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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
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6:冒険の指針について話し合う噺

 観光地に見つけたという、新たな秘宝に繋がる情報。


 その情報をミルに渡したのは、帝国でもかなりの大商人と名高い男。


 職業柄、情報を見極める能力も冒険者以上。


 更に今回の情報の出所は、商人が訪れたエルフの郷だと言う。


「こんな信憑性が高くて、ガセの可能性も低い情報を買えたのも驚きだが、いくら出して買ったんだ?」


 高い信憑性を持つ情報というのは、架空に作られた物が多く、高額の情報量を求められることも多い。


「お金なんて出してないわよ」


「なにぃ!?」


 ミルは承認の命の恩人である。お礼にと贈呈されたものだから、もしも偽情報でも構わない程度思いでここに来たのだ。


「なんだ、外れの率も結構高さそうだな」


「そう思うんなら、別に付いてこなくていいわよ」


「いいや、言っただろ? 俺はお前の鑑定眼を当てにしてるって」


「そんな事、自慢げに言ってんじゃあないわよ。それはそうと、こうして一緒に行動をするんだから、聞いておくわね」


 もう目的地はすぐと言う辺りで、ミルは足を止めて、ウイックが人を出し抜いてまで、手に入れたい物というのを知りたい。


「狙いが被ってたりしたら洒落にならないじゃない? 今更な気もするけど、確認させてもらうわ」


「なんだ、そんな事か」


 今までミルが、ウイックから受けた被害は、実のところあまり大きくはない。


「私が手に入れる予定だった金品の二、三割と……」


「旅費や食費とかは必要だからな」


「あと、ほらなんだったっけ、数回だけ、なんか小さい物を持って行ったわよね」


「ああ、こいつの事か?」


 ウイックは鞄に手を突っ込み、中からまた小さな革製の袋を取り出した。


 中には拳より大きなメダルが入っており、かなり手の込んだ細工が施されていた。


「それは?」


「やっぱり知らないか。なら一安心だな」


 ウイックは多くは語らずメダルをしまうと、道も知らないのに先に歩き出した。


「俺が欲しいのはこいつだけだ。だから6:4とか言わなくていいぜ。取り分は今まで通り、このメダルと生きるための金を譲ってくれれば、別のお宝は全部お前にやるよ」


 ウイック級の冒険者を雇おうと思えば、場合によれば有り金全部を要求されてもおかしくない。



「本当にそれでいいの?」


「今までと同じくらいだろ?」


「同じって、それは私の情報を横取りしていたから、遠慮してたんでしょ?」


「そうだけど、俺はそれで十分生きていけるから、別にそれでいいんじゃねぇか?」


 本人がそれでいいのなら、ミルからは何も言うことはない。素直にラッキーだと、喜んでおこう。






 歩き続ける二人は、陽の光が射し込む、拓けた場所に出た。


「これか?」


「そう、これが私がもらった情報にある石碑」


 5人くらいは並んで立てそうな大きさの、きれいに表面の磨かれた石の円座。


 不可思議な文様が描かれており、周りの石柱にも同じような模様が描かれている。


「なるほどな、こいつは転移用のポータルか」


 石柱にあるのは、ミルは見たことのない文字を、観察していたウイックが顔を上げる。


「そうなの?」


「お前が手に入れた情報だろ?」


 商人から受け取った情報通りにあった謎の石碑。


 ここへはミル一人でくる予定だった。


「あんたが役に立つって事が、早めに分かって良かったわ」


 すまし顔で言えた台詞なら格好も付くが、赤らめた顔で言われたとあっては、ウイックに笑いを堪えることはできなかった。


「はははっ、役立たずだと思うなら斬り捨てな」


「素直に斬られてくれる玉じゃないでしょ。あんたは」


「どうだかな? ……なるほどな。こいつで転移すれば、お宝が眠る場所があるってことかな?」


 深い茂みの中に隠れている石碑は、辺りに人が入り込んだ様子もない。


 あるのは獣の足跡くらい。


