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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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27 獣王が更なる極みに、吸血鬼は全てを出し切る噺

 イシュリーの拳のキレは更に増していく。


 間違いなく実力ではブランが格段に上だ。自分の実力を見誤るほど冷静さを欠いているわけではない。


 それでも負けを認めるわけにはいかないのは、このような状況でも、心の片隅から消える事のない秘術士のために。


「何故だい? まっすぐに気持ちをぶつけても保留状態で、他の子にもいい顔してるよううな奴、君みたいな子が想ってやる値打ちなんてないだろう?」


 左右の拳による連打、その全てがドワーフが振るうハンマーに匹敵する威力で、さすがの吸血鬼も打撃を嫌い、後ろに下がるが、空かさず後ろ回し蹴りで追撃。


 巨大な岩石を一撃で粉砕する威力は、流石に喰らうわけにはいかず、上空へと回避する。


「ウイックさんは誠実な方です。貴方のように欲情を満たすためだけの、言葉巧みな見せかけの優しさでも、体を委ねる方はいるかもしれませんが、私の心はトキメキません」


 理力変換装置の扱いにも慣れてきて、精霊力が枯渇する事はない。


 獣王拳に精霊の力を上乗せ、技のキレも破壊力も増す。


 空中で一息つく吸血鬼に、大ジャンプで食らいつくイシュリーは、踵を相手の脳天に蹴り落とし、地面に叩きつける。


 ラッシュを続けるイシュリーだが、不思議と疲れを感じない。


 それどころか全身の活性化も感じるほどで、ブランを完全に防戦一方に追いつめる。


「けどそれだけの想いを抱いて、結果、選ばれなければどうするんだい?」


 吸血鬼の口撃は続く。


「特定の相手が決まれば、君には見向きもしなくなるかもしれない」


 手の止まるイシュリーの隙をついて、ブランは彼女の後ろに回り、首筋に噛みついた。


 伝承通りなら吸血鬼は、相手の血液を吸い、代わりに魔人の毒液を注入し、神経を焼き、忠実な下僕に変える事が出来るという。


「はっ!」


 イシュリーは右足のつま先をブランの額に打ち付けた。


 多少の血は吸われたが、意識はハッキリしている。脳へのダメージは回避できたようだ。


「貴方の思惑通りにはいきません。自分の言いなりにさせて襲うなんて、姑息な手段で私を落とす事はできませんよ」


 額に浮かぶ粒のような汗。


 ホンの一瞬ではあったが、吸血鬼最大の攻撃を受けて意識を保っていられる。それだけでその者の強靱さが覗える。


「少し強引すぎたかな。だけど益々君の事を気に入ったよ。後もう三回も血を吸えば、俺の物にできるかな」


 固有能力を使っての攻撃だ。それをズルだと抗議する事はできない。けれど人の気持ちを踏みにじるスキルなんて認めるわけにはいかない。


 イシュリーは精霊力を全身に行き渡らせて、抵抗力を高める。


「これは?」


 この時、イシュリーには思い掛けない事が起こる。


 恐らくは吸血鬼の血の影響で、無駄に力が入らず、脱力状態で全身に魔力を行き渡らせた結果、その高みにたどり着く事が出来たのだろう。


「これが“獣王の呼気こき”なのですね」


 獣王拳の開祖が高みを見たとされる領域。


 呼吸をするように、精霊力を全ての動作に纏わせる伝説の奥義。


 身体能力を向上が計り知れない。この状態で技を繰り出せば……。


「はい!」


 基本通りの正拳突き。


 バンパイアは初めて腕を使った防御をする。だが威力を全て受け流す事は出来ず、地に足を付き、踏ん張った足が後方に引き摺られる。


「これは驚きだ。まさか大海洋界の人種ひとしゅの少女が、こんな力を使えるなんて」


 久しく感じてこなかった高揚感。快楽を信条としているが、心躍る闘いに極上の快楽を感じるブランは、本気で目の前の少女を平伏せさせたいと念じた。


「こんな感覚は恐れ多くも、我が君主、セレーヌ様に挑んだ時以来だな」


 魔人の中でも高位の種族、中でもブランはバンパイアを統べるほどの力を持っている。


 魔女に敗れ、地位を捨てて軍門に下ってからは、かなり自由に行動を許されているが、戦闘に関しては力の行使を制限され、次第にこの様な興奮を得る事はなくなっていった。


「感謝するぞ。君なら俺の全力を受けきってくれそうだ。セリーヌ様からは禁じられているが、ホンの少しなら本気を出してもよさそうだ」


 白い肌は完全に色素が抜け、牙も伸び、目は真っ赤になる。

 驚きの現象は更に。


 ブランの体は手と足を残して陽炎のように歪んで見えなくなり、暗闇が渦になって光を飲み込んでいく。


「言っておくが、ここからは俺の体に打撃が通るとは考えない事だ。触れる物全てを飲み込む闇が、愚行の全てを無に還すからな」


 辺りに蝙蝠も居ないのに見えない体は、その正体をイシュリーが知るはずもないが、肌で実感する。ブランは嘘は言っていない。


「だからと言って、ここでギブアップするわけにはいきません」


 イシュリーもまた奥の手を使う。


 異空間ストレージから出てきたのは、獣王と似たシルエットの二体のゴーレム。


「ようやく起動できた、マーリア様から頂いた新たな力です」


 先獣王より注文を受けていたこのゴーレムは、イシュリーをモデルに設計された、ランドヴェルノ工房に訪問する少し前に完成したばかりの最新型。


 金色と銀色、色は違うがその他は全く同じ、獣王拳を自在に操るイシュリーの分身。


「ライア、アイラもお願いします。私に力を貸してください」


 金のライアに銀のアイラ。何でも吸い込むという闇への対抗になるかどうかは判らないが、本気の魔人を相手に、どこまで通用するかは分からないが、出来うる全てを注ぎ込む。

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