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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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33 獣人の魔王のお悩み相談をする噺

「貴様が魔女の使いか?」


 ゲートの向こうでは、無数の魔人がウイック達を出迎える為に集まっていた。


 戦々恐々の大怒号に迎えられたが、その波の一番奥にいた魔王の鶴の一声で、魔神達は左右に分かれ、一本の道が生まれる。


 最も年若い魔王ガイザ=ボドルゲーザは、魔王進化を遂げた後、領土を持たないまま、他の魔王領を転々としながら、荒くれ魔人を配下に加えていった。


 次第に勢力を伸ばし、領土を獲得する為に戦争の準備を進めていた時、妖艶の魔女が新たな政策を打ち出し、全ての魔王に対し、魔門界は魔界と名を変え、新たに魔門界と名付けた世界を構築、魔界での利権を放棄すると共に、新世界である魔門界の全てを統治する事を宣言した。


 各魔王にとって、新たな魔門界は何の興味も抱かない、だらけた世界と見て取られ、お陰で魔女は己の楽しみを独り占めする事に成功。


 それまで魔界にあった領土を新参者のガイザにくれてやったのだ。


 今ある魔女の城は、元の領内のど真ん中にある山の上、麓には長城が築かれ、その一山がセレーヌの唯一の魔界領となる、今はガイザの国のど真ん中と言う事になる。


 新たに建築したガイザの城は、山の長城の直ぐ側、振り仰げば、目に見える辺りだった。


「大海洋界に住まう人種ひとしゅである貴様が、魔女とどんな繋がりを持つ?」


 会って早々からずっと威嚇してくる、虎と狼と熊の能力を持つ、獅子のような顔の獣人。


 魔女セレーヌの言うとおり、筋肉至上主義と言うのは間違いないようだ。


「なんで俺だけなんだ?」


 脳みそまで筋肉でガチガチに固められたような巨漢の魔人が入り口を固める、恐らくここはガイザの私室、仲間達と離されて、一人で魔王と面談する展開になったのは誤算だが、今はまだ身の危険を感じる事はない。


「繋がりってもなぁ、俺が欲しい物があって、魔女が楽しませたら話を聞いてやるって事になって、闘い挑んだけどただ遊ばれただけで、けどその課程でセレーヌは俺を気に入ったって言ってくれた。……そんな所か」


 掻い摘んでではあるが、概ね今の説明で全て伝わるはず。


 それよりも気になるのは仲間達の事、自分は図太いと自覚のあるウイックは、この状況に何の緊張もしていないが、気の短いあの二人が大人しくしているかが心配になる。


 イシュリーとアンテがどうにか、上手く立ち回ってくれている事を祈るばかりだ。


「なんでだ? 俺と同じような事して、なんで俺より気に入られてんだ?」


「なんだ!?」


 いきなり大声で泣き出す魔人を前に、流石に動揺する秘術士。


 まさか一人にされた理由が、こういう場面になるだろう事の保険とは考えていなかった。


「俺に何かしてやれる事はあるか?」


人種ひとしゅの分際で生意気だな。だがそうだな少しお喋りにつき合え」


 少し泣きやむまで待って、始まったのは昔話。


 ガイザが魔王を目指したのは、野心を持っての行動ではなかった。


「俺が生まれたのは魔女の領内にある魔人街だった」


 どうにも長い話になりそうで、既にウイックはげんなりしている。


「魔女セレーヌは、ただ魔人としてダラダラ生きていくだけの俺に、すごい衝撃を与えてくれたんだ」


 当時17歳のガイザは城の魔人から、食料を育てる為に、魔物を管理する役職をもらっていた。


「もちろんやる気なんてなかったんだがな。食って行くにはしょうがない」


 ある日、魔女セレーヌがやって来て、仕事の全てを部下に丸投げしているガイザを、手を抜いている事を分かった上で、慰労してくれたのだとか。


「あれはいい女だな。特にあの腰つきがいい」


 田舎育ちのガイザはそれまで見た事のない、柳眉で小さな顔、線は細いが、肉質は力強く引き締まった肢体に魅入られ、なによりもその豊満なバストと、理想的な曲線のヒップラインに目が離せなくなった。


「あの頃の俺の事を、魔女セレーヌは全く覚えていねぇ。でも今はちゃんと俺の名前も言えるんだぜ」


 魔王になり、努力して勢力を伸ばし、今や広い領土を治め、多くの魔人を従える国王だ。


「しかも魔女の居城は俺の領土内に在るんだぜ」


 一体いつまでも何を聞かされているのだろう。


 今更ながらの無駄に感じるこの時間、結局ウイック一人に何を言いたいのか?


「お前、魔女セレーヌとはどれくらいのつき合いなんだ?」


 急に距離間を詰めてきて、「貴様」から「お前」に呼び方を改めて、親しみを込めてくる魔王。


「俺とセレーヌか? いやまだ知り合って数時間かな?」


「なのに名前を呼び捨てにしてるのか? もしかして影で勝手に呼んでるんじゃあないだろうな?」


「うん? ちゃんと本人からの希望でそうなったぞ」


 話を聞けば聞くほどに沸き上がる嫉妬心。


 爆発寸前の獣人は、暴れ出す寸前でセレーヌの顔を思い出し、この客人が魔女の使いである事を思い出す。ちょっと前のめりの体を起こして、深呼吸を一つする。


「なぁ、そろそろこっちの用件も聞いてもらっていいか?」


「うん? ああ、クレバーネの花だろ? ちゃんと用意してあるよ。なんせ城の庭に生えてるからな」


「おお、有り難い」


 正直言って、もうウイック一行は全員が疲労困憊状態。


 ここからガイザの領内を当てもなく探すとなると、一度休息が必要となる。


「おいおい、魔人相手にそんな簡単に願いが叶うと思うなよ」


 確かにセレーヌの所でも随分苦労をさせられた。


 お目当ての素材は既に手の届く場所にあり、このまま終われると思っていたのだが。


 上手く行き過ぎる展開に、この魔王に親近感が湧いていた事に反省する。


「一体、何をやらせようってんだ?」

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