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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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28 心の深い部分まで覗き込まれてしまう噺

「先行してくださいライア、アイラ」


 ブランの言うとおり、あの闇が全てを吸い尽くす物なら、攻撃そのものが無意味かつ無駄なのかもしれない。


 そして援護攻撃を主とする、アイラが放つ風属性の衝撃弾は虚空に消え、イシュリーが獣王拳奥義の“獣王水撃破じゅうおうすいげきは”の水で作った半月型の刃を放っても、吸血鬼には届かない。


 近接攻撃がメインのライアの光属性パンチは……。


「ぐっ!?」


 それはブランの油断だった。


 ライアの光の拳は、光の精霊力のみが闇に吸われ、しかし打突の運動エネルギーは減水することなく本体に届いたのだ。


「とんでもない隠し球だな」


 大きなダメージとなったわけでもないが、この期に及んで秘密兵器を出してくる懐の深さに目を見張るばかり。


「まさかこんなにあっさりと弱点を見極められるとは思わなかったよ」


 吸血鬼の技は無機物には通用しない。


 しかしただ物理的な攻撃をされても、魔力障壁も兼ね備える闇の波動が支えきるが、そこを光の精霊力で打ち消してからの一撃。


「それは知りませんでした。結果オーライですね」


 打開点を見つけ、攻撃方法が決まったイシュリーは二体のゴーレムを前に、クロスレンジが得意ではないアイラにも拳法を使わせる。


 後方支援はイシュリーの仕事、“獣王の呼気”を覚えた事で発現可能となった奥義の一つ、“獣王雷神槍じゅうおうらいじんそう”で槍のようにした雷を落とす。


 呼吸を合わせて前に飛び出すゴーレム達、アイラが地の精霊の力で土砂を巻き上げ、ブランの視界を奪い、ライアが死角から殴りかかる。


「君は戦うだけが能かと思っていたが、まさかゴーレム操作にも長けていたとはね」


 ライアの右拳はブランの左掌の中、急に動きを止め、倒れてしまわないように、右手で優しく腰を支えられている。


「確かに無機物を吸収は出来ないけど、ゴーレムの動力源はマナだからね。そいつは生命力同様に、俺は吸い尽くす事が出来る。こういう風にね」


 今までにない速度でブランはアイラの所へ。


「一瞬で無力化されてしまうなんて」


「牙を立てさえ出来れば、こうしてゴーレムからもマナを吸収できる。格闘をこなせるようにだろう、人の血管みたいに張り巡らせた管から、外郭の隙間に差し込んで吸う事ができたからね」


 伸縮する牙を首の関節部にねじ込み、マナの伝達チューブに突き刺したのだ。


「今まで使わなかったのは、この子達にエナジーを充填するのに、かなりの時間が掛かったからだろ?」


 少し内部に干渉しただけで、そこまで読み取ってしまう。


 ブランの知識はビシャナからの受け売りの付け焼き刃だが、相手がそちらに疎いイシュリーには効果的。


 今までゴーレムを使わなかったのは、“獣王の呼気”を扱えるようになるまで、起動すら出来なかったからなのだが、マナを抜かれた二体が、直ぐには使えないとは思いはしなかった。


「これ、返すね」


 イシュリーの側まで来ると、丁寧に足下に寝かせ、律儀に一度距離を置いてくれる。


「格の違いですか? 私は最後の最後で出した奥の手でしたのに」


 諦めにも似た発言だが、その表情からはまだ敗北を認めた様子はない。


「そうか、ではこれを最後の手合わせとしよう」


 イシュリーの視界が歪む。これはビシャナの夢魔の力。それを納めていた小さな筒。ブランは夢の世界に少女を誘った。


「いい悪夢を見るといいよ」




 目の前の歪みは治まったが、ついさっきまでとは違う場所に立っている。


「ここは? あの魔人の姿もありませんが……」


 飄々としてはいたが、並々ならぬ殺気と、プレッシャーを垂れ流していた吸血鬼の気配を感じない。


「あれは?」


 左側に目を向けると人影が。


「ウイックさん?」


 もしかしたら転移させられ、一足先にウイックの元へ届けてくれたのだろうか?


「それはないですよね。私は魔人に勝ったわけではありませんし」


 何がどうなっているのか、確かめようのないイシュリーは、目の前のウイックに声を掛けた。


「ウイックさん?」


「うん、おおイシュリー! 無事だったんだな。他のみんなはまだだけど、先に紹介しておくよ」


 五体満足で無事に元気ないつものウイックの姿が、イシュリーを安堵させる。


 そしていつからそこにいたのか分からない、一人の見知らぬ少女と対面する。


「俺の婚約者だよ。俺が魔女様に拉致されたのを察知して助けに来てくれたんだ」


「へっ?」


 とても不自然で、信憑性の欠片もない話だが、イシュリーにはその発言を疑う事も拒絶する事も出来なかった。


「わりぃな。もっと早くに言っておくべきだったんだろうけど、本人の前でないと信じてもらえないかもとか、思っちまってよ」


 状況確認の脳作用は低下していないのに、事実確認の思惟が働かない。


「これからも俺を手伝ってくれるのは嬉しいが、こいつがいれば十分だからな、無理に一緒に来てくれとは言わないからよ」


 ブランの言葉が甦る。もしウイックに選ばれなければ……。


 このウイックはイシュリーが、冒険の仲間としても必要としていないと言う。


 真意の程は量れない。夢魔の力に逆らえないまま、涙がこぼれる。


「分かりました。でも私は……」


 働かない思考は胸中をさらけ出す。


「いつまでもウイックさんと一緒です」


 こうしてブランとの賭けに勝利したイシュリーは、本物のウイックを取り返す権利を得た。




 残るは……。

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