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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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37 錬金術師が夢魔との約束を果たす噺

「ふぅ、精霊界の温泉もよかったが、ここの温泉は秘境っぽくて、違う味わいがあるな」


 宴会はまだ続いている。


 意気投合した四楽天と飲み明かす仲間達を置いて、ウイックは一人、セレーヌご自慢の温泉を堪能していた。


 クレバーネの花はあの後アンテに預け、用意していた抽出用の装置を使って、ビシャナの研究室で薬を完成させてくれた。


 それを魔晶石に吸わせると即座に活性化は納まり、ウイックは制御を意識する必要もなくなった。


「それにこれ」


 胸の魔晶石を覆うカバー、これで外部からの干渉をある程度防げるようにと、アンテとビシャナが協力して作ってくれた。


「ウイック、いるかい?」


「おお、アンテか? ありがとうな、お前のお陰で快適な気分で温泉を堪能できてるぜ。お前も入って来いよ」


 思えば長い付き合いだが、こういった裸の付き合いというのは、した事がない気がする。


「それじゃあ、入るよ」

「おお、遠慮すんな」


 労わなければならないのはウイックだけではない。


 なんなら背中を流し合うのも悪くない。


 遠慮がちな無二の親友は、大きなタオルで体を覆い、赤ら顔で入ってきた。


「お邪魔しまぁ~す」


「おお、先ずはかけ湯して、温まれ。そうした……ら!?」


 湯気の向こうにいたアンテが近付いてきて、ウイックは衝撃を受けた。


「お、おま……」


 俯き加減のアンテロッサは、かけ湯をする為にタオルを取り、湯に浸かった。


「あ、あ、あ、アンテなんだよな?」


「そうだよ。僕はアンテで間違いないよ。君の知っているアンテロッサさ」


 眼鏡を外してはいるが、顔の輪郭やそばかすはよく知ったアンテの物。


「お前、見えてるのか?」


「うん、内眼鏡ないがんきょうを付けてるからね。眼球に直接レンズを付けてるんだよ」


 気になっているのはそこではない。だけどウイックにはそれを確認する心の準備が整わない。


「やっぱり気になるよね」


「その声……」


「うん、いつもはなるべく低い声を出すように気をつけてるけど、これが僕の地の声だよ」


 甲高いとまではいかないが、聞いた事のない高い声のアンテはもう、どこからどう見ても女の子にしか見えない。


「疑わなくていいよ。僕は女だ。生まれた時からね」


 華奢なわりに胸板が張っていたのはこういう事だ。サラシか何かで無理矢理抑えていたのだろう。


「それってやっぱり?」


「うん、僕は二人目だったからね。父さんは望んだ男の子でないことに相当落ち込んで、結局僕を男の子として育てる事にしたんだ」


 それが数年後、弟が生まれた途端に、自分への興味を失ったような振る舞いの父親に、かなりショックを受けたが、ウイックとマーリアに心を救われ、工房を出入りする事で生き甲斐も見つけた。


「職人の中で練金を学ぶ為に、師匠が僕に男の子のままで出入りする方がいいと教えてくれたから、特にお調子者のウイックにはばれないようにってね」


 お調子者の部分は余計だが、確かに男所帯は大工も錬金術師もあまり変わりない。


ランドヴェルノは男女差別などしない工房だが、周囲の手前、子供の頃から出入りするならと、ずっと男のフリを続けてきた。


「僕は成人したら、工房の暖簾分けを師匠に勧められてるんだ。自分の工房でなら女としてやっていけるだろうって」


なんとも驚くべき衝撃の事実だが、そんなにショックを受けてはいない。


「そうか、まぁなんだ。アンテが男だろうが女だろうが、俺の親友に違いはないからな」


「アンテロッテ、僕の名前はアンテロッテって言うんだ。ウイック、ごめん」


 性を詐り、名前を詐ってきたアンテは謝った。


 しかしその謝罪は偽証してきた事に対してではない。


「僕は親友ではいられない。だって、昔からこんなに、君の事が大好きなんだから! 友達じゃあ嫌だから」


 イシュリーと同じような真っ直ぐな瞳で告白を受け、ウイックは答えを返す事はできなかった。


「今すぐでなくていいよ。僕も君を困らせる為に、自分の想いを告げた訳じゃあない」


「助かる……」


 いつか肉体を取り戻せば、少女達の想いに応えられるのだろうか?


 その為にもメダリオンを集め、刻印を刻み封印を解き、その後に何が起こるか分からないが、それもなるべく早くに調べて、やる事はまだまだ山ほどにある。


「それじゃあ、一つだけお願いを聞いてよ」


 アンテは包み隠すことなく立ち上がる。


「僕にメダリオンの刻印が刻めるか試してみてよ。僕ならきっと、君の助けになるはずだから」


 メダリオンはウイックが心を許した相手に、刻印の儀式をすれば、刻まれる対象が望んだ時に契約が結ばれる。


「だけどお前、それって……」


「知ってるよ。師匠が見つけた方法を可能な限り調べて、確証を一つ一つ積み上げていったのは僕だもの」


 恥ずかしげに身を捩り、体を隠そうとする素振りに、アンテの覚悟を感じる事ができる。


「本当にいいんだな」


「くどいよ。これ以上、恥ずかしい事を言わせないでよ」


 少し離れた場所で、別の温泉に浸かるミル達の声が聞こえてくる。


 だけどこのセレーヌに奨められたここには、誰も入ってこない。


 ウイックはアンテに、自分の前に座るように促した。

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