34 秘術士は未だ本調子にならない噺
戦いの幕は再び切って落とされた。
ウイックの体に改めて移植された魔晶石、昔のように肉体を失うことなく、マナも安定をしてくれたものの、まだ生身の体には馴染んでおらず、高いレベルの理力を扱いきれず、最大出力をイメージした秘弾は、想像以上の威力を発揮した。
「恐ろしいな、まさかたったの一発で滅んでしまうところだったぞ」
「言ってくれるぜ、肌が焼けた程度のくせによ」
その火傷もあっという間に回復して、大魔王はお返しにと右手に込めた魔弾をウイック目掛けて投げてくる。
「お、おいおい待てよ。お前それ全力の何割の力だよ」
“鏡反の秘術”で打ち返そうとするも、その弾圧に押され、魔弾は真っ直ぐ返す事は適わず、闇の圧縮弾は空の彼方へ消えていった。
「こいつを相手に、あれだけ闘えてたんだなあの神さん」
もしかしたら共闘していれば、この大魔王とも対等に渡り合えたかも知れないが、頭にそう過ぎっても、それでも先に神が片づいた事は正解だったと思える。
「が、くそ、詠唱も無しに、なんて強力な術を発動させんだよ」
人数にモノを言わせて畳み掛けているから、狙いを定めさせず、みんなも無傷で走り回ってくれているが、いつか誰かがやられるのではと思えば、打開点を早く見つけないといけない。
「ちょっとあんた、真っ赤な顔して大丈夫なの? 汗の量もひどいし」
「お前は調子良さそうだな、ミル」
「ああ、うん。 ホンのついさっきからね、すごく体が軽くなったの」
それは他のメンバーも同じ、何より変化が大きいのはシズ、彼女は意識を高めれば実体化を自由に行える幽霊だが、本人の意志に関係なく、いつの間にか肉体が具現化していた。
「なのにあんたはどうしたの? 体調悪いの?」
出端にデカイ花火を打ち上げはしたが、後は防御術を使っただけで、激しく肩で息をつくほど、どうにも今までとは勝手が違う。
「ああ、いや大丈夫だ。なんか胸の辺りが熱いが問題ない。生身で扱うにはこのマナの量は負担が大きいらしい。けど少しずつだが慣れてきている。しばらく時間をくれれば使いこなしてみせるから」
強がりを言っているわけではない。
まるで獄炎に包まれているようだった熱量は随分と下がってきて、今は限界まで高温に熱したサウナに入っている程度になっている。
「すまねぇな、この局面で足手まといになっちまって」
「何を言ってんのよ。そんくらいなんて事はないわよ。けどサッサと使いこなして見せてよ。あいつはきっと貴方でないと倒す事はできない。全世界のみんなの命運は貴方にかかっている」
「プレッシャー掛けるなよミル」
「アイナ、こいつの事お願いね」
イシュリーが接近戦を仕掛け、善戦しているが相手は涼しい顔を崩す事なく軽く受け流している。
ミルは加勢に入り、二人がかりのラッシュも、大魔王は片手でいなしてみせる。
セイラのステイタスアップの秘術で体術を強化しても尚、アーチカの剣もエレノアの剣も、ヴァファムーアの皮膚を刻むくらいしかできない。
「わ、私も参ります」
シズは何か感じる物があり、それまでアイナニナと共にウイックの側にいたが、被害拡大を抑えるために結界を張っているノアールの元まで飛んでいく。
「肉体を手に入れても、宙に浮けるんだなシズは」
危険な距離まで近付いていく彼女を止めようとしたが、アイナニナの治癒を受けているウイックはこの場を動けず、見送るしかなかった。
「シズ、こんな所まで来て、危ないやろ、下がっとき!」
「平気ですノアールさん、私たぶん今なら、みんなが答えてくれるような気がするので」
そう言うとシズは両手を組んで祈りを捧げる。すると多くの霊体が現れ、最前線のみんなのところに飛んでいく。
「怨霊の皆さんにお願いしました。大魔王さん相手では、転ばせるくらいしかできないかもしれませんが、牽制にはなるかと」
「へぇ、そんなんできるんかいな?」
「はい、生前の巫女の力が使えるような気がしたので、試してみたらできました」
全員が全員、能力の向上を実感している少女達、大魔王の顔色を変えさせる攻撃ができているわけではないが、圧される事もない。
「アイナ、ありがとう。随分と落ち着いてきたよ。だから後はみんなのために」
「あ、えーっと……、分かりました。私はお祈りするくらいしか能はありませんが、皆様のために奇跡を願ってみます」
アイナニナの願いは天に通ずる。そこは天上界ではなく神界に届く道。
可能な限り躱してはいるが、ヒットされても無傷で済んでいるのは、本人の能力が高まっているのもあるが、首の皮一枚のところでは、アイナの祈りの奇跡に助けられている。
状況は芳しくないのにウイックはまだ、まともに動けずにいる。
マニエルとエルラムが放出系の術を仕掛けるも、敵に届く前に無効化される。
暫く続いた膠着状態だったが、少女達の体力の消耗が、少しばかり目立ち始めた。




