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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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9 人魚のもたらした情報が、一同の行動を決定する噺

 紹介されたマーメイドはビキニを着て、Tシャツ姿をしている。


「ビキニ、履けるんだ」


 マニエルは彼女の正面に立ち、上から下までを観察。


 目の覚めるような美女、長いピンク色の髪が赤く見えるほどに色白で、胸も大きい。

 腕も腰も細くて、足は……。


「もしかしてこれって鱗?」


 細くて長い足は、物語のお姫様のように理想的な美脚、しかしそこに人の肌はなく、マニエルが竜人化した時のように、足の爪先から太股までを褐色の鱗が覆っていた。


「これが本物の人魚……」


 物語の人魚姫はタダの作り物だったのか?


「ウイック、早く秘術秘術」


 実はマニエル、人魚が出てくる物語の大ファンで、様々な作品を見つけては手に入れ、読み耽っている。


「落ち着けマーニー、お前には既に“耳振みみふりの秘術”は掛かってるだろ。今度はそっちのマーメイドに掛けるんだよ」


 とは言え、この秘術はピンポイントに鼓膜に掛けないとならないため、現状、こちらの言葉を理解していない人魚に、こちらを信用して、ジッとするようにと伝える術がない。


 ウイックが側によると、翻訳者だと勘違いして、矢継ぎ早に話し続け、実は何を言っているのかは分かっているのだから、マニエルなりミルなりが、彼女の言っている事をアーチカ姫に伝えればいいものの、術の成功を見守るのに意識を持っていかれていて、その事に気が付いていない。


「拉致があかねぇな」


 ほんの少しの間、耳を覗かせてもらえれば、それでいいのだけれど、それがなかなかに難しい。


「!?」


 ウイックの所行を口を開けて慌てふためく伯爵と、我が身に降りかかる災難に絶叫を上げる人魚。


 裸に限りなく近い恰好をしているので、ファーストタッチから壺を射抜くと、あっと言う間に大人しくなり、暫くはウイックの好きにされるがまま、マーメイドが惚けた瞬間を狙って秘術を掛ける。


「いきなり何するのよ!?」


「いや、話を分かるようにしたかっただけなんだが、他に方法が思いつかなかったからな、悪いな」


 我に返り、今さら胸を手で護る人魚は、ウイックの言葉が急に解るようになった事に驚く。


「それじゃあ、話を聞かせてもらおうか?」


 ウイックの秘術を受けて、姫様達も伯爵も人魚の言葉を理解できるようになり、一同は椅子に腰を降ろした。


「助けてください。大変な事になってるんです」


 聞けば、明日にウイック達が向かう予定の海底都市、ソフィーリアに魚人が襲ってきたと言うのだ。


 彼女の名前はセイラ。この事を地上に報せようと、大慌てで上がってきた。


 あまりに急速に上がってきてしまったので、水圧の変化に耐えられず、気を失って岸壁に打ち上げられた所を発見され、気を取り戻したのはついさっきだという。


「それで魚人っていうのは?」

「読んで地のごとく、人の形をした魚だ。人魚とは違う」


 姫様がミルの質問に答えてくれて、魚人とは如何なる物かの説明が挟まれた。


 魚人はとても好戦的な種族で、昔から人魚とは小競り合いを続けてきている。


 大量の水の中では、足が正に物語の魚の尾のように変化する人魚は、海中戦では魚人に後れを取る事はなく、襲撃を受けたからと慌てる必要もないのだが、今回はいつもと様子が違った。


「大群が攻めてきたんです。私がこっちに向かう頃までは、まだ押される事もなかったんですが、あまりの数に、援軍が必要ではないかという話になって」


 他の人魚の集落にも応援を求めに言っているそうだけど、念のためにと彼女は上がってきたのだ。


「援軍と言われましても、海底での戦いに我々人種ひとしゅが向かっても、何の役にもたてませんよ」


 伯爵の言葉は最もだ。


「それは別にいいんです。あの亀甲船が姿を見せてくれるだけで、相手への牽制になります。そんなにご迷惑をかけるつもりではないんです」


 敵は一対一では相手にもならない事を自覚しているから、そこに援軍があると解れば、行軍を止めるだろうと踏んでいる。


「なるほど解りました。それでは今から船を出発させましょう」


 急な展開にウイックは大慌てっ振りを見せる。


「ちょーっと待て、まだ心の準備がな」


「そう言えばなんでウイックって、水に潜る秘術って使えないの?」


 ミルは以前、“水泡すいほうの秘術”を使う秘術士に会った事がある。


 カナヅチだというウイックが、そんな術を知らないのはおかしい。


「あれは泳げる奴が、深く潜る為の術だ。泳ぐどころか、自力で浮く事さえできない奴が、水に潜る術を使えるようになるものかよ」


 だけど時間を置く事はできない。


 伯爵は亀甲船を早急に動かす為に、必要な指示を各関係者に伝達させ、出発の時刻を今日の日没とした。


「行かないわけにはいかないわよウイック」


 厳しいようだけど、こちらも考えている時間はない。


 ウイック達はセイラを伴い、伯爵とは別れて、亀甲船に向かった。


 港には多くの船員が建物内に出入りする為に、列を組んでいた。


 やむなく非常階段を使って桟橋におり、外から回り込んで亀甲船の元にたどり着くと、アンテとイシュリーが待っていた。


「アンテ、どうだった、この船の問題点の見当は付いたの?」


 ミルの問いにキョトンとしているアンテは、直ぐに笑みを浮かべて答える。


「ああ、問題点ならもう解消したよ」

「えっ、まさかこんな短時間で?」


 アンテが優れた技術者である事は理解している。


 しかしまさかこんな直ぐに、長年の問題を解決してしまうとは……。


「僕はほとんど何もしてないよ。元々この船には、自動修復機能が付いていて、その操作基盤を見つけて起動させただけだから」


 説明を受けても何も解らないが、アンテが大丈夫と言うからには、上手くいったという事なのだろう。


「それとウイック、いい物を貰ったよ」


 浮かない顔のままの秘術士は、錬金術師の少女にまた救われる。

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