38 大団円? 終演を向かえるためには、な噺
これまでにない高出力の秘弾を受けて、それでも大魔王は余裕の笑みを浮かべている。
「ふむ、確かにこの力ならば人間の姿をした我も、繭であった我も耐えられなかったであろう。13の魂がお前に力を貸しているようだが、まだ足りんぞ。やはり紛い物の神の想像を超える存在たらしめんか」
秘弾を前に突き出した両手で受けとめる。
確かに威力はすさまじく、体が保たず崩れていくが、この程度ならまだ再生能力の方が勝っている。
「13人の祈りじゃあ足りへんってことなんか?」
「そんな、メダリオンは全部で13枚、烙印は13人にしか刻めないじゃない」
ノアールとセイラが言うように、こちらは可能な限り万全に備えてきた。それを……。
「13人じゃあ足りねぇか、そう言う事なら、今度の今度こそ最後にしてやるぜ」
使った理力は補えばいい。
しかしまた一から溜める時間はもらえないだろう。
攻撃を受ける度に耐性を付ける大魔王は、戦えば戦うほどに強くなっている。
「我、理を解き……」
「えっ、呪文の詠唱?」
突然ウイックが秘術発動の呪文を詠唱し出す。
ミルはこの男の口からこの様な詠唱を聞いた事はない。
「なるほど、イメージをより強めるために、ちゃんと詠唱をすることで威力を増す気ですのね」
エルラムが感心するが、ただそんな方法だけで、あの大魔王を討つ事なんてできるのだろうか?
「我、理を解き、精霊の王ラグーンの名に於いて、理力の成せる大いなる力を解き放つ、“秘弾の秘術”」
さっきの術に匹敵する秘弾が飛び、避ける事もせず、大魔王は今度は片手で受け止めた。
「同じ事をしたところで、無駄なあがきだ」
ウイックは念話で皆にイメージを飛ばしていた。
少女達が胸の前で組んでいた手をお腹へ。
「大魔王様よ、烙印の乙女が13人しかいないと思ったら、大間違いだぜ」
過去に例のない秘弾を撃ち続けるウイックは、魔晶石が活性化されていくのを感じ、ありったけを秘術に流し込む。
「なっ、何があった。何がこの様な!?」
ヴァファムーアの体は散り散りに、再生が追いつかず分子のレベルまで分解されていく。
「知ってッか? 女は偉大なんだぜ! その体に自分とは別の命を産み出すことができんだからよ」
「ひ、一、つのから、だに二つの、い、いの、ち、だと……」
散り数多も残さずに消滅した大魔王、その魔力の欠片ほども感じない。
「これでお主も静かに眠れよう、なぁ悪魔王アゼリエル」
セレーヌは深い鎮魂の黙祷を捧げ、開眼すればそこは闇の世界。
光差す闇でセレーヌの目の前にいるのは、あの歪んだ紛い物の神と、小さな女の子に皇天使ミカナフの姿。
「なんだ、冥府の王はおらんのか?」
「彼にはそこの神がオリジナルから複製した、魔物と妖怪の後始末を頼んだよ。ついでに亜天使もお願いした」
鎧姿のミカナフが長剣を見えない床に突き刺し、柄を両手で押さえて立っている。
「な、なんだ? ここはどこだ? もしかして俺はゲーム内に閉じ込められたのか?」
「神を名告る愚か者よ」
「お、愚かって俺の事か、お、お前は確か魔女セレーヌ」
「前世を離れ、時空間が異なるこの世界に転生を遂げ、愚かにも己を神と思い違いし者よ」
「な、何言ってんだ。たかが一キャラクターが、お前を作った製造者に、なんて態度だ?」
「愚か者はどこまで行っても愚か者か、死して尚前世に執着し、現世における己の役目も果たせん役立たずが」
マナ術式がなく、カガク……科学文明の発達した世界で命を落とした男は、創造の神々に呼ばれ、ギフトを与えられて転生を果たした。
「ば、馬鹿馬鹿しい。そんな流行物みたいなことが、現実に起こってたまるか!?」
「お主の感情なぞ知らんが、お主が戯れに生み出した大魔王もようやく呪縛が解けた。
我が友、悪魔王の無念も晴れた。罪深き人の子よ消え去るがいい。
今のお主には神々の加護も届いては居らん。
お主もまた妾達と同じ見捨てられし者、観察者で有りさえすれば、いつまでも夢を見ていられたであろうに」
紛い物の神は反論の間も与えられずに姿を消した。
「いやしかし、君が無闇に別世界への干渉をするなんて、本当に思いもしなかったよ魔女セレーヌ」
「何を言う、お主はずっと世界に干渉し続けていたではないか、精霊王ラグーンよ。自らの分身に統治者の真似事をやらせてな」
「なにメルティアンの女王なんて、そこの皇天使に比べれば可愛いもんではないか」
「そうだな、作り物の皇天使を二体も用意し、自分の行いを正当化させる。面倒くさいやり方は二人ともよく似ておる」
ともかく紛い物の神の始末はついた。
セレーヌは目を閉じ、お腹の辺りをさすりながら物思いにふける。
「君こそ驚きだよ。まさか人間の……人種の子供を授かろうとはね」
「お主も分身を育てるのではなく、自らの子供を宿すのも悪くはないと思うぞ」
「はははっ、気が向いたら試してみるよ」
目を開いた魔女の目の前では、少年と少女達が手を取り合って無事を喜びあっていた。




