4 キャプテンの悪巧み? その内容についての噺
「その前に姫様には、ここで私らのやる事を黙認してくれるかどうか、決めてもらわないとならない」
ヴァンナは条件があると言っておきながら、簡単にはこちらに決定権を持たせる気はないようで。
「決めるも何も、話を聞いてもいないではないか」
「内容を聞く前に決めるんだよ。聞いたら後には引けない。私らも腹を括ってやるんだ。二者択一なんて簡単な事じゃあない。納得できないなら聞かせるわけにはいかない。これはそっちのあんた達も一緒だよ」
アーチカ皇女は一度目を閉じて、暫く考え込むと、覚悟を決めた顔つきで目を見開いた。
「私は黙認するという事でいいんだな。では見させてもらおう。海賊が何を成すのかを」
「流石は兄弟の中でも最も、皇帝の帝王学をより理解していると噂の姫様だ」
弱い16歳でこの風格、キャプテンも年齢に相応しくない経験を重ねているが、戦姫とも名高い第三皇女である。
「さて、次はあんた達だよ」
ヴァンナは二者択一と言うが、これは間違いない一者択一で、海賊はそれも理解して話を振ってきている。
「俺に異論はない。けどこればっかりは一人ずつ確認してくれ」
「ちょっとウイック、あんたそれは悪い癖よ。一体何回私達に同じ事を言わせるつもり?」
今までもことある毎に、ウイックはみんなの同意を求めてきた。
それが当たり前と言えば当たり前なのだが、それは同時に一線を引いていると感じさせられてしまう。
「ミル、今回ばかりは俺の一存でってわけにはいかない。海賊の出す条件、内容を聞かされず決断するとなるとな。万が一にも犯罪行為という事になれば、な」
ミルはそこまで考えが及ばなかった。
確かにイシュリーや、ランドヴェルノの名前を背負う二人が捕まり、罪に問われれば、いろんな方面に迷惑を掛ける事になる。
「そうね、そうよね。もちろん私はウイックに付いていくけど、うぅうん、付いてきてもらうのは私だから、私はお願いする側だけど、でもみんなは……」
「問題ないんじゃない?」
「そうだね。なにも本名を名告る必要もないんだし」
軽く返事をするマニエルに、アンテも偽名を使えば問題ないという。
「捕まらなければいいだけだし」
ポジティブな発言だが、マニエルはそんなに深く考えていないようだ。
「私も大丈夫ですよ。最近はマスク無しでも十分闘えるようになりましたし」
イシュリーまでもが楽観して、ビーストマスターの名前に傷が付くかもしれない恐れを、全く気にしていない。
「なんなら化粧でもしてみる?」
「ああ、なるほどね。それはいいかも、キャプテンみたいに厚化粧で化ければ……」
「おい、お前」
マニエルの提案に手を打つミルの不用意な発言に、ヴァンナは見えない角を生やす。
「私のこれは身だしなみ程度の薄化粧だぞ!」
「す、すみません。あまりに綺麗にメイクされているので、しっかりとお化粧をされているものと思いまして」
苦しい言い逃れだが、そこには敢えて突っ込まず、ヴァンナは話を続けた。
「いいだろう。ぐだぐだ言わずに即決できるってのは、今後も何かと強みになると思うぞ」
やる気を示したウイック達に、ヴァンナは一枚の地図を見せた。
「これは?」
「帝国領のある領主の治める街の地図さ」
海岸沿いの街、土地勘のないウイック達にはさっぱりだが、一目見たアーチカ姫が唸る。
「これはゲッヘル侯爵領だな」
「そう、私達の標的はこいつさ」
密輸を潰されて、腹いせに帝国軍を差し向けてくる。
理解はできるが、それを返り討ちにした事で手打ちに! などと済ませるつもりはない。
「海賊に喧嘩を売ったんだ。その落とし前はキッチリつけさせてもらうさ」
もちろん領民に手出しをするつもりはない。
先ずは港に駐留する侯爵の交易船を狙い、侯爵本人を誘き出す。
可能であれば海に誘い出し、それが無理なら交易船を全て焼き払い、丘の上で侯爵を討つ。キャプテンが書いた筋書きだが、少し都合が良すぎる気もする。
「この港町から真っ直ぐ北に向かうと、クバラム湖という大きな湖があるんだが、その辺りにある街の領主とは、うちの海賊団は古い付き合いがあってね」
「クーバセイム領のノーバラック男爵の事か?」
勤勉なアーチカ姫は貴族諸侯の名前と、領土は頭に入っている。
領土内にあるクバラム湖は塩水湖で、売れるような魚はあまり取れないが、食用や宝石を作る貝などが特産品ではある。正直あまり潤った税政を見込めているわけではないが。
「それが三代ほど前の領主の頃から、海水魚の養殖で成功したと聞いている」
「その時の協力体制を作ったのが、家のご先祖様だ。今でも我々が釣り上げた魚を納品している」
海賊だと言っても、いつもいつも略奪行為に明け暮れているわけではない。
自分達が打ち出している領海を護って、普段は漁師をしているのだ。
「今回の帝国海軍の進行の情報をくれたのもノーバラックだ。今回も侯爵の動きを掴んでもらう。姫様、今のは聞かなかった事にしてくれよ。私らは丘の情報を必要としているし、各地の領主とも可能な限り仲良くやってるだけだからさ」
ヴァンナ海賊団が望んでいるのは、ただ自由に海の生活をしていく事、海を荒らす奴と敵対はするが、無意味な略奪行為も殺戮行為も自らはしない。
「そうさ。私らに喧嘩売ってきた報いを受けさせる。と言う事で、姫様には約束通りに黙認して、帝国は見て見ぬ振りを……」
「いや、それはできない」
ここまで話を聞いていたアーチカ姫は、途中から目を閉じて、考える素振りを時折見せていたが、約束を違える返答にキャプテン・ヴァンナも眉を顰める。
「帝国軍というわけにはいかないが、私が私的に動かせる軍を使ってバックアップする。そうすれば成功率は格段に上がるだろう」
思い掛けない言葉であったが、どうやら姫様もゲッヘル侯爵を野放しにできないと考えているようだ。
「で、俺達は? 正直何の関わりもない話だけど、情報の為に一肌脱ぐのに異論はないぜ」
作戦を詰めていくのはこれからだが、ウイック達の役割をキャプテン・ヴァンナはもう決めていた。




