22 道楽老剣士の個人指南道場開幕の噺
使いこなせば盾のように護りながら、打つ事も出来るグレートソードではあるが、太刀筋が全く見えない相手に、大剣を振るうのは誰の目から見ても蛮行。
「居合いって言ったかしら、剣筋? じゃあなかった太刀筋……だっけ、見えないものを防ぐには……じゃないわね。こうなったら手を止めることなく攻め続けないと」
受けは最小限に、取り回し難い大剣ではあるが、新しく貰ったアイテムによる身体強化で、今までにない振り回し方が可能になっている。
「頭で考えながらじゃあ追いつかない。だったら体が感じるままに!」
王国聖騎士から褒めてもらった戦術を今は忘れて、対戦中ではあるが、指南を受ける心構えで剣を振るミル、ザクサは口角を上げ、なにやら楽しげに抜刀すると、己から斬りかかる事はなく、しばらくは端から見ていると互角に見える打ち合いを続けた。
「なんとも素直な剣じゃな。悪くはないがもう一皮剥けんと先には進めんぞ」
ザクサはミルの剣筋に感心しながら、受け身一方だった太刀筋に一手二手と加え、ミルは防御も必要となる中、手数を増やして対処した。
(術式のお陰で武器がすごく軽い、まだ行ける。もっと何か、そう何かの切っ掛けさえあれば……)
「基礎は完璧、経験も十分、後はイメージを固め、実行に移す事じゃ。お主にはその為の知識と体、助けとなる備えもある」
ザクサはそう言うと、刀を両手で持ち、正眼に構える。
ミルの剣筋に合わせて切っ先を振るう。
「すごい、どんな体勢からでも正確な打ち込みができるなんて」
「ほほほっ、お主もしっかりと付いてきておるではないか。しかもその大剣の間合いも、ちゃんと理解できておる。次はこういってみるか?」
ザクサは久しく忘れていた快感を存分に味わっていた。
ここまで教えを理解し、実行に移す事ができる剣客には会った事がない、このまま回転数を上げて、どこまで付いてくるのか楽しみでしょうがない。
「じゃが……」
グレートソードの扱いについてはもう十分ではないだろうか? まだザクサの技には全く届いていないが、老剣士は次の提案をミルに申し立て、それに応じて美少女剣士はバスタードソードに持ち替えた。
「すまんな。しかしよく気の利くお嬢さんじゃな。この老の願い、察してくれて感謝の至りですじゃ」
道楽の魔人は己の欲求を言わずとも汲んでくれたミルに、老人は脇に刺したもう一刀を抜き二刀流に。
「その剣を双剣で扱える膂力に眼福じゃが、先の大剣のようにはまだ扱えておらんな」
両手で扱えば破壊力は抜群の片手半剣を、双剣に持ち、片手剣のように振るうのが目標。
「お主の利き腕は右手じゃな。しかし力が強いのは左手のようじゃ、ならこういう型はどうかな」
二刀流を双剣と見立てて、右足を前に前傾姿勢で型を取る。
右の剣で切り回しの早い太刀筋を、隙を見つけては左の大振りで決め手を打つ。
「やはりお主は勘がよいな。後は反復し、応用するイメージを作れれば、この技はお主の力となってくれるじゃろう」
ザクサの太刀筋を自分なりにアレンジし、キレのある剣筋で二本の剣を華麗に舞わせて見せた。
この調子でショートソードとダガーも、老剣士の納得いく形で扱えるようになり、次いで今一度グレートソードを出すように言われ、疑問を感じながらも素直に応じた。
「この剣はどこで手に入れたか、聞いてもいいかな?」
「それは……」
見事な装飾からは調度品に誂えられた物の印象を受けるが、その切れ味も強度も本物。 ミルが本気で振り回しても全く傷を残さない刀身は、並々ならぬ名を馳せた創造主を連想させる。
「なによりその施された術式は、その出所に心当たりがあるのじゃがな」
「お爺さん、ごめんね。あまり詳しくは話せない。でも私は必ずこれを、完全に使いこなすって心に決めて鍛錬を続けてる」
「なるほどの、まぁ詳しくは聞くまいて、じゃがこれを使いこなすというのであれば、お主は逃げ続ける事のできぬ、その足枷を外さねばなるまい」
バスタードソード、ショートソード、そしてダガーにも様々な仕掛けと装飾がされている。それらを掛けられた術式もろとも全てを使いこなしているミルだが、グレートソードに至っては衝撃波を打ち出すのがようやくの状態。
「それだけの業物、その全てを出し切ってこその剣の主ぞ」
ザクサは脇差しを鞘に収め、一刀を正眼に構える。
「ではこれが最後の試練じゃ」
すでに道楽の域を大きく超えているが、今までに感じた事のない高揚感に、鬼人はとっくに満足しているのだが、ここで終わらせる事も出来ぬと知り、本気の手合いを申し込んできた。
「ワシも持てる全てを出して見せよう。お主は命懸けでその大剣を持って我を討ち滅ぼすがいい」
感じた事のない程の殺気が襲ってくる。ミルはグレートソード“ブランシュカ”を大上段に掲げた。




