35 反撃開始、と思えば再逆転!? な噺
「それが限界か?」
ヴァファムーアは深い溜め息を溢し、回りをチョロチョロと飛び回る少女達に、少し強めの衝撃波を浴びせた。
悲鳴を上げて吹き飛ばされるミル達、ダメージを受けたわけではないが衝撃波には麻痺の効果があり、皆は膝を付いたまま動けない。
「貴様等では我を止めるに足りんようだ。これ以上は時間の無駄だな。我は速やかに人種とやらの排除を始めよう」
ノアールがいち早く麻痺から回復し、大魔王を結界内に閉じ込めるが、濃度の高い魔力で押し返され、簡単に抜けられてしまう。
「まずいよウイック……、まだ動けないの?」
「いや、もう大丈夫だ。待たせたなみんな」
ブランシュカを杖代わりに立ち上がるミルの肩をポンと叩き、少年は大魔王の前に立つ。
「ようやく体が馴染んできたぜ、なぁ大魔王様よ、暴れ回る前に、ちょっと俺とも遊んでくれよ」
「ほぉ、確かに貴様の理力とやらは、我に刃を向けるに値する位置まで来たようだな」
ヴァファムーアは魔弾を放つが、それをウイックは右手で受け止めて握り潰した。
「す、すごい」
直ぐ後ろで見ていたミルは素直に驚き、体が麻痺から回復するのを感じて剣を構え直した。
「ミル、休んでろよ……。さて人の体で本当に扱いきれるのか、五分五分の賭だったけどどうにかなった。もう不死身の体ではないが俺は今、過去最強だぜ」
超回復能力は健在だが、頭を潰されればジ・エンドなのは、精神体の時のようなデタラメとは違い、シビアになったと言わざるを得ないが、大魔王相手でもいい線行ける確信は持てている。
「ミル、みんなも頼む! 俺のために祈ってくれ、烙印の乙女の祈りを俺にくれ」
メダリオンを通してウイックの力はみんなに、みんなの想いはウイックに届く、こうしてここまできたここが正念場。
「なら妾も一緒に祈りを捧げよう」
「いいのかセレーヌ?」
「構わんよ。これはもう大海洋界だけの問題ではないからのぉ、それでも直接に手を下す事はできん、妾はただ見守るだけだ」
13人の乙女が揃い、これで敵わなければ大魔王妥当は達成できないだろう。
「いざとなれば封印を、なんて事はできねぇもんな」
「そうだな。我を封印するための魔晶石も人柱もない。お主諸共消え去るというなら叶うかもしれんがな」
「いいや、そんなつもりは更々ねぇ、俺はお前をこの手で消滅させてやる」
先制の風刃を飛ばし、ウイックは宙に飛んだ。背中には漆黒の翼。
攻撃から逃れるために上昇する魔王を追って、次に氷弾を連続発射。
大魔王は指弾で氷弾を迎撃、落雷で反撃してきたが、妨雷で相殺する。
速攻はまずまずの成果を上げ、ヴァファムーアは初めて顔を歪めた。
乙女達を麻痺させた衝撃波を放ちながら突進してくる。
だがウイックは冷静に“雷鳴の秘術”で、衝撃波も本人も両方を遮断、雷に襲われる前に後退した大魔王はダメージを受けはしなかったが、狙い撃たれた“光弾の秘術”が直撃する。
思わぬ攻勢を続けるウイックは、このまま押し切れるのではないか?
仲間達はそう感じるようになってきていたが、相手は伝承にある中で最大の災厄とされる大魔王、そう簡単にはいかない。
距離を置いた攻撃は決め手に欠ける。
近接する危険をウイックは忘れていたわけではない。
だからこそ敢えてプロテクターを装着して、ミサイルを全弾発射したのだ。
「アイコ、レールガンだ」
この装備は込めるマナの量が増えただけ、強力な弾丸が撃ち出せると教えられた。
はたしてミサイルの煙が晴れるより早く発射!
「見事に命中した」とAIは教えるが、最強のバケモノは煙が晴れた中にはいなかった。
「くそっ、見失った。どこ行きやがった?」
その場に向かう事は危険と分かっていた。
しかし状況を確認するためには他なかった。
ウイックが少女達の目の前から消えてしまうのは一瞬の出来事だった。
「くそっ、ここはどこだ?」
突然目の前が真っ暗になった。
「くそっ、トチったか」
現状を理解するのに時間は必要としなかった。ここは大魔王の闇の中だ。
「取り込まれちまったのか? いや違うな。まだ呑み込まれただけだ。だとしたらこの中にヤツもいるよな。いったいどこだ?」
このまま消滅させられてしまうという心配はなかった。
「お前は我という存在を越えた。それは認めよう。しかしお前は我から逃れられん。吸収できないとは思いもしなかったが、お前も打つ手はないのであろう?」
目の前にいる大魔王に光束を撃つが、秘術が敵を捕らえる事はなかった。
「ここはヤツのイメージの中とかか? まずいな……、セレーヌか、せめてアンテがいてくれたら何か掴めたかもしれんが……。こいつが何か俺のためになる事を教えてくれたりはしないよな」
「お前さえいなければ、我を止められるモノは居らぬ、例え魔女でも我を止められない。これで人種を滅ぼす事ができる」
万事休すか? 打つ手無し? いやそんなはずがない。
「そうだ、俺は一人じゃあないんだ。多くの仲間が今も俺のために祈ってくれているはずだ」
余計な事を考えず、ウイックは瞳を閉じて自分の内側に目を向けた。
「これは……声? 俺を呼ぶ声、あいつらの祈りか」
『みんな、俺を感じ取ってくれ、俺に道を教えてくれ、俺をここから連れ出してくれ!』
こんな所で一生を終えるつもりはない。と言うか一秒たりともいたくはない。
『本気で頼む、一生に一度の頼みだ、一生尽くすと約束するから頼むぅ』




