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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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29 最後の教え、免許皆伝? となる噺

 体力の限界はとっくに超えていた。


 それでも渾身の力で剣を振り続けたが、握力もない痺れた手から、武器を落とさないのが精一杯。


「ふむ、そろそろ限界じゃな」


 細身の刀一本で、グレートソードを捌き続けるザクサは、ミルの表情を読み取り、大剣の刀身を滑らせるように弾いた。


「あっ!?」


 頭上に飛ばされる剣、無防備なミルにザクサは横凪の一閃。


「ふむ、剣には好かれておるようじゃな」


 落下してきた剣が刀を受け止め、ミルは無傷で済んだ。


「勝負はまだ着いておらんぞ」


 落とした剣を拾うように促され、手を伸ばすが力が入らず持ち上がらない。


「その脱力状態で、いつも衝撃波を打つ時の力配分をしてみるがいい」


「衝撃波? 全身の力を手に集めるような、あの感覚?」


 大事な剣を杖代わりにしているその手に、言われたとおりにマナを集める。


 今まで無意識に込めていたのは聖光気、天上界の力が剣に注がれていくのが、今は実感する事が出来る。


「大きな剣だからと、力一杯振り回す事なんぞ考えんでもいい。お主を支えている力が手を貸してくれるからの」


 まだ握力すら戻っていない手で、大剣を上段に掲げるミルは、まるで扇でも振るうかのように、軽々とグレートソードを扱ってみせる。


「物はついでじゃ、そのマナを可能な限り剣に込めてみせい」


「なぜ貴方はそんな事まで知っているんですか?」


 聖光気の充填は止めて、ミルは質問した。ひょっとしたらこれ以上は関わってはいけないのかもしれないと。


「お主は剣聖と謳われた聖人のことは知っておるか?」


「天上界オーガイルの剣聖ミハイル=バファエラ様ですか?」


 天上界の住人は天使と聖人と呼ばれ、聖人とは大海洋界の人種ひとしゅのことなのだが、剣聖は最も天使に近い存在と言われていた聖人。


「あやつは天使になどなる気はないと、ずっと言っておったがな」


「剣聖様の事をご存じなのですか?」


「そうじゃな、あやつが現役の時は何度となく手合わせをしたもんじゃ」


 魔人と人種ひとしゅとでは時の流れが違う。それは天使と聖人とでも同じ。


「あやつが天使化を可能とした時、ワシからも天使化を進めたんじゃが、時の流れに任せるとか、あれは恰好付けじゃったな」


 今は大海洋界に住まい、隠居状態らしいのだが、他界との交流を絶つ天上界の間者としての使命を持つ剣聖となり、その事を知るザクサとは旧知の仲だと言うが……。


「なるほど貴方が剣鬼様でしたか。もとより隠し事をしようとするだけ、無駄だったのですね」


「ブランシュカはあやつの剣だったからのぉ。お主とあやつの関係は知らんが、どれだけの名剣かはよく知っておるよ」


 改めてマナを剣に送ると、ブランシュカは淡い蒼の光を放ち、もはや扇でもなく、羽根ペンのような軽さに。


「これって、かえって扱いにくいかも?」


「それはお主次第じゃよ。さてもう一試合といこうか」


 体力は底をついているが、今の軽いグレートソードならどうにか振り回す事が出来る。


「違う、ブランシェカが力を分けてくれる」


 本来なら聖光気は天上界か、大海洋界でも浴びられるが、今のように剣にたっぷり蓄えさせる事なんて、到底できる物ではなかった。


 魔力を理力に、理力を聖光気に変換できるランドヴェルノの技術は、為し得なかった状況を簡単に実現してくれる。


「ミハイルのやつは、術士としての才もあったからの。その術を持たぬお主も、補う技術を持っているなら問題はなかろうて」


 言われて少し恥ずかしい思いをしたが、剣聖と同じ高みを知って、少女はまるでサーベルを振るうように大剣を踊らせる。


 準備は万端。


 ミルはザクサに向かい、剣を両手で構える。


「すごい殺気、身震いが治まらない。出来ればあと十年修行してからにして欲しかった」


 弱音を吐くが、足にはしっかり力が入っている。身を低くし、どんな角度からの攻撃にも対応できるように、集中力を高める。


 ザクサは刀を鞘に収めて居合いの構え、待ちの姿勢のミルに先制攻撃で応える。


 剣戟は常人には目で追う事も不可能。ましてや刀のとる軌道を大剣で受けるなど神業以外の何物でもない。


「ほほっ、あやつとの試合にも勝る試合ができるとは、正に感無量じゃわい」


 流れは完全にザクサより、しかし相手の土俵でも引けを取らないミルを賞賛し、ザクサは更にスピードを増す。


「何する気よ。お爺さん!?」


「ほほ、ワシもまだ欲情を忘れてはおらんて」


 ミルの防具は徐々に外されていく。


 これは余裕があって遊んでいるのではない。


 本気でダメージを与えようとするも、紙一重で届かないので、皮一枚のところで掠めていく結果として、ジジイの性欲を満たす方向に転んだだけ。


 これ以上は許すわけにはいかない。ミルは自分からも攻撃を仕掛ける事に。


「もう流石にこれ以上は心身共に限界だわ。だからこの一撃に賭ける」


「ほほう、面白い。ではワシはそれを受け止めて見せよう。さぁ集大成じゃ。ワシを満足させる技を見せてみよ」


 下段の構えから低い姿勢を維持したまま突っ込むと、腰の捻りを生かす回転運動を巨大な剣に伝える。


 横に振り切った剣は刀にぶつかり、甲高い金属の音を響かせた。


「よもや、ワシの雷禅雉風らいぜんきじかぜをへし折ってくれようとはの」


 刀は鍔の辺りで真っ二つに、刀身は放物線を描いて地面に突き刺さる。


「ごめんねブランシュカ、私の力不足で……」


 ザクサはただやられるに任せることなく、ホンの少し手首を捻る事で、同じダメージを大剣にも与えた。


「安心するがいい、その剣はまだ死んでおらん。そしてワシはその修復を可能とする者を知っておる」


 真っ二つに折られた刀身を抱え込むミルは、ザクサから詳しい話を聞かせてもらう。


 大剣と防具をストレージに収納し、いよいよ秘術士の元へ、離ればなれの仲間達と合流する。

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