11 新たな旅の仲間が加わった噺
出発を前に工房に集まった時、ミルは一つの事を思い出した。
どうしてウイックは女性の胸やお尻に執着するのか?
聞きそびれていた質問の答えは、性的な欲求とは少しかけ離れたモノだった。
「だから言っただろ。触り心地が好きだからだよ」
そんな胸を張って威張る事でもないが、ウイックには悪びれる様子もなく、それが本心なのは疑いようもない。
「ごめんね。変な癖付いちゃったのは、私の所為なのよ」
ウイックの体は魔晶石に取り込まれ、今形付いているのはアストラルボディー、精神体でしかない。
その体質を直すため、メダリオンという道具が必要となるようだ。
長年の研究の末にたどり着いた答えだが、秘宝中の秘宝であるメダリオンの制御は難しく、一枚一枚に持ち主の思念を刻む事で、力の受け取り先を設定できるようになる。
ウイックの魔晶石の力を相殺できると考えている。
力を抑えれば体を魔晶石から取り出し、ウイックは元の体を取り戻す。ことができるかもしれない。
「持ち主となる人はね、この子と心の一部を共有する仲になるから、ちゃんと了解を得なさいとは言っておいたんだけど、本当にごめんなさいね。貴方達にはこっそり術式を仕掛けたって、さっき聞かされたわ」
メダリオンの持ち主を確定し、その力を正確にウイックへ送るための術式、それが“操体の秘術”の正体だった。
「ミルに本当のこと言ったら、絶対触らせてくれねぇからな。いいじゃねぇか、減るもんじゃあなし」
母の手で人相も分からなくなるほど、ボコボコに殴られたウイックは平に謝り、イシュリーも、意外な事にミルも、軽く謝罪を受け入れてくれた。
「その術式を仕掛ける方法が、あの痴漢行為だった訳ね」
その感触に快感を覚え、隙あらば狙ってくる理由も分かった。
それにしても曖昧な情報を頼りに、危険な場所に行かなくてはならない、ウイックの状況は存外に思わしくない事をミルは察する。
「他の方法を見つけられたら良かったんだけど、それはまだ見つからなくてね」
魔門界へは、魔物門を使って入り込む。
だがそれは前代未聞な試み。
マーリアは考え得る安全策を全て用意した。
「これが転移門の入り口と出口を、安定して繋げる為の装置ね」
見た事も聞いた事もない技術をふんだんに取り入れた、言わば魔道具。その運用と整備点検をするために、装置の開発者が同行すると紹介された。
「アンテロッサ=フローランです」
分厚いレンズで目の形は分からないが、耳元で短く切った髪は鮮やかなシルバーブロンド、華奢な体躯に厚い胸板が不釣り合いで印象的だ。
「男の子……かしら?」
「みんなからはアンテと呼ばれています」
ミルの目にはかなり中世的に見える、そばかすがまた特徴的な顔は、華奢な体にも増して小さく、かなり幼く見えるが、半年後には成人すると聞き、ほんの少し驚かされた。
「うちの工房の一番若い子。だけど腕前は一級品よ。まだ年若いから見習い扱いにしてるけど、この子なら成人して直ぐにでも店を預けられる。そう思っているの」
アンテは練金や鍛冶の腕前もさることながら、他に類を見ない、正に規格外の発明能力が高く評価されている。
「この子が得意なのは“カガク”と言う、特殊な技術よ」
ランドヴェルノの八代前の頭目は、子供の頃に神隠しに会い、戻ってきた時に会得していた不可思議な謎技術だ。
「高度な付与術式を道具に、お手軽安価に仕掛けることができる、夢のような技術なのよ」
異空間ストレージなど、ランドヴェルノでしか扱えない商品に用いられている。
しかしそのカガク技術を、工房の職員はほとんど理解していない。
今の工員は単に設計図通りに組み立てて、それを売っているに過ぎず、故に一つを作るのにも時間が掛かってしまう。
「この子はそのカガクをちゃんと理解し、自分の物にしちゃってるから、まだ商品化できてないけど、いろんな画期的な発明を次々としてるのよ。新開発部門長と言ったところかしら」
グレーのツナギに黒のゴム長靴、背中には特徴的な箱が背負われている。
一目見た時から他とは違うと感じたが、そんなすごい変わり者とは思わなかった。
「変わった荷袋ね。あまり物が入りそうにないけど、何が入ってるの?」
硬質であちらこちらに小さな穴があり、どういった用途で使われるのかは分からないが、押すと引っ込み、手を離すと戻ってくる突起がいくつも付いている。
「これはバックパックという物で、鞄じゃないですよ」
様々なボタンもケーブルジャックもメンテナンス用で、この装備の使用用途は。
「これが僕の武器です」
魔門界へ同行するアンテは、技術者としてはもちろんだが、戦力としても期待していい。と自信満々でマーリアが言う。
両脇腹当たりを通って、体の前にくるグリップを握り、幾つか付いてあるボタンを操作すると、細長いパイプで繋がったストーンゴーレムのように大きな手が出現した。使わない時はストレージに格納されているそうだ。
「このサイドアームは、僕の思い通りに動かせるんですよ。こんな風に」
巨大な拳は、工房にあった鉱石を一撃で粉々に破壊した。
「他にもいくつかの武器を用意してるので、魔門界に行く時に現れる魔物門、そこから出てくる魔物を僕が狩ってみせますよ」
未知の世界を前に、頼もしい戦力が増えて、喜ぶミルとイシュリーは、アンテと握手を交わした。
タイミング良くと言っていいのだろうか? 二日続けての魔物門の出現を、冒険者協会の職員が知らせに来た。




