3 確かではない情報が先に繋がる噺
「そんな悪名を語るとは、物好きな奴だな」
キャプテン・ヴァンナは呆れ顔でウイックを嘲笑った。
「もしかしてやっぱりこいつ等も偽名を?」
「待て待て、今し方色々見せてもらい、検証したばかりではないか」
「なら姫様は信じるのかい? この男があの破壊神だと」
最後の最後、ウイックの名を聞いて、ここまでで一番の驚きを見せる二人。五人を無視して囁き合っている。
「あの、破壊神って?」
恐る恐る声をかけるミルに、二人は咳払いや呼吸を整えたりして、改めてウイックに向き直る。
「人智を越えた秘術を操り、世界各地の遺跡や洞穴を破壊する。秘宝を根こそぎかっさらう、魔女にも勝る鼻の持ち主だ」
秘宝を一度で根こそぎ見つけ出す嗅覚という触れ込みは、秘宝ハンターとしては名誉なことだが、遺跡の破壊については身に覚えがない、ただの言い掛かりだ。
「壁を壊して進路を確保する事はあっても、破壊と言われるほど暴れた事はないぞ」
キャプテンの言葉を否定するウイックだが、二人の様子から冗談で言っているわけではないのは明白。
「先日などは、我が領内の観光遺跡都市近くでも、数本の大木が、通常ではあり得ない切り口の倒木で見つかった。その近辺でウイック=ラックワンドの姿が目撃されている。との報告があった」
一通りの手配書に目を通している姫様は、じっくりとウイックの顔を観察し「確かに手配書にそっくりだな」と犯罪者に向ける時の目で付け加える。
「あ、あのぉ、それは……」
実行犯であるミルが手を挙げ、事情を説明。
「すばらしい。グレートソード一本、その一太刀で大木を切り倒してしまうとは!?」
姫様は既にミルを神格化しているようで、ウイックに向けられる目とは明らかに違った。
「なるほどな、この秘術士が中心に、これだけの面々が集まっていると言う事か」
キャプテン・ヴァンナは興味津々で、マジマジとウイックの顔を眺める。
「確かに可愛い顔をしているな。私がもっと若くて、今の立場でなければ、恋慕するのも悪くないかもしれない」
まだ24歳の独身なのだから、ウイック次第では恋愛対象となる美女からのアプローチに、当人以外の姫様も含む少女達皆が動揺の色を見せる。
「はははっ、あんた達もかわいいね。面白い、あんたらを客人として迎えよう。それで、こんな所に何の為に来たんだい?」
初めて合う、しかも海賊相手に、どれだけの信頼を置いていいのか分からないが、魔女達からヒントはもらっていても、その取っ掛かり、入り口さえ分からないこの場所で、先ずは情報集めが最優先。
「これは何とも綺麗さっぱり折れたもんだな」
ストレージから取り出された大剣、切り口を見るに無理な負荷を一点に掛けられ、狙って折られた事が分かる。
数多くの宝剣を見てきたキャプテンも、これほどの業物を前にしては、自然と吐息が漏れてしまう。
「本当になんと素晴らしい、芸術品の様な逸品でしょう」
剣士目線の姫様も、見事に真っ二つになったミルのグレートソード、ブランシュカを見て、ヴァンナとは違う目線で感嘆する。
「ちょっと訳あって詳しくは説明できないのですが、これを修復するには匠である事ともう一つ、聖光気を術式に込められる鍛冶師を探さないといけないんです」
ミルの相談を受け、キャプテン・ヴァンナは頭の中で、このお宝を扱えるほどの鍛冶師がいるものかと、名前を挙げて考えてみるのだが、どれも条件を満たしているとは思えなかった。
「俺達が聞いたのは、こいつを扱える職人は、海底都市にいるって事なんだが、信用できる奴のくれた情報なんだけど、本当にそんな場所に街があるのかも眉唾もんだからな」
「あるぞ、海底都市」
一応ここいらで情報を集めはするつもりだが、ミルには悪いけど、飛ばされた場所が大雑把すぎて、剣の修理は直ぐにできないかも、そう考えていたウイックに、キャプテンの言葉は光明へと繋がる。
「あるのか? 本当に?」
この地方では割りと有名な話らしい。
「もしかしてあそこの事を言っているのか?」
「他にないと思うよ姫様」
お伽噺に出てくるような、地下都市や海底神殿、天空神殿などの伝承は数多く残っている。
地下都市や天空神殿などは、実際に冒険者の目で確認されているので、世界中を渡り歩いているウイックでも、その話を聞く事はある。
しかし海底の逸話はどれも確証がなく、人魚や半魚人からも人種が住まう都市の在処を教えてもらった事はない。
しかし二人のやり取りを聞く限りでは、それは心当たりどころではないと伝わってくる。
「俺は帝国にも何度か言ってるけど、そんな話は聞いた事もないぞ」
「それはそうだ。帝国と海底都市との間には盟約があるから、情報は開示してはいない。キャプテンが軽々しく喋ってしまったから、私も隠す事はしないがな」
盟約は帝国との間の事であり、海賊は約束をしていない。
姫様も避難したり、誤魔化そうとしないのは、困っているのがミルで、ブランシュカの事をどうにかしたいと言う思いがあるからだろう。
「それにしてもあそこにそんな匠がいたとはな。もしそこに行きたいというなら、連れて行ってやらんでもないぞ」
「本当か?」
事の真偽はともかく、情報があるなら一つ一つ確かめていくしかない。
「お、おい! 流石にそれを容認する事は……」
「姫様よ。あんたは囚われの身だ。私のやる事に口出しできる立場ではないんだぞ」
未だ手を縛られたままの姫様は、苦虫を噛み締め押し黙る。
「私がお前達を気に入ったというのは本当だ。だから連れて行ってやる。ただし、一つ条件があるがな」
そこはそれ、相手は海賊である。
タダでと言われる方がかえって恐ろしい。
だが首を縦に振らなければ良かったと、この時には思い至らなかった。




