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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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15 秘術士を救った人魚と、捉えた魚人の噺

 深い深い海溝に落ちていくセイラ、もう食らいついていた魚人共は、息絶えて離れた。


 深海まで沈んでいってしまうのかと、朦朧とする意識の中、辺りに目を向ければ、少し平らになった岩肌が目に入り、気力を振り絞ってそこまで泳いだ。


「ダメだ、もう体中に力が入らないや。ドジったな、こんな所まで落ちたら、誰も見つけてくれないよね」


 セイラは最期を覚悟した。


 心残りはウイックが助かったのかどうか。


 今となっては知る術もないが、できることはやったはず。


「変に回復力だけはあるから、大丈夫だよね」


 ウイックが不死身の体であることを、セイラは知らない。


 ミルの過激な突っ込みにも、顔色一つ変えなかったのを見ただけだから、最後に見たウイックが生き残ったという自信は持てない。


 自分よりも、人のことを気にするセイラだったが、もうそんなことを考える余裕もなくなってきた。


「おやおや、まさかこんな所で瀕死の人魚に出会すとは」


 遠くなる意識の中、僅かに目を開いたセイラだったが、そこで完全に気を失った。


「貴方が大事に抱えているこれ、有り難く回収させて頂きますね。これは霊冥界の秘宝ですので」


 そう言って、“すくみず”と彼女が呼ぶ水着姿の法術士は、水晶をセイラから取り上げた。


 黒の水着の胸にある白い布に、ジャパニの言葉で「えるらむ」と書いてある。


 この水着が潜水服なのだろうが、いかにも軽装で、潜水帽も被っていない。


 ウイックが見たら、もしかすると欲しがるかもしれない。


「そうですね。お礼に傷は癒して差し上げますの。と言っても恐らくもう助からないでしょうけど、穏やかに最期を迎えてくださいまし」


 体中を噛みちぎられ、切り刻まれた傷を綺麗に治してやり、エルラムはこの場を離れようとして、ふとした事に気付く。


「ウイックさんって、本当に節操がありませんのね。……なら試してみましょうか」


 そう言って取り出したのはメダリオン。最古の魔女から貰ったものだ。


 ウイックはセイラに“耳振みみふりの秘術”を施す時に、緊張を解く名目で彼女の体を弄んだ。


 その時に“操体そうたいの秘術”をついつい仕掛けていた。


 そう言う癖が付いていることを、仕掛けた本人も気付いていないが、術の効力が残っているのなら、メダリオンの力を作用させられる。


「微量の電流を指から発することで、絶妙の刺激を与え、忘れられない快感を生んでいましたね。同じようにできれば、刻印も打てるでしょう」


 そうすれば、この人魚は操体状態になり、エルラムが観察可能な対象にできるはず。


「成功、ですね。メダリオンの反応をこの子から感じますの。これでこの人魚はワタクシの……、そんなに上手くいくものではありませんでしたか」


 セイラは穏やかな呼吸を取り戻し、体温も回復を始めた。


 しかし操体の術式は確認できるものの、刻印をエルラムが掴み取ることはできなかった。


「もう少し研究を重ねて、メダリオンと魔晶石の関係性を理解し、完全に掌握してみせましょう」


 エルラムは水晶を回収できた事で良しとし、次の目的地へ移動した。


 暫くすると、一人残されたセイラは目を覚まし、何があったのかは分からないが、傷が癒え、意識もしっかりしていることから、暫くは自分は死んだのだと勘違いし、少しの間呆然としてしまうが、変化の起こらない現状が読めず、上に向かって泳ぎ始めた。


 このセイラの異変を遠く離れたウイックは感じていた。


「どうかしましたか、ウイックさん?」


 セイラを見つけられず、悲観の表情で戻ったマニエルをアンテが慰め、しかしここにいる誰もが心を痛める中、ウイックがぼんやりしているのをイシュリーが気付いた。


「みんな、安心していいぞ。セイラは無事だ」


 操体の反応がいきなり感じ取れるようになり、彼女の無事を確信する。


「こんな事が出来るのはアイツだな。何しに来たのかは知らねぇが、いい仕事しやがるぜ」


 憂いを払拭し、寄港する亀甲船は、アーチカ皇女と人魚代表のカンパーニに出迎えられ、一同は凱旋を果たした。


「よくぞこの激戦を制してくれました。感謝の至りです」


「皆が一丸になった成果だ。俺達だけが戦った訳じゃあねぇよ」


 掃討戦も終わりが見え、海が静かになり、気も抜ける中、捕虜にした魚人が連行されてきて改めて緊張が甦る。


「思った以上に魚だな」


 戦闘中はまるで獣人を相手にしているように感じていたが、目の前で見ると、確かに腕があり、足も二本生えているが、全身鱗で覆われ、顔は直立歩行で真っ直ぐこっちを向いているものの、首がないのに右へも左へもぐるぐると回る。


「貴方達はなぜこんな強行に及んだですか? これまでも小競り合いはあっても、こんな戦争になる行軍はなかったでしょう」


 カンパーニの問いに、三人連れてこられた魚人の一人が口を開く。


「我々には種の保存の為に必要なことだった」


 その異変は半年ほど前に起こったという。


「魚人は皆、オスとして卵の殻を割る。だが、成長に連れ、群れの中から僅かだがメスに換わる者が現れる。それが無くなった」


 魚人のメスは胎内に卵ができると、オスから精子を貰い、受精後に胎外に産み落とす。


 一度に産み落とされる卵の数量はかなり多く、メスが少なくとも、種の保存は十分続けてこられた。


「メスに換わる時期は決まっている。こんなにも長くメスが出てこないことなどは有り得ない。我々はメスを求める必要があった」


 それが何故、人魚の都市を襲うことに繋がるのか?


「実は、人魚と魚人は交配が可能なのです」


 カンパーニは魚人が語った理由を聞いて、全てを悟る。


 人魚は体内に卵を作り、人種ひとしゅと同様の方法で交尾をし、人種ひとしゅほど時を置かず子供が生まれる。


「魚人のオスの生殖管は我々の種と似た形をしているので、性交が可能なのです。そうして人魚の体内の卵に精子を掛けられると、呪いが掛かったかのように、必ず魚人の子が生まれてしまいます」


 人魚は魚人のように、数多くの卵は産まない。


 一度に生まれるのは、一人か二人と言うのが普通だ。


「人魚はメスが多くいる。魚人はオスが多くいる。だから問題ない」


 それでこの辺りでは一番大きな都市である、ここに押し寄せてきたのだと言う。


「種の保存と言うが、あれだけの魚人がいるのなら、しばらく様子を見ることもできたんじゃあないのか?」


 ウイックは疑問を抱き、質問した。それにも大きな問題はあった。


「魚人がメスに換わるのは、生まれて1年から2年の間なのだ。今メスがいないことが問題だ。これ以上は待てない、種が途絶える危険が出てくる」


 異変が起こったのは半年前、まだ一年以上の猶予があるが、危機感を覚えるのには十分な時間が、確かに過ぎている。


「それにあの同族達は、どこから出てきたのか、我々も理解はしていない」


 メスが出てこなくなった原因を探る努力は、魚人の中でも続けていると言うが、何も解決法が見つからないまま、焦りばかりが募った。


「あの男が教えてくれた。メスを戻す方法ではないが、人魚に負けない戦力になる、あの水晶の存在と使い方を」


 謎の男の存在が、魚人達に知恵を与え、人魚を蹂躙する提案をしたのだという。

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