35 魔界に来て二度目の、魔王との一騎打ちを迎える噺
場所は魔門界。空は青く辺りは山中の少し拓けた場所、辺りに人影はなし。
一日のうちに二回も魔王と闘った勇者は恐らくいないだろう。
夢想家でも作らないような現実を前に、ウイックはほどよく離れた場所で宙に浮いている、ニヤニヤ顔の魔女を睨み付けるが、その秘術士の様子を見て、さらに口角を引き上げる顔が腹立たしい。
ガイザは特に防具などを着けることなく、武器なども手に金属製のサックを持つだけ。
これはイシュリーの分野だなと感じたウイックは、少し考えて、アンテからもらった防具を使ってみる事にした。
「ウイックよ。それはなんだ?」
瞬間に姿が変わるウイックを見て、思わず目の前まで来る魔女は聞いた。
「防具兼武器ってやつだな。アンテはプロテクターって呼んでたよ」
ウイックが着込んだのは、大海洋界の帝国や王国でも、騎士団等が用いるフルプレートアーマーのように全身を覆う鎧。
膝から踝まで、脹ら脛も覆う脛当てと太股をぐるり囲む防具、靴も同じような硬質の物を着用。
前腕も上腕も拳も覆い、肩には大きな箱が二つ。
胸部も腰部も硬い装甲に護られ、背中にはアンテの物よりもスマートだが、同じような機能を持つバックパックも付いている。
頬と耳、後頭部をカバーするフェイスガード、そこから繋がる眼帯は、視界を完全に塞いでいるように見えるが、ウイックには肩の箱が奪っている視界も邪魔することなく、周囲を見回す事ができている。
「そのような物をどうやって着込んだのだ? 瞬く間にそのような姿になったようだが」
説明台詞への誘導に与り、ウイックはセレーヌの問いに答え続けた。
「俺は自分で“異納の秘術”を使えるから、自力で異空間に道具を納める事ができるし、特に必要なかったんだけどな」
外からは見えないが、ウイックの左手首には金色に輝くブレスレット。
このプロテクターをストレージから、ウイックを中心に出現場所を特定して取り出すのは、秘術では不可能なのでカガクの技術で、鎧を着るのではなく、その内部に入る為に必要となるのだ。
「準備は整ったのだな。では二人とも思う存分やり合うがよいぞ」
セレーヌは再び距離をとって号令をし、先ずはウイックからの先制攻撃で開始する。
肩と胸、腰と脹ら脛、背中にある箱が口を開け、中から無数の水筒のような円筒形の筒が炎を伴って飛び出す。
全てが無秩序な軌道で飛び交うが、その向かう先は全てがガイザの元へ。
「妙な攻撃しやがって!」
獣人は全力ダッシュで前に出ると、飛び回る筒、“ミサイル”の群れは、目標を追って軌道を変える。
縦横無尽に飛び回るミサイルだが、その飛び方には規則性がある。
ガイザが飛び上がるとそれを追って上昇すると、自由落下で地面に足を付ける獣人を更に追撃、しかしそこでも標的を捉える事はできず、地面に打ち付けられたいくらかが自爆。
「なっ!? なんて凶悪な物ぶつけてきやがるんだ!」
地面とぶつかった筒はそこで大爆発。火薬の匂いが拡がる。
「ほぉ、地面に穴を!」
高みの見物中のセレーヌが感嘆の声を上げる。
地面に接触することなく、追尾を続けようとするミサイルも、爆発に巻き込まれて誘爆し、穴がどんどん大きくなり、棺桶を埋めるに調度いいほどの大きさになる。
「いってぇ~!?」
残り少なくなったミサイルだが、いくつかがガイザに追いつき接触する。
地面にぶつかった物のように爆発すると、一発目に続いて数発がさらに爆炎を上げる。
地面の穴の大きさを見れば、その威力の高さが分かるが、ガイザにはそこまでのダメージは確認できない。
「くっそぉ、何なんだこりゃ、人種ってのは並の魔人なんかより、よっぽど強いじゃないか」
爆炎で少し肌を焼いたようだが、やはりそんなにもダメージを受けている様子はない。
ミサイル攻撃は障壁を打ち消す術式付与もされているので、爆発は直撃しているはずだが、魔人の防御力は計り知れない。
「こいつの操作、簡単だとか言ってたけど、そうでもないぞアンテ」
本当なら持ち弾の全てを一気に発射するつもりではなかった。
気が付けばミサイル全60発が飛んでいってしまっていた。
眼帯に映るモニターと言う画面の左下端っこには、ウイックの着ているプロテクターを、簡単に図にした青い絵が映っており、それを目で凝視して思考すると、部分毎の箱が赤くなる。
そうしたら今度は箱の中身のミサイルを、どれだけ放つかの数を口にして言う。
最後に標的を凝視し、「発射」と合図すれば 飛んでいく。
のだが……、ウイックはその操作を覚えておらず、アンテから場合によってはそんな場面もあるだろうと言って教えてもらっていた、「全弾発射」と言葉を発した。途端に全部のミサイルが飛んでいってしまったのだ。
やっぱりこういった物は使い慣れない。
他にもアンテの理力銃や理力剣のように、光弾を打ち出したり、光剣を振り回す事もできる。
ホバーシューズの機能もあれば、バックウエポンに理力を注ぎ込めば宙に浮く事もできるらしい。
拳にはウイックの“剛拳の秘術”の様な術式が掛かっているし、その体には“堅硬の秘術”が掛けられたような硬質な装甲に護られている。
身体強化で剛力も出せるし、戦闘においては至れり尽くせりなのだが、それらをスムーズに使いこなせないウイックには邪魔以外の何物でもなく。
「やめだやめ、もっと練習してからしか使えねぇ」
見た目がかなりウイック好みの格好良さなのだが、実用にはまだまだ癖の強い道具に見切りを付けて、異空間ストレージを作動、プロテクターを脱いだ。
「なんだなんだ? もう終わりか?」
割りと驚く性能を見せた鎧が消えて、内心ホッとするガイザ。
「やっぱ俺には性に合わねぇ」
いつものワンドを取り出し、“剛拳の秘術”と“堅硬の秘術”を発動。
試しにイメージを固めた新しい術を使ってみる。
「これでどうだ、“神足の秘術”」
想像したのはアンテのホバーダッシュ。あれをイメージできれば秘術として使えるはずだと。
ガイザが体勢を整え、今度はこっちからだと叫んだ後、一瞬で目の前まで飛んでくる。
振り下ろしてきた右のパンチだったが、ウイックのイメージは的確で、うまく発動した“神足”を使って後ろに回避、追ってくる獣人の正拳突きを、今度はこちらも拳を振るって応戦。
さながら格闘家同士の拳の応酬で、バトルは次の展開を見せるのだった。




