 見ればあの教室の風景はなく、最初の白く淡い空間に逆戻りしている。


「全く、お主がもたもた考え込んでいるからだぞ」


 着物も元に戻っている。


「しかし、そう言ったところもお主らしいがな」


 さっきまで頭に浮かんでいたおかしな言葉も、どこかに消えてしまった。


「つまりここはそう言った場所だ。お主はこれからメダリオンに印を刻まれし者達と、お主の心について考えなくてはならん」


 魔女は満足そうな顔をしている。


「誠に楽しかったぞ。お主のその顔が見られて満足した。だが皆は妾のように理解してはおらんからな。お主がリードしてやるのだぞ」


 セレーヌがウイックの手を取る。


 そうすると目の前はまた歪み、今度はアンテが現れた。


「あれ、ウイック? 僕が掴んだのは君の手だったんだ」


 どうやらこうして、メダリオンの数だけ次元を渡り歩かなければならないようだ。


 セレーヌは最後にこう言葉を溢した。「ありのままのお主を示せ」と。

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