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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
37/192

36 乙女の祈りが深い闇を照らす噺

 エルラムの黒翼の様な鳥の物に似た羽根。汚れ一つ無い白鳥のような純白の翼を広げた。


「あなた! ミルさん、まさか!?」


 突然大声を上げて、エルラムがミル目掛けて突進してきた。


「今は貴方の出番ではありません」


 盲目に猪突猛進する黒鳥を、獣王の回し蹴りが吹き飛ばした。


「がはっ!」


 今日初めてではないだろうか? エルラムは地面に叩きつけられ、土煙を上げる。かなりのダメージを受けて、直ぐには動く事ができない。


「さぁ、ミルさん」

「ありがとうイシュリー。……さぁウイック、一緒に帰りましょう」


 両手を広げ宙に浮かぶミルは、少しずつウイックに近付く。


 無数の風の刃がミルが身に纏う防具を切り落とし、服を散り散りに刻んでいく。しかし彼女の肌までは届かずに、風は掻き消される。


 ゆっくりと彼の間近まで寄り、両手と翼を使って男の体を優しく包み込んだ。


「今この瞬間だけは……、お母様、私がこの力を使う事を、どうかお許しください。お兄様、貴方は今も……、奇跡をここに“ホーリーウイスパー”」


 ウイックの耳元で力ある囁きを聞かせると、眩い光は行き場を失っていた理力の塊を飲み込み、輝きが収まると同時に、乱れたマナを沈静化させた。


「ウイックお願い。目を覚まして……」


 清らかな乙女の祈りは、より強い光を生み、理性を持たぬけだものの心の深層にまで届いた。


「ここって絶対に感動のシーンのはずなのよね」


「ああ、俺はマジで感動してるぜ。それに感謝してる」


「だったら……」


 光と共に散った翼、その中から出てきたのは上半身裸の男と、無惨に切り刻まれた衣服から白い柔肌を覗かせる半裸の女。


 女の胸元は男の右手が、左手はおんなの臀部に。いつもの光景が、ようやく立ち上がったエルラムの前にあった。


「勝負あったなエルラム。体の自由は奪われていたが、お前らの話は全部聞こえていたぜ。今回はミルの完全勝利だ」


 左の頬を思い切り叩かれて、真っ赤にしているウイックが勝利宣言をした。


 イシュリーに思い切り蹴り飛ばされ、晴れ上がった右頬を自らの法術で治すと、冷静さを取り戻したエルラムは深く溜め息を溢した。


「こいつは貰っておくぜ」


「どうぞ、ご随意に……、今回の誤算はミルさんの存在ですね。こんな事なら最初に殺しておけば良かった」


 嘆息し、もう何も言葉を交わす気もない様子で、今度こそ姿を消した法術士、今度こそ今回の騒動は決着したと、拡がる静けさが物語った。


「イシュリーもサンキュー。最後のケリ、朧気ながら神業だって事は感じたぜ」


 カウンターで入ったとは言え、人一人をあそこまで見事に吹っ飛ばす威力、獣王の名に恥じない一撃だった。


「ウイックさんもご無事で何よりです。それよりミルさんに何か着る物を」


「今はこんな物しかないぞ」


 居心地悪そうに残った生地をどうにか掻き集めようとしているミルに、ウイックは自分のローブを被せてやる。


「こんな物でも、羽織ってないよりはマシだろ?」


「あ、ありがとう。遠慮無く借りておく」


 まさかこんな場面で、ウイックが優しく手を差し伸べてくれるとは思っていなかった。不意打ちを食らったみたいでミルは耳まで真っ赤に染めてしまう。


「おお、お主達無事だったか?」


 精霊力が完全に元に戻り、幼女の姿に戻った女王陛下他、騎士団員が駆け寄ってきた。


「ウイック、お主はトンでもない術が使えたのだな。あの竜を一撃とは正直に驚かされたぞ。これは間違いなく勲章物だなエレノア」


「そう、ですね……、脱獄については事情聴取が必要ですが、受勲については異論はございません」


「では宴も催せねばならんな」


 豪快に笑う女王陛下は上機嫌だが、流石に一同は疲れを隠しきれない。


 ウイックはティーファ達騎士団を引き連れて、“遠渡えんとの秘術”を使い、洞窟の最下層へ移動した。


「ミルさん、イシュリーさんもご無事で何よりです」


 出迎えてくれた騎士団長達から報告を受ける。


 ミルとイシュリーの分も藍玉と紅玉の両騎士団が、洞窟の全ての探索を済ませてくれた。これで依頼は完了となった。


 ウイックはもう一踏ん張り、皆を連れて城に転移したところで、今度は本当に過労で倒れて爆睡したのだった。

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