20 技術者の知恵比べ、発明披露合戦の噺
「すごいな、対象を任意で個別に転移する技術なんて、一体魔力をどう作用させればこんな事ができるんだ?」
アンテは手元に必要な計測器の用意がない事を、本当に悔やんだ。
「ちょっと……」
「魔力量は気になるほど上がってないな」
「聞こえてるでしょ?」
「待てよ。もしかしたら魔術ではなく何かの儀式じゃ?」
「いい加減にしなさいよ!?」
アンテは頭に被っていた耳当て、“ヘッドホン”と呼んでいる自作アイテムを外し、目の前をチョロチョロしている人の形をした影に顔を向けた。
「もしかして僕にご用ですか?」
「用もないのにこんな所にいやしないわよ。他には誰もいないでしょ?」
「本当だ。全然気が付かなかった。この辺りにいるのは僕たちだけなんですね」
目の前が歪んで、咄嗟に何か調べられないかと、ヘッドホンを頭に填め、バックパックの探査機能を起動し、測定するのに夢中で、周囲の事に目を向けられずにいた。
「それでどう言ったご用件ですか?」
「どう言ったって、あなたは自分の置かれた状況が、全く気にならないの?」
「僕の? ……そうですね。言われてみれば気になりますね」
アンテに話しかけてきたのは、ピンクの髪をポニーテールにしている、かなり女性らしさをアピールした、フェロモンを撒き散らしているような妖艶さを見せつける魔人。
ワンピースと言ってもいいのだろうか? 肩から足首までの着衣を腰で帯状の布で縛っている。
これもザクサの着流し同様、ジャバニの民族衣装で、着物という衣装は、花の模様が鮮やかで、見る者の目を惹いた。
「私はセレーヌ様配下の四楽天が一人、悦楽のビシャナ、淫魔ビシャナよ。あなた達はサキュバスって呼んでるんだっけ?」
ビシャナはザクサとジャコウ同様の説明をし、アンテに対しては、特に何かを要求する事はなかった。
「あなたってスンゴイ隠し事があるんでしょ?」
そう言われて、ここまであまり動じる事のなかったアンテが、初めて分かり易い動揺の色を顔に表した。
「ふふふっ、可愛い反応ね。私は刺激のある楽しみを求める、他の連中とは違うからね。さてどうしようかしら?」
既に極上の悦楽を感じているビシャナ、楽しい反応を示すアンテを気に入っており、条件は満たされたと言ってもいい気分になっていた。
しかし……。
「そうだ! 何かルールを決めて、勝負といきましょう。それで私が勝ったら、言う事を一つ聞くってのはどう?」
「もし僕が勝ったら?」
「もちろん条件クリアってことでいいわよ」
アンテは自分を、ここまでただ付いてきただけの、オマケだと思っていた。
でもここでは誰にも頼る事は出来ない状況。
他の魔人というのが、どんな条件を出しているのかは分からないが、アンテにとってはビシャナは、一番厄介な相手という気がしてならない。
「あなたも素敵なアイテムをたくさん持っているのね。私も自作の魔道具が武器なの。楽しいお遊戯会になりそうね。それじゃあ先ずはこれ!」
取り出したのは扇。竜巻を起こすことができるとかで、更に水芸にも秀でていて、竜巻に巻き込まれたモノを水没させ、水圧で強く捻り上げられることもできるらしい。
「あなたの物は独特で羨ましいわ。こんなありきたりな物……、ちょっと悔しいわね」
ビシャナは悔しがっているが、威力だけで言えば、とてつもない能力を持つ魔道具を前に、焦りを隠す事はできない。だが対処法も同時に思いつく事ができた。
アンテは理力銃に鉛弾を入れる。弾には特別な術式が込められていて、ビシャナが扇を振って発生した竜巻、その根元に向けて弾丸を撃ち出した。
「うそっ!? 掻き消されちゃった」
「冷凍ブリットを使ったからね。竜巻の性質に合わせて、上昇気流を打ち消してやれば、そのくらいはなんとかなるから」
「まぁ、これって洗濯の為に作ったアイテムだから、攻略されたからって問題ないない」
言葉とは裏腹に口を尖らせ、さっさと扇をしまって、次に出したのは鈴の付いた小槌。
「次はそっちの番ね。私が凌いでみせるから、何か見せて頂戴」
いつから交互にアイテム披露をする事になったのか知らないけど、曖昧だった対戦も方向性がハッキリしたところで、アンテはサイドアームにゴーレムハンドを装着し、靴に取り付けてあるアイテムの機能を動かした。
「ホバーシューズの実用テストをさせてもらうよ」
高速移動を実現させるため、ホバー機能の付いた靴は、理力で制御も簡単で、上手く使いこなせば、格闘の経験のないアンテでも、ヒット&アウェイをやってのけるはず。
「行くぞ!」
ビシャナの小槌が、どんな能力を持っているのかは全く想像もつかないが、速攻を掛けるに調度いいシューズでダッシュする。
「ええっ!?」
突然目の前が歪んで、眼前まで迫っていたはずの淫魔を見失ってしまう。
「こっちよ」
真後ろからする声、不敵な笑み、きっと小槌の効果だろうけど、何がどうなったのかが全く分からなかった。
「まだ僕のターンという事でいいのかな?」
「もちろんよ。私に一撃をちょうだいな。それができないなら、勝負は私の勝ちという事でね」
アイテムの選択は間違っていないはずだ。
アンテはホバーダッシュを何度も繰り返し、その全てを謎の回避行動で後ろに回られ、全く打開点を見つける事ができず、だけど参ったと言うわけにもいかない。
「そろそろ諦めたら?」
余裕のビシャナ。その言葉に気持ちが折れそうになるアンテ。
「もしかして……」
ホンの少しの弱音が頭を過ぎった事で、何かが引っ掛かった。
アンテは脳細胞をフル回転させて打開点を探り始めた。




