18 新たな局面、剣豪と相見える噺
「なるほどの、それは面白そうだ。よかろう、お主の申し入れを呑んでやろう」
ウイックとの取引を承諾すると、魔女セレーヌは勝利宣言をし、秘術士を連れてその場から消えた。
残された四人の少女は愕然とし、事態を受け入れるのにしばらくの時間を要した。
「私達、間に合わなかったの?」
「だから私が竜人になったままで押し切って!」
「いや、あれはいいんだ。でないと君の事が気になって、二人が最後の追い込みができてなかったよ」
「あんたは黙っててよ」
「落ち着いてくださいマーニーさん」
「どうして落ち着けるのよ。なんであんたは冷静でいられるの!?」
「冷静でなんか……、けど今は前向きに!」
「前向きってなによ!」
「黙れ!!」
マーニーはアンテの冷静さも、イシュリーの諫めるような口調も、火に油を注がれる思いで激しく興奮した。
ミルの一括で息が詰まるが、まだ気持ちが収まらず呼吸が荒い。
「変に冷静にならなくてもいい、おかしく考える必要もない。けどマーニー、ちょっと深呼吸して、そうしたら頭を上げなさい。ウイックは死んだ訳じゃあない。この世界のどこかにいる。だったらまだ私達にはやれる事があるんだから」
悔しさなら自分もきっと誰よりも強いはず。そう自覚するミルは、自分に言い聞かせるように声を上げると、自らも顔を上げる。
「ここ、どこ?」
今まで側にいたはずのイシュリーも、アンテもマーニーもいない。
「よく参られた」
「おじいさん? なんでこんな所にって、偶然な訳ないわね。魔人、よね?」
とてつもない殺気を感じる。只者ではない威圧感に押しつぶされそうだ。
「待たせた? みたいね。説明をお願いするわ」
止まらない震え、膝を折らないのがやっとの状態だが、今すぐ襲いかかられる様子ではない。
体中の毛穴から汗が流れて止まらない。それでも気を確かに保ち、ミルは問いを投げ掛けた。
「ほほほっ、それでこそワシ自ら参った甲斐があるというもの」
ミルは見た事のない着流し姿の白髪の老人は、腰にこれも見た事のない刀という武器を携えている。
大海洋界でも獣王の神殿のある列島の極東、四島にあるジャバニと言う地域で使用されているが、中央大陸では誰も着ていないのだから、ミルが知らなくても仕方のないことだ。
「先ずは自己紹介じゃな。ワシは八大魔王が一柱、魔女セレーヌ様が配下、四楽天が一人、“道楽のザクサ”と言う。ワシは鬼、中央大陸ではオーガと呼ばれとるがの」
この世界では神格化されている魔王を柱と呼び、名乗りを上げたザクサは四楽天なる称号を頂いているようだ。
「こんなにも強い殺気を持った魔人が、他にも三人。もしかしなくてもみんなの所に?」
「その通りじゃよ。そうじゃな、ではその辺りから話をしよう」
先ず聞かされたのは朗報。ウイックはただ敗北を宣言しただけでなく、魔女相手に取引をしたという事。
魔女と取引なんて、と言う非常識は置いておいて、そのお陰で逆転のチャンスが残されたのだから良しとしよう。
「つまり私達は、あなた方が望む形で、満足させればいいという事ですね」
「左様。我らは、魔女様を初め、皆一楽を求める者。それぞれ曲者ではあるが、それぞれに楽しませてくれたなら、主等の望みを叶えよとの命じゃ」
四人の魔神はそれぞれに望む逸楽が違い、ザクサを喜ばせるのにはミルが最適だろうと選ばれたらしいが。
「ワシは少々剣術に興味を持っておっての、お主は様々な武器を巧みに使いこなすようなので、よければこの爺に指南を願いたいのじゃよ」
地道に冒険者や秘宝ハンターを続けているだけでは、この出会いはなかっただろう。老剣士は嫌みなほどに謙虚で煽て上手だ。
格下相手に饒舌にメンタルを攻撃してくる。これも老人の楽しみの一つなのだろうか?
「ほほほっ、愚鈍に実力を図れんではないようじゃ、なのに揺さぶりにも動じず、その精神力を保てるとは、ホンに楽しみだわい」
ウイックを人質に捕られている今、拒む事はできない。最善の策を講じて、どうにか老人を楽しませるだけの技を繰り出さなければならない。
ミルはショートソードをストレージから取り出し、両手剣の構えで身を低くする。
「ほほぉ、刀がどう言った物か、鞘から抜かずとも想像ができているようじゃ」
ザクサは抜刀することなく、利き腕は右腕なのだろう柄に手を添え、右足を前に摺り足でジリジリと近寄ってくる。
まだ敵の刀という物の長さを確認していない。鞘より長いことはないだろうが、見ない事には間合いが全く読めない。
ショートソードを構えるミルの間合いの、三倍の距離でザクサの動きが変わった。
突然視界から消える魔人、いや、まさかの目前にいた。
摺り足の状態より更に低い姿勢になり、とてつもないスピードで突進してきた。
そしてミルの間合いに入った途端、老人の右腕が消えてなくなる。否、信じられない神速で横に薙ぎ払われた。
恐らくは偶然タイミングが合っただけ、軌道は予想通りだったが、反射的に手の角度を変えていなければ、上半身と下半身は真っ二つに別けられていただろう。
「ふむ、よくぞ受けきった」
「あ、貴方が寸止めを考えていなかったら、こうはいかなかったと思いますよ」
「なになに、それでも初見で受けられるというのは、正直ワシもショックを受け取るよ」
初めて見る居合い切りを完璧と言える一振りで防げたが、手に残る痺れは、少しでも角度が違えば剣は折られるか、飛ばされていただろう剣圧を実感している。
老人に見えても魔人、正直言って、いつまでもこんな緊張感の中にはいられない。
ミルは一番得意なグレートソードに持ち替えた。




