17 「謎のマスク男の導きのままに、危険に立ち向かう噺
ここの塒に住み着く魚人のメスが卵を産むのに、必ず使われると言う洞窟。
魚人のメスは、一度卵を産むと死んでしまう為、ここには生まれたばかりの赤ん坊以外は、誰も寄りつかない場所。
メスが現れないという異変が起こらなければ、オスが来る事などない洞窟。
そうでなければ、こんなに簡単に聖樹が発見される事はなかっただろう。
「間違いありませんね。“不老の聖樹”ですの。では聖樹の効果を無効化しますね。これで成長の止まっていた魚人の方々も元通り、時間が進み始めると思いますよ」
今回の戦後、生き残った魚人の数は、元々この塒にいたのと変わりない数だと後に判明する。
しかも年若い魚人が、どうやら増えたようだと喜んでいた。
程なくして、メスの出現となるだろう。
『これで一件落着か?』
魚人が抱えていた問題は、確かに解決された。
これでミルのグレートソードの修復が完了すれば、この海底からも脱出できる。
ウイックは地上の空気が恋しくて、思わず潜水帽の中で深呼吸をした。
『げほげほげほっ』
『大丈夫ですか? ウイックさん』
隣にいたイシュリーが優しく背中をさすってくれる。
お返しに彼女の胸を撫でる。厚手のグローブ、厚手の潜水服ではほとんど感触もないのだが、イシュリーは満面の笑み。
近頃同行者が増え、先々で出会う少女が多くなるに連れ、スキンシップが減っていたので嬉しいようだ。
『やれやれ、やっと来てくれたか』
洞窟の中を調べるか否か、相談を始める一同の前に、そいつは静かに近寄ってきた。
口籠もって聞こえるが、ウイック達のような潜水帽で遮られているようではない、恐らくそのマスクが阻害してのことだろう。
『お前が首謀者か?』
容疑者の登場で、ここで幕引きにはできない事を思い出し、男性声のマスクマンに敵意を向ける。
『何を持って首謀者というのか? 俺は実行犯ではあるが、それは俺の手元に都合のいい物が揃ったからであって、今回の事を考えたのは俺だが、俺が動機をもって、行動しているわけではない』
何か抽象的に誤魔化しているようで、こちらの質問に端的には答えてくる。
こいつはタダの使いだ。
だからと言って、他に手掛かりがないのだから、どうにか情報を聞き出さなければならない。
『俺が命令を受けたのは、お前達をこの奥の空間に、どうにかして向かわせる事のみだ』
怪しい男は、どう言う意図で語っているのかは計り知れないが、自ら情報を提示する事で、こちらを誘導しようといているようだ。
『この奥に何がある?』
『行ってみれば分かる話だ』
ウイックとのやり取りの中、投げてきた物を受け取ると、それは驚くべき、本物のメダリオンだった。
『これをやるから先に進めと?』
『そんなつもりではない。興味がなければ帰ればいいだけのことだ。だが進むというのなら、そこの竜娘に使ってやるといい』
どうやら主導権を取り戻すのは無理なようだ。
『これ、もう引けなくなっているんじゃあねぇか』
『そうね、いつもの私達なら、行くしかないわね』
もちろんウイックの考えは決まっている。
だが現状この場の決定権は、やはり皇女殿下にあると考えるべきだが……。
『良いのではないか? メダリオンが関係すると言われれば、私は蚊帳の外に追いやられるのが残念だがな』
この即断力が吉と出るか凶と出るかは分からないが、一同はマスク男を捕獲し、亀甲船に監禁した。
男の懐にあったマーカーも取り上げた。
そして一度潜水服を脱いで、マニエルに“操体の秘術”を施し、再度魚人の産卵洞窟へ向かう。
ここでもう一人、意思を確認しなくてはならない少女がいる。
「もちろん私にも、見に行く権利があるということよね」
セイラは自らの意志で同行を願い。
「なぜ? ワタクシがとは思いますが、いいですよ。探し物は済みましたので、お供いたします」
ここにいるメダリオンの烙印を押された少女は6人。
全てがウイックと共に先へと進む。
『なにかあるね。神話時代の遺物、秘宝で間違いないと思うよ』
いち早く遺物に気付いたのはイシュリーだった。
呼ばれて、調べ始めるアンテは、それが何なのかまでは分からないが、マスクの男が見せたかったのは、これではないかと判断する。
『確かにこれ以上は奥に進めないな。潮の流れはあるが、俺達が通れる隙間はねぇからな』
そこにあったのは奇妙な胸像。
どこかの国で見た事があるような、宗教の象徴にされている鳥人の像。
それが秘めているのは、奇妙なマナの流れ。
『こいつをどうすればいいんだ?』
『待ってウイック、不用意に触れないで!』
慌てて制止するアンテだが、もう遅い。
岩の上に置かれていた胸像を持ち上げた途端に、目の前の空間が歪んだ。
『なんだ、やっぱり罠だったのか?』
胸像を投げ出し、直ぐ側にあった誰かの手を握り、事態に対処すべくウイックは理力を高めた。




