16 如何にも取って付けたような展開の噺
「セイラが戻ってきたって?」
マニエルが真っ先に飛んでいき、勝利に貢献した立役者を出迎えた。
後に続いたウイック達も無事を喜び合い、今後の方針を立てる会議にセイラも加わった。
「では魚人に協力を?」
「えぇ、我々は確かに相容れずに、小競り合いを繰り返してきましたが、同じ海の仲間なんです。無視できない問題が起きたのなら、やはり解決に協力しなくてはならないかと」
カンパーニは原因究明の為に一部隊を、魚人の塒に派遣する事を決めた。
「そこで我らも協力を申し出た。お主らはどうする?」
ここまで来て、ウイック達だけが知らぬ振りなぞ、出来るはずもない。
「そう言うことだカンパーニ殿」
アーチカ姫は親衛隊の二人、ウイック達を指差し、亀甲船で魚人の塒へ向かう事を宣言した。
もちろんそこにはセイラも加わる事となり、捉えた魚人三匹も自由を認めた上で乗船し、程なく出港した。
「それでその謎の男というのは、どんな感じだったのだ?」
「仮面を付けてはいたが、人種で間違いないと思う。ただ人でありながら、水の中でお前等のような道具を使わず、普通に我らの前に現れた」
水の中で普通に会話もできたと言って、それが本当に人種だという自信は、彼らにも無いのだという。
「とにかく行ってみよう。その男が現れた場所を調べれば、何か解るやも知れぬ」
程なくして訪れた魚人の塒には、敗残兵はまだ戻ってきてはおらず、そのほとんどが戦争に参加したというのは本当なようだ。
塒には数匹の魚人が残るのみ、罠はないのかと警戒をしてみたが、その心配はないようだ。
「ここだ」
魚人が指差したのは大きな洞窟の入り口。だが亀甲船は入っていけない。
潜水服に着替え、ウイック達は外へ。そこにいた黒い水着の少女と対峙する。
『またあんたが関わっていたの?』
険しい顔のミルが前に出る。両手にはショートソードを携えて。
「あらあら、お待ちください。ワタクシは依頼を受けて、探し物に来ただけですよ」
すくみず姿のエルラムは潜水帽すら着けていない。
ウイックは興味を示したが、流石にその姿をさらす事はできそうにない。
後からアンテには詳しく話を聞く必要はあるな。とは感じたそうだ。
「あら、そちらの人魚さんはあの時の。元気になったのですね」
セイラに向かって挨拶をし、律儀にアイテム回収に協力してくれた事に感謝した。
「まったく、身に覚えないけど……」
『お前の言うアイテムってのは、あの青白く光っていた水晶か?』
「おや、ご存じですの? ええ、そうですよ。あれは霊冥界の秘宝“蘇生と回復の宝珠”ですの。読んで字のごとく、死んだ魂を蘇らせ、回復させる術式具ですの」
ではあの渦から出てきていたのは、以前に死んだ魚人達、倒しても倒しても湧いて出たのは、多くの魂が呼び戻されたからだという事。
「ただ不自然なのは、蘇らせる魂が魚人に限定して設定されていた事」
『何がおかしい? ちゃんと機能は果たしていたようだったぜ』
キリのない戦いを強いられた理由は分かったが、何か感化できない問題が発生しているようだ。
「設定を組む事はできます。ですがかなり高度な技術をもっていないと、それは適いません。貴方達の中でそれを可能とするのは、そちらの忌々しい錬金術師だけでしょうね」
確かにアンテなら、秘宝の解析にも時間は掛からないだろうし、扱いにも慣れているが、それを人魚と比べても、かなり知能の劣る魚人が成したとは考えられない。
法術士はそう言いたいようだ。
『つまりその仮面ヤローが仕組んだ事だと、言いてぇわけだ』
なるほど理解はできた。
だが問題はそこじゃあない。
「魚人のメスが発生しなくなった理由?」
『心当たりはねぇか?』
「それを知っていたとして、どうしてワタクシがお答えしなくては、なりませんの?」
『知らなきゃいいんだがよ』
手っ取り早く聞けるものかと、直球で聞いてみたが、素直に答えてはくれないようだ。
ウイックも無理矢理聞き出すつもりはない。しかしその反応がエルラムには面白くない。
「ワタクシの探し物に関係があるかもしれませんが、探し物と言っても、半年以上前の遺失物ですよ? 情報をもらったので、水晶回収のついでに、見に来ただけの物です」
それがタダの出来過ぎた偶然で、この件には全く関係ない。
なんてものなら、もう原因究明はできないかもしれない。
「探し物は宝珠同様に、霊冥界の秘宝ですの。“不老の聖樹”と言い、生命の成長を阻害しますの。実際不老の存在になる訳ではありませんが、老いるのを遅らせる効果を持っていますわ」
正にビンゴ。
生きとし生けるものの、生と死を見守り、魂が形作る世界。
霊冥界では、魂に関わる多くのアイテムが開発された時代があった。
神々が干渉を続けた時代から数百年、産み出された技術はしかし、霊冥界ではあまり意味を持たず、全ては秘宝として、厳重保管される事となった。
他の世界からすると、どれも問題を垂れ流すだけの危険遺物でしかない。と判断されたからだ。
「なるほど確かにそれは、“不老の聖樹”が関係していると、判断するのが正しいようですね。ですが一つだけ問題がありますの」
不老の秘宝が効力を発揮する範囲はさほど広くはない。
この集落の全てを効果範囲にはできないアイテムでは、完全に説明はしきれないのだ。
『いや、間違いなくそれの所為だよ。僕の知る限りでもただ一つ、大海洋界の秘宝に、この件に関わっているかもしれないアイテムが存在するよ』
他の術式の有効範囲を、その空間ではなく、対象の個体に効果をもたらすことができる。
効果を魚人に限定する事で、術式を範囲に係わらず、不老の存在にできる秘宝。
『その“マーカー”ってアイテムなら、設定された全ての魚人がどこにいても、その“不老の聖樹”の効果を受けさせることができるんだ』
「この世界は何故、そんな危険なアイテムを管理しないのですの? 大切な秘宝を盗まれた世界の住人が言うのもなんですが、危機管理の意識が乏しすぎませんか?」
耳の痛い話ではあるが、これで辻褄はあった。
『なるほどな。ではその秘宝さえ排除すれば、魚人の生活は元に戻るというのだな?』
姫様が話を纏め、魚人に心当たりはと問うと、すぐさま怪しい物の在処を思い出し、皆をその場所に案内した。
そこに意外な物が残されているとは、露程も知らずに。




