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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第二幕   類い希な生い立ちを過ごした男の探遊記
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23 新たな能力を手に入れて、最後の審判に挑戦する噺

 地面を走り回るのならと鬼ごっこをして、子供の頃は好きでよくやった隠れん坊ならと挑んだが、いずれもあっと言う間に敗北し、マニエルは少し趣向を変えて、素手での殴り合いを申し入れた。


「それもいいね。お姉ちゃんも鱗という鎧があれば、少しくらい叩いても平気だろうしね」


 なんて言っていたのに、ジャコウの一撃は恐ろしいほど鋭く、そして重かった。


「お姉ちゃんダメだよ。竜人化に頼り過ぎちゃあ」

「何言ってんのよ。竜人化しなきゃあ、私なんかが魔人の相手なんて、できるはずないでしょ」


 痛みは感じるが、ダメージを受けていると言うほどではない。

 竜の鱗がなければと思えばゾッとするが、この能力を利用すれば、今はまだどうにかやれている。


「う~ん、竜人の力を頼るっていうんなら、もっと上手に扱わないといけないよ」


 少年の姿をした魔人、天の邪鬼だと名乗った者の言う事を、と本来なら考えるものだが。


「あなた本当に天の邪鬼なの? なんかこう、とても素直ないい子だわ」


 ここまでのやり取り、本当に思っている事を偽り、本性を見せないという天の邪鬼の伝承とあまりにも掛け離れている。


 もっと巧妙に完全に騙すために詐っている恐れもあるが、全く危機感を覚えない状況に違和感すら覚える。


「他の天の邪鬼なんかはそうだね。だけどおいらは、ヘタな嘘をついたら、魔女セレーヌ様に怒られるからね。それに本気で楽しむなら、嘘は吐くべきじゃあないって、教えてもらったから」


 それを信じるかどうかはお姉ちゃん次第だよ。と付け足し、マニエルの竜人化の分析を続けた。


「そうそう、大事なのはイメージだよ。鱗を全身に鎧のように纏っているイメージ」


 人種ひとしゅの姿のまま、竜人化のイメージを脳内で固める。


 そんな方法があるとは思っても見なかったが、やってみると意外と簡単で、なにより鱗を表に出していた時には、防ぎ切れていなかった痛みの衝撃も、見えない鎧にした途端に感じなくなった。


「そりゃあそうだよ。人が鎧を着けているのと同じだもん。身につけている物が傷ついたからって、体が痛む事はないでしょ?」


 そして何より、傷ついた鱗の鎧は、張り直す事で直ぐに耐久力を回復する。もちろん魔力を消費するので、被弾をしない事が一番なのは間違いない。


「イメージの鎧の耐久性も魔力次第だからね。魔力制御の方法もちゃんと身につけないといけないよ」


 目に見えないのに絶大な効力を示す竜の鎧。竜人の力を変身しなくても使える事は有り難い。


 それでも翼や尻尾、腕のかぎ爪は実体化している方が効果的で、戦闘スタイルとしてはその三点のみを出現させ、あくまで人種ひとしゅの姿で闘えるようにイメージする。


「これで靴を壊すって怒られないで済むし、竜人化の度に服を脱ぐ事もなくなるわ」


 その後しばらくの間殴り合いは続き、マニエルは人の体で成し遂げられる最大限の力を手にする事が出来た。


「そうそう、それがドラゴンブレス。すごい威力でしょ?」


「口から吐き出すしか方法がないのが、あんまりオシャレじゃあないけど、これで少しはウイックの役に立てるようになったかしら」


 その咆吼は風の属性を示す、麻痺効果のある空気砲。

 射程はかなりあり、指向性も思い通りで、衝撃を辺りに広げる事もない。


「ふんふん、もう殴り合いは終わらせてもいいかな?」


 最初の競争からずっと魔力の使いっぱなしで、息の上がるマニエルは、またも完敗で終わった殴り合いも、悔しさよりも終わってくれた事にホッとして、その場でへたり込む。


「本当にお姉ちゃんと遊ぶのって楽しいな。そうだお姉ちゃん」


 ジャコウが思いついたのは、娯楽の続きではなかった。


「僕の物になってよ。そうすればお姉ちゃんを秘術士のお兄ちゃんのところに連れて行ってあげる。他の三人が失敗しても、お姉ちゃんだけは僕が護ってあげるよ」


 最上位に位置する魔人の庇護下に入る。マニエルが魔界の住人であれば、これ以上ない誉れであると言えただろう。


 しかし彼女は大海洋界に住む人種ひとしゅの少女だった。


「それ断ったらどうなるの?」


「どうもならないよ。実力で僕を屈服させればいい。満足させる一番の方法を棒に振るんだから、勝つ以外に僕が納得することはないよ」


 ジャコウの顔色が変わった。拒まれた事に、強いストレスを感じていることを隠そうともしないで、辺りに魔力を垂れ流す。


「しょ、勝負の方法はゲームって事で、変更はなしよね」


「いいよ、いいよ! どんなゲームだって構わないさ。僕は遊びの天才だからね。ゲームだったらセリーヌ様にだって勝てるんだよ」


 自信満々に乗ってきた。


 しかもどんなゲームでもいいと言質も取れた。


 マニエルはストレージから大きな鏡を取り出した。


「なにこれ? すごく映りが悪いけど、何に使う物なの?」


 続いて取り出した弁当箱のような物に、少し太めのヒモが三本付いている。


 一本は鏡に、もう二本にはそれぞれ突起の付いた板が繋がっている。


 突起は押し込む事が出来、放すと飛び出して元に戻る。


 どれもジャコウは見た事がない物で、興味津々で眺めていると、マニエルは自分の隣に腰を落とすように促した。


「これは“テレビゲーム”っていう装置なの。この鏡がテレビね。私の……仲間が作った物で、この鏡面に映るキャラクター、自分の分身だったりをこの板、コントローラーで操るのよ」


 言葉よりもやってみる方が早い。


 マニエルは魔力を変換した理力を使って装置を起動する。


 鏡面、否、画面に灯が点り、タイトル画面が投影される。


「なにこれ、なにこれ? 面白そう、面白そう」


 殺気を垂れ流し続けていたジャコウから毒気は削げ落とされ、興味津々に食いついてきた。


 マニエルは自分のフィールドに巻き込む事に成功し、また勝利を確信した。

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