「行ってみるか?」


 この先に何があるのか想像もできないが、行ってみる価値は十分にありそうだ。


「それはいいけど。これ、どうやって使うの?」


「感謝しろよミル。こういうのは俺たち秘術士の分野だからな」


 あまりに出来過ぎた話だが、このタイミングでウイックと組めたのは、ミルにとっては強運が働いたと言っていいだろう。


「ただ一つだけ問題がある」


 喜んだのも束の間。


「な、なによ?」


「こいつは一方通行だな。行ったはいいが帰ってこれないし、到着地点の様子も分からない。正に一か八かってやつだ」


 これは確かに大きな問題だ。この先の情報なんて手に入るわけがない。一気にリスクが格段に跳ね上がった。


「伸るか反るかはお前が決めてくれ、俺はそれに従うからよ」


 どうも本気で言っているらしい、ウイックの顔を凝視して、数分固まってしまうミル。


 いともあっさり、当たり前だと言わんばかりに、運命を他者に委ねることができる神経は理解できないが、何故かその言葉は偽りないものに思える。いや、信じられる。


 だからこそ簡単に答えを出せないのだが、黙って考え込むミルの思考を掻き乱し、苛つかせたのはもちろんウイック。


「だからなんでこの状況で痴漢行為ができるんだ、あんたは!? ってあれ?」


 胸を弄ぶ手を払いのけると振り返り、問答無用で剣を縦に振り下ろす。


 容赦なく一刀両断された人型のそれ。また何かの秘術で煙に巻かれたと思ったが、頭を割られ倒れてしまい、ウイックは起きあがってこない。


「嘘でしょ、ちょっと!?」


 これからポータルを使って移動をするのには、この男は欠かせない。


 さっきみたいに手応えだけで、実際はノーダメージで終わるはず。なのにウイックは動かない。


「ちょっと、ちょっとちょっと、ふざけないでよ! ねぇ!? ……ねぇ?」


 ミルはまた胸部に不自然な感触を覚え、安堵感の方が先行したので少しの間好きにさせてしまったが、我に返って今度は握り拳で振り返り様、正拳突きを喰らわせた。


「なに、これもまた幻術の類?」


 めり込ませた拳を引き抜いて、一歩後ろに下がれば、目の前に動く秘術士と、足下で肉の塊と化した小男を視界に収めることができた。


「なによ。なにか言いなさいよ! 悪かったわよ。まさかこんなに綺麗にクリーンヒットするとは思わなかったのよ」


 顔面のダメージが酷くて、ウイックは喋る事もまともにできないようだ。


「それも秘術なんだ。怪我が簡単に治るのって便利よね」


 陥没した顔面を“回癒かいゆの秘術”で回復するのを見て、こういうのを自分もできればと思うが、回復のためのアイテムというのも色々あるし、8度目の無駄な努力はよしておこう。


「……待たせたな。それでこの先なんだが」


 ようやく見慣れた顔に戻り、脱線した話題も元に戻す。


「うん、危険かもしれないけど、やっぱり行こうと思う」


「そうか分かった。ちょっと待ってろよ」


「……何を?」


 そう言えば、なぜウイックが二人に増えたのか、その理由も聞かされていない。


「俺が使ったのは“身断みだんの秘術”という、平たく言えば分身を作る術だな」


「分身?」


 つまりミルが切り伏せたのはその分身で、五体満足で懲りもせず、悪戯をしてきたのが本体というわけだ。


「少し違うな。“身断みだんの秘術”は文字通り、この身を分ける術なんだ。だからもう一人をそんな風にされると死ぬほど痛い」


 精神がつながった分身は、ダメージも共有している。


「そんでそれとは別に、もう一人をポータルから送ったんだが、そこはここよりも深い森なんだが、特に危険な場所ではないようだぜ」


 向こうの様子も分かり、秘術の効果を解いたウイックは、同じように死んでしまった自分に念を込め、大地に解かして消した。


「あっ、と言う間に白骨化したと思えば、もうバラバラ……気持ち悪い術ね」


「生きていれば合体もできるけどな。死んだ奴はこうする方が早い。さぁ、行くんだろ向こうへ」


 危険がないと分かれば、先に向かうのに、躊躇ためらいはない。


ミルは今度こそ決断して、二人は転移先へジャンプした。

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