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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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25 記憶の迷宮で邂逅の旅をする噺

 ビシャナの小槌は、相手の神経に作用するアイテムだと当たりを付けたアンテは、ヘッドホンを頭に装着した。


 アンテの読みは的中。

 三半規管を狂わせる空気の波を鈴で生み出して、小槌で睡眠の効果を作り出し、ビシャナの固有スキルで、夢見心地の相手を一瞬だけ操作する。


 自ら向きを変えてしまっているのだが、それに本人は気付いていない。


「見破ってしまえば簡単なモノだったよね」


 アンテの謎解きを聞いて満足げなビシャナは小槌を仕舞って、最後の勝負だと取り出した魔道具を起動した。


「このカラクリを見破り、私と再会できたなら貴方の勝ち、自力で戻って来られなければ私の勝ち。私が勝てば約束通りに、一つ言う事を聞いてもらうからね。頑張ってね」


 目の前の視界がぼやけまたも転移。


 真っ暗だった魔界だが、それでも明かりは感じられていたのが、ここは全く何も見えない空間が拡がっている。


 自分の姿が見えるところから、ただの暗闇ではないようだが、普通の神経なら発狂してもおかしくない不安に駆られる状況。


「これって、もしかして夢の中とかかな?」


『本当に貴方面白いわ。それじゃあちゃんと説明するわね』


「ああ、そうか! ビシャナさんが取り出した立方体のキューブが、僕を結界内に捉えて、その中で夢魔の力を使ってるんだね」


『……人の話はちゃんと聞きなさいって、言われませんか?』


 開発者としての洞察力は流石としか言いようがない。


 けれど礼儀はなってない。魔人に言われる辺り、アンテはかなり問題のある部類だろう。


『こほん……、そこは貴方の記憶、思い出の迷宮である“スーヴニールラビリンス”からの脱出。私はそれをじっくり眺めさせてもらうわ』


 ビシャナはアンテの隠し事にかなり興味を抱いていた。

 彼女が言う隠し事には、アンテにも心当たりがあった。


「記憶の迷宮ってことは、僕の場合はきっと……」


 何故アンテは暗闇の中、目的もなしに歩き出したのかは本人も分かっていない。


 ただその歩みの先には懐かしい顔が。


「どうしたんだよ。ボケッとして、もしかしてまた誰かに苛められでもしたのか?」


 惚けてなんていないはず、今の感情は驚き、顔はビックリしているはずなのに、目の前の男の子は、小さな手で頭を撫でてくれた。


「大丈夫だよウイック、誰にも意地悪なんてされてないよ。ちょっとね、父さん……親方がね」


 なるほど記憶の迷宮と言うだけあって、目に映る物はどこか覚えのある光景ばかり、この頃はまだ4歳、いろんな事を思い出す事はできないが、強烈に残っている印象深い事が甦ってくる。


「親父さん? 頭領がどうしたんだ?」


「……うぅうん、何でもない」


「なんだ、もしかして俺にも言えない事か? しょうがねぇな。そんじゃあどっか遊びに行くか?」


 アンテの家は町でも名の通った大工の家系で、代々この町の建物のほとんどを手掛けている、大工組合の元締めもしている。


 跡継ぎの男の子を望んで産まれたのがアンテだったのだが、同年代の子よりも生まれた時から小柄な事が気がかりでしょうがない父は、食事の度に過ぎた量の食事を摂らせようとする。


 今日も朝からランドヴェルノの工房に逃げてきたのは、ここなら父親も乗り込んでこない事を知っているからだ。


「ララ姉ちゃんは一緒じゃないのか?」


 アンテには二歳半年上の姉がいる。


 いつも朝食の時間になると、母親と協力して、父の気を逸らせて逃がしてくれるのだが、今日はいつものようにアンテの手を引いて、工房まで来るララクララの姿はなかった。


「うん、お姉ちゃんは今日から学問所だよ」


 4歳と5歳のアンテとウイックはまだ行ってないが、この町では6歳になると、1年の初めの月から学問所に通う事になる。


「春の休みも終わりって事か、やっと静かになるな」


「ウイックが同じくらいに元気だから変わらないよ」


 大人達が仕事をしている工房を遊び場にしても叱られない子供達は、言葉遣いも同い年の子より増せているが、姉ララクララは7歳にして、12歳の男子を翻弄しているとか。


 そこで一度記憶は途切れたが、それでも目の前にはやっぱりウイックの姿がある。

 場所は彼の部屋。その時に何があったか、アンテは直ぐに思い出す。


「どうかしたのか? 元気ないぞ」


「うん、この前さ、弟が生まれたって言ったよね」


「おう、アンテと違って、かなりデカイ赤ん坊だったって、母ちゃんからも聞いてる」


 町でちょっとした噂になるほどの大きな男児。


「いつまで経っても小柄な僕じゃあなく、その子を跡取りとして育てるって言われて」


「んだよそれ、いくら頭領でも勝手じゃあないのか?」


「怒らないで、僕は平気。うちの工務店としても、きっと弟の方が職人さんも付いていきやすいと思う」


 ずっと先の話なのに、幼児が気にする事でもないのに、ウイックが本気で怒ってくれたから、アンテも腹を立てることなく、将来を考える父の判断は正しいのだと、子供ながらに思う事が出来た。


「よし、だったら俺達は錬金術を習おうぜ。家の工房を乗っ取るんだ」


「はははっ、でもうん、僕もそっちの方が興味あるかな」


 そうして僕は練金を、ウイックはこの後に起こる事件が元で、秘術の腕を磨く事になるのだった。

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