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若くして大秘術士と謳われる男の探遊記  作者: PENJAMIN名島
第一幕   若くして大秘術士と謳われる男の探遊記
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33 新種登場、瀕死の状態で覚悟を必要とする噺

 アークアースドラゴンは体内の魔力をかなり消費し、動きも鈍くなってきている。


 近衛騎士団参戦で戦況は一転。ブレスを吐き出す暇もなく、小さな傷を受け、時折大きく血しぶきを上げるドラゴン。


 時間が経つにつれ、精霊の濃度も増している。


 誰もが勝利を確信していく中、ウイックだけが妙な胸騒ぎに、ホンの少しの苛立ちを覚えていた。


 未だ回復しきらない体。


 本当なら半日以上は寝ていないといけない状態だが、今はただホンの一握りでいい、理力を制御できる力が戻って欲しい。


「あいつ何のために残り少ない魔力を、体の真ん中に集めてるんだ?」


 エルラム同様にマナの流れを読み取れるウイックは、アークアースドラゴンがまだ何か隠し持っている事を見抜く。


「ミル!」

「ウイック?」


「今すぐそいつにトドメを刺せ! なんか嫌な予感がする」


「分かった! みんな一斉に行くよ!!」


 その言葉に呼応して、ミルとイシュリー、ティーファと近衛騎士団が、一斉に大技を繰り出す。


 ミルの剣戟、イシュリーの拳撃、メルティアンの精霊術が炸裂し、ドラゴンは断末魔に似た叫び声を上げる。


「終わった? のかしら」


 ミルは渾身の一撃を放ち、肩で息をする。


 頭と尻尾、四肢を失ったドラゴンは大量の血液を吹き出しながら動きを止めた。


 のだが魔力は依然として、残された胴体でくすぶっている。


「まずい、何かあるぞ。油断するな、もう一度攻撃を!」


 このウイックの叫びに応えられる者はいなかった。


 渾身の力を込めたのはミルだけではなかった。そして誰もがドラゴンの姿を見て、最期を確信しているので、完全に気を抜いてしまっている。


 いち早く動いたのはミルとイシュリーだったが、それも一足遅かった。


「何が?」


 ドラゴンから強大な魔力が吹き出す。辺りの精霊力は再び吹き飛ばされてしまい、メルティアン達は全て膝を付いてしまう。


 流石にミルとイシュリーは後ろに下がる。メルティアン達もどうにかこうにか後退するが、もう騎士団に闘う気力は残っていない。


「なんなのこれ? ウイック、あんた何か知ってるの?」


 ウイックの傍らまで来たミルは聞いた。


「エルラムのやろうは一流の法術士であり、剣士であるが、何より錬金術師としては、超を更に超える一級品だからな。何かを仕込んでいるとしても何の不思議もない」


 そもそもドラゴンを飼い慣らすなんて事は、一朝一夕で出来る事ではない。


「なんかあいつの発明品で言う事を聞かせているんだろう。……なんだあれは?」


 変化が現れたのは先ず背中からだった。


 昆虫の繭が開くかのように二つに割れた胴体から、飛竜の物のような翼が出てくる。続いて首の長い頭部と同じほどの長さの尾っぽ。


「飛竜とは違うようですね。あの顔は見た事がありません」


 イシュリーは武者修行で様々な魔獣と戦い、その中にも小型のドラゴン種は、相当な数討伐してきた。


 ポータルをフル活用して世界中飛び回ったが、こんなドラゴンを見た事はない。


「アースドラゴンは野生種だったようだから、寄生させたんだろうな、卵か何かを。ドラゴンを進化させた術は、あれを成長させるためでもあったんだろうさ」


 新種のドラゴンを作り出し、ここで実験、と言ったところだろうか?


「あいつの性格であの進化型アースドラゴンが完成品なら、最初からアースドラゴンの子供なんか差し向けやしないだろうからな」


 新型種はゆっくりとだが、アースドラゴンの殻を破り、前足、そして後ろ足を持ち上げ、全身を露わにしたところで、翼を大きく広げ宙に舞う。


「なんなのあいつ、並のプレッシャーじゃあないわ」


 アークアースドラゴンなんて目ではない。ミルは肌で感じる圧力に身震いする。


「トンでもない魔力量だな。半端な術じゃあ、魔法障壁すら抜けねぇだろうぜ」


 障壁は物理的にも有効な物だと、ウイックは“鑑査かんさの秘術”で調べた事を教える。


「では私はあまりお役に立てないかもしれません。獣王拳には精霊力を拳に込める技もあるのですが、まだ上手く使えないんです」


「私は……、理力剣で攻撃可能だと思う。どれだけ効果があるかは分からないけど」


 明らかに十分ではないが、騎士団が当てにならない今、有効打を持っているのは……。


「ミル、今からちょっと大きな術のために理力を高める。時間稼ぎ頼めるか?」


「ちょっと待って、あんたそんな顔色でそんな無茶!?」


 ウイックはミルの唇に右人差し指を当てて、言葉を制止する。ついでに左手を胸に。


 左手は盛大な音を立てて払いのけられるが、ミルの眼差しは真っ直ぐウイックを捉えて離さない。


「やっぱり無理よ。立ってるのがやっとなんでしょ? それなら私が……」


 ミルは言葉に詰まった。「私が……」と今一度繰り返した。


「覚悟も決まらねぇようじゃ、当てにさせて貰うわけにはいかねぇな。いいから俺に任せろって」


 覚悟がどうのと言って、躊躇いながら放った技で、どうにかできる相手でもないのは自分も分かっている。さっきから肌で、ヒシヒシと感じているのだから。


 突然ウイックはローブを脱ぎ、インナーシャツも脱ぎ捨てた。


「な、な、なっ、何脱いでんのよ!」


「心配するな。俺の不死身っぷりは知ってんだろ?」


「それと裸と何の関係が……、その胸の、宝石? なんなの……?」


 ウイックの胸元にある硬質な物。鈍く紫色に光り、その中心は緑色に明るく輝いている。


「俺はこいつが傷つかない限り死なない。だから安心しろってことだ」


 それを今なぜ説明するのかは分からないが、その“魔晶石ましょうせき”が破壊されない限り、ウイックは不死身なのだそうだ。


 新種の竜がこちらに気が付いたようだ。


「そんじゃあ、もう少しだけ時間稼いでくれな」


 ここはウイックに賭けるしかない。ミルとイシュリーは走り出した。

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