34 獣人魔王の依頼を全うしようと努力してみる噺
ガイザの部屋を出た時、城内があまりに静まりかえっているのに、首を傾げて、ミル達の様子を聞けば、別の場所で寛いでいるので、先に行って欲しいと、警備の筋肉魔人に言われた。
念のために“操体の秘術”を通じて、ミルとイシュリーの心境を探った。
「なんか楽しそうにしているみたいだな」
ウイックは警備兵に伝言を頼み、魔王ガイザと共に、魔女セレーヌの城に戻ってきた。
今、セレーヌの前にいるのはウイックと獣人の魔王だけ。
「なんだ? 探し物はもう見つかったのか?」
「てかよ、最初から花の在処を知ってたんだよな。セレーヌ」
探していた素材は鉢植え状態で今、ガイザが持っている。
条件を満たせばくれるつもりで持ってきた鉢を、その場に現れたビシャナに渡し、二人はセレーヌの招きに従いソファーに腰を下ろす。
素材を受け取ったビシャナが消えると、ウイックは用意されたお茶に手を伸ばす。
「妾は花の在処を知らぬなど、一言も言った覚えはないぞ。在処を知る者を知っている。確かそう言っただけのはずじゃ」
「真実を隠す事で、俺の行動を楽しもうって魂胆だったか……」
全ては魔女の掌の上。
「もしかしてあれか? 自分に喧嘩吹っ掛けてくる魔王と揉め事になって、やり合うのを高みの見物。とか考えていたのか?」
無傷で、しかもこんな短時間で帰ってくるとは、思っていなかったのだろう。
戻ってきた時のセレーヌの、意外そうにしている顔は、きっと問題を起こす事を期待していたはず。
「よいではないか。何事もなかったのであろう?」
「ったく、……いっそ、そっちの方が楽だったんだけどな」
問題事を抱えたまま戻ってきたのは確か、その事をセレーヌに報告しなくてはならないのだが、ウイックにとっては最も苦手な分野だけに、どう切り出していいかが決まらない。
「しかしなんだ、なぜ魔王ガイザがいっしょなのだ? 他の娘達はどうした?」
「ああ、そうだな。まぁ、ちょっとした事があってだな」
ウイックは脳をフル回転、ガイザから頼まれた難題に、どう話を持っていけばいいものなのか。
「なんかこいつセレーヌに心底惚れてるらしくて、話を聞いて欲しいんだってよ」
どんなに知恵を捻ろうとも、恋愛の何たるかを知らないウイックに、上手く事を運べるはずもなく。
「お、お、お、お前ぇ!?」
度ストレートな告白をされていきり立つ獣人。
仮にも魔王たる者が、他の支配者に熱い想いを抱いているなどと、そんな事ができるはずがない。
そんな事をすれば配下の者にも示しが付かないからと、自分では答えが出せず、いちゃもんを付けては、絡む事しかできなかったモヤモヤを解決してくれるように願った。
「ダメだったか? こんな事、真っ直ぐに気持ちをぶつけるしかないだろう?」
何に問題があったのか、理解のできないウイックは頭を掻きむしる。
「だから俺には無理だって言っただろう」
「何人も女を引き連れているから使える奴だと思ったのによ! 人種特有の謙遜ってやつじゃあなかったのかよ!?」
人の話を聞きもせず、思い込みで丸投げし、上手くいかなかったからとキレられても、今更もう後の祭りというもので。
「はははははぁ、ふぅ、ふふふふふっ、わははははあ~」
突然の大笑い。
しばらくの間、その場には魔女セレーヌの爆笑が部屋いっぱいに響き、それが収まるには、少しの時間を要した。
「そうか、そうか、小僧は妾を欲していたのか……」
あまりの哄笑に耳まで真っ赤になるガイザは、ウイックの襟首を引っ掴み。
「どうしてくれるんだ?」
「そう言われてもなぁ」
こうなれば、今の告白が成功してくれる事を祈る他にない。
「すまぬ、すまぬ。あまりの衝撃に心乱されてしもうたわ」
やっと落ち着きを取り戻したセレーヌは、呼吸を整えてガイザの目を真っ直ぐに見る。
「魔王ガイザよ。……お主の気持ちは正直に言って嬉しく思うぞ」
優しい笑みを浮かべ、熱い視線を獣人に向ける魔女。
「それじゃあ……」
「うぅむ、申し訳ないのだが、少しばかり告白が遅かったのぉ」
礼を言われ、一瞬で持ち上がった気分が一気に下がるガイザに、追い打ちの言葉が浴びせられる。
「妾には既にそこに居る、ウイックという身があるのでな。お主の気持ちを受け入れる事はできんよ」
「なっ!?」
魔女の言葉に驚いたのは、男二人。
何をどうすれば、出会って間もない男に、その身を捧げる事ができるというのか。
トンだ茶番に抗議をしようとするウイックは見逃さなかった。セレーヌの口角が微かに上がったのを。
そしてガイザはセレーヌの思惑通りに取り乱し、椅子から立ち上がり、ウイックに決闘を申し込んだ。




