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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第三幕   大海原にて天と地を臨む男の探遊記
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5 海賊に喧嘩を売った男の末路を知る噺

 サポート役の男爵の根回しが成果を上げ、キャプテン・ヴァンナ率いる惨禍さんかしらせは、ゲッヘル侯爵の船団を焼き尽くし、最後の交易船に侯爵本人が乗船している事を確認の上で拿捕した。


 海賊船の甲板で縛り上げられ、思いも寄らなかったアーチカ第三皇女の登場、読み上げられる脱税や禁止されている密輸、人身売買の証拠を挙げられ、観念して檻に入れられた。


 作戦の成功を信じ、別行動中のウイック。


「あんたがノーバラック男爵か?」


 ゲッヘル侯爵領の港町から、クバラム湖へ向かう街道、多くの護衛をつけた馬車の通り道を遮り、五人は立ちはだかった。


「なんだ貴様ら」


 四台の馬車に囲まれる、中央の立派な一台から姿を見せたのは、見るからに貴族至上主義と体型でも訴えている小太りの中年。


「俺達はちょっと、キャプテン・ヴァンナにお使いを頼まれたんで、あんたの顔を見に来たんだけどな」


 冒険者と思しき若い男女の一行から、海賊の名が出た事を受け、男爵は他の馬車からと、周囲警戒に走らせていた馬も角笛で呼び寄せ、私兵を前面に出してくる。


「やはりあの女海賊、俺の動きに勘付いていたのか、しかしこんなガキ共を使わすとは、俺の事を完全に格下扱いしているようだな」


 鎧を着た兵士が30人ほど、正直、精霊界や魔門界で大暴れしてきたウイック達を相手にするには、これではあまりに物足りないのだが、キャプテンからは少し様子を探って欲しいと言われている。


 既に尻尾を出している状態なのだが、先代まで築いてきた良好な関係を、できれば崩したくない。


 本来なら自分が真意を確かめたいところだが、侯爵への制裁とを比べ、こちらを任せてくれたのだ。


「みんな、一人も殺さないように、速やかに無力化するわよ」


 ショートソード二本を構えるミルが指示を出し、ウイックは後方に下がる。


 向かってくるのは年若い少女達ばかり、そのいずれもが中々の粒ぞろい。

 中年親父は舌なめずりをしながら、値踏みを始める。


「なんだ? 俺に夜伽の相手を用意してくれたのか? どぉれ、一通り楽しんでから高値で売ってやるから、そんな物騒な物、サッサとしまえ」


 下卑た笑いが硬直するのに、さほどの時間は必要とせず、私兵の七割があっと言う間に蹴散らされたのを見て、慌てふためく。


「なっ、なんなんだこいつら、ただの冒険者ではないのか!?」


 冷静さを欠き、狼狽えるノーバラック。自らが乗っていた馬車に走り、大きな音を立てて扉を開ける。


「なんだ、逃げ出すつもりか?」


 ウイックは秘術で馬車の車輪を破壊しようとしたが、それより早くノーバラックが大声で叫ぶのを聞いて、術式の発動を止める。


「先生、お願いします。あのガキ共を蹴散らしてください」


 キャプテン・ヴァンナが男爵を疑っていたように、この男も海賊を警戒していた。


「後悔するがいいぞガキ共、その男の首を海賊に送りつけ、女はみんな俺好みに調教してやるからな」

「黒、確定だな」


 ノーバラックが馬車から呼び出したのは、一人のローブ姿の初老の男。いや初老のような風体の優男。


「もう後悔しても遅いからな。この世界最大の災厄、ウイック=ラックワンド先生が血の惨劇をもたらしてくれるぞ」


 言葉を失う大秘術士とその仲間達。


「ウ、ウイック……、あんた何かいきなり老けちゃったわね」

「この状況で、よくそんなボケが浮かぶなミルよ」


 呆れる秘術士、笑う剣士、本気で殺気を放つ、獣王と竜人と錬金術師。


「我はウイック=ラックワンド! 世紀の大秘術士であるぞ。命が惜しくないなら掛かってくるがいい。だが後悔したくなくば、さっさと降参するのだな」


 ウイックの名を語るローブ姿の男は、なかなか渋い声で高らかに勝利宣言をする。


 この芝居掛かったセリフ口調の脅し文句に、もうミルは大爆笑。ウイックも笑わずにいられない。他三名はもう爆発寸前だ。


「もしかして疑っているのか? いいだろう、俺のこの大秘術に恐れ戦くがいい」


 そう言って男が術式の詠唱を開始。ちゃんと定型文をなぞっているのは、パフォーマンスか? それが実力なのか?


「……“雷鳴らいめいの秘術”!」


 思っていたよりも高度な術を行使してきた事に驚いたが、威力をみるからに、術式詠唱が必要なレベルのようだ。


「どうだ、次は全力でお見舞いするぞ。無駄な抵抗をすれば、命を落とす事になるぞ」


 ウイックの理力障壁で完全に、術を掻き消され焦る偽物。


 今の秘術を見て、ローブ男を本物と確信したノーバラックも、勝利を疑わなず、調子付いてニヤついている。


「……つき合いきれんな」


 ウイックは出力を可能な限り絞った“雷鳴らいめいの秘術”を、容赦なくローブの男に落とす。


 黒こげになり、二度と起き上がる事のない偽物と、我慢の限界を超えた三人の少女の活躍により、一瞬で壊滅した私兵団を目の当たりにして、ノーバラックは戦意を喪失。


 アンテに縛り上げられ、男爵はキャプテンの下へ連行された。

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