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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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8 渡航までの空いた時間をどう過ごすかの噺

 店内にいるのはカウンター内に老紳士、ホールに若い女性が二人。


 女の子達はウイック達が入店した事にも気付かず談笑。


 老紳士が迎えてくれる声で身なりを整え、接客を始める女性A。


「あの、この時間って、奥の部屋とか……」


「ああ、いいですよ。今ならランチタイムまでの短い時間ですけど、使用料金はいりませんので」


 マニエルが親衛隊員から聞いたとおり、この喫茶室には個室があり、混み合う時間はチャージ料が掛かるが、今のようにガラガラな時間帯は無料で提供される。


「別に俺は個室である必要ないけどな」


「いいじゃない。ゆっくりするならそっちの方が、それに磯の香り、個室の方がもっと気にならなくなるんじゃない?」


 言われてみればごもっとも。


 ただ、少しずつ慣らすのなら、ちょっとは潮の香りを感じた方がいいのだろうけど、この時のウイックは、取り敢えず一度、海の側であることを忘れたいと思っていた。


 個室に入る前、一応仲間が探しに来たときのために、身分を証し、名前を告げると、老紳士は少し怯えるような顔を見せたが、客を追い出したりすることはなく、注文の品を手早く仕上げ、給士係の女性Bに運ばせた。


「あのオジサン、ウイックの悪名を知ってたみたいだね」


「知るか、別に手配されている訳じゃあないんだ。こうして普通に客扱いしてくれるんなら文句はない」


 落ち着いてお茶を啜り、ウインクは普段あまり口にしない甘いものを取り、まったりとした時間を過ごす。


「ねぇねぇ、ウイック」


 マニエルも頼んだ物をゆっくり堪能していたのだけど、皿を綺麗にすると、急に甘えた声を出して、にじり寄ってきた。


「どうした?」


「ここなら人の目も気にならないし、一つお願い聞いて」


「……一体なんなんだ?」


 昔からお強請り事があると出す猫なで声、できる事は何でも聞いてやってきたが……。


「私にもみんなにやってるあれ、やってよ」

「あれ?」


「私も結構おっきくなったよオッパイ」


 まだ少し残った飲み物を口に含もうとして、思わずカップごと落としてしまいそうになる。


「おま、マーニー、何言って?」


「私だけ除け者ってことはないでしょ、ここまで冒険して、もう仲間でしょ」


「けどお前は俺の……」

「それでもいいじゃん。別になんか問題でもあるの?」


 そう言われればそうだけど、倫理を訴えられる立場でもないけど、何か抵抗があるのだ。


「アンテの事も急に女の子として接する事ができたのに、なんで?」


 そう言われればそうだけど……。


「分かったよ。ここ、来いよ」


 ウイックは腰を深く座り直し、自分の前に座るようにマニエルに促す。


「わーい!」


 イシュリーもそうだが、何故かこう前のめりが過ぎると、それだけでも抵抗を覚える。


 嫌がるのを無理矢理する背徳感は止められないのに、求める物に対する勝手な罪悪感はいつまでも慣れない。


 それでも手は動き出すと、いつも通りに楽しんでいる自分がいる。


 マニエルが甘美の声を上げるたびに、気を取られてしまうが、こうなったら必要なことは確認しておきたい。


「やっぱり俺と絆が強い奴ってなると、マーニーは調べるまでもないと思っていたが、メダリオンがあればすぐにでも刻印が打てるな」


「でしょ。でもこれ、本当に癖になる、……あん、もっと、もっとお願い……」

「なにやってるのよ。あんた達」


 個室ではあっても密室ではない。扉のない部屋の入り口には腕組みをしたミルが立っていた。


「なんだ? もう散歩は済んだのか?」


「まだ見たいところはあるが、ちょっと問題が起こってな。お前を呼びに来た」


 姫様も入ってきて、慌てて立ち上がるマニエル。


 テーブルに足をぶつけて痛そうだ。


「とうとうマーニーにまで毒牙を向けたのね」

「……まぁ、成り行きでな」


 それよりも折角の自由時間を割いてまで呼びに来た、どんな問題があったと言うのか。


「岸壁に人魚がうち上がったのだがな。どうも言葉が通じないのだ。お前は秘術で翻訳を可能としていると聞いて、呼びに来た」


 世界中を旅するに当たって、絶対必要なスキルだが、いちいち言葉を覚えていくのはかなり面倒だ。


 そこでウイックは“耳振みみふりの秘術”を編み出し、仲間全員に施した。


 耳の鼓膜を振るう音を、理力で理解できる言葉に置き換えて、脳に届けさせる。


 かなり苦労して編み出した、冒険を始めて1年がかりで完成させた自信の術だ。


 術を持続させる為に護符を用いているが、最初に発動させるのにはウイックの術が必要。


 アンテが翻訳機の開発を試みているが、まだ完成はほど遠いと言っていた。


「意識は取り戻したのだがな、何かを伝えようとしているのだけれど、今は調度言葉が解る者が不在なのだそうだ」


 ここは海底神殿と交流がある街、もちろん翻訳者もいるのだそうだが、海底に行っていたり、休暇を取って街を離れていたり、急病で出てこられないなど、間が悪いにも程がある状態らしい。


「分かったよ。行こうか」


 まだ磯の香りに馴染めずにいるが、人魚というのにも興味がある。


 港から入ってきたウイックは初めて見る街並みに驚いた。


「なんだかバンセイアに似ているな」


 それはウイック達の故郷、建物の様式がよく似ているのだ。


「今、人魚は伯爵の屋敷に連れて行っている。ここを真っ直ぐ行った街の真ん中だ」


 人魚とは上半身が人、下半身が魚と言う亜人で、男はマーマン、女はマーメイドと呼ばれている。


 種の遺伝子として人魚は、マーマンがあまり生まれず、人魚の世界では一夫多妻が当たり前、だがマーメイドは人種ひとしゅの男性との交配が可能で、時々、各地の湊町ではマーメイドが訪れ、一夜を過ごし去っていく。なんて事が起こっている。


 今回の様子を見るに、かなり切迫しているようで、早急に翻訳が必要なのだそうだ。


「あそこだ」


 亀甲船のある建物並の大きさの屋敷に、人集りができている。


「通してくれ、伯爵に呼ばれている。道を空けてくれ」


 親衛隊員が人集りを空けさせ、四人は屋敷に入っていった。


「おお、殿下。それではこの方が翻訳を?」


「うむ、そうだ。それで客人は?」


「こちらです」


 玄関ホールで出迎えてくれる伯爵、皆を招き入れ、主賓室へ移動する。


「ほう、彼女が?」

「はい」


 屋敷内に人魚が待っていると聞かされ、一体どうやっているのかと思っていた。


 ウイックは人魚を物語の中でしか知らない。


 だから、人魚とは上半身が人で、下半身が魚。


 魚だからもちろん泳ぎには長けている。だけど足がないから陸地では移動もままならない。そう思っていた。


「この子が本当に人魚なのか? 足あるじゃん」

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