33 大魔王に説明役を丸投げしてみる噺
「な、なにをする!?」
全くの無警戒、無防備の神の背中を襷掛けに切りつけると、残っていた鎧は完全に破壊され、深い傷を付けられ、よろけながらミルから離れていく。
「悪いんだけど私達は満場一致で、貴方を先に片付ける事にしたのよ」
「お、愚かな……、お前達はこの世界を終わらせたいのか?」
魔王は野放しにすれば、五大世界の全てを焼き払いかねない。
そんな危険な存在よりも不気味な、紛い物と呼ばれる神を先に始末するという判断に間違いはないはず。
「もういい、分かった。全てを終わらせてやる。今すぐログアウトして、サーバーごとバッサリと、なにもかもを終わらせてやる」
呼び出した宙に浮く文字列の表、呼び出した操作板に手を伸ばす。
「なっ!? なんでログアウトボタンが反応しないんだ?」
またミル達には分からない謎の言葉を吐いている神は、狼狽え方が尋常ではない。
イシュリーは両手を前に掌底を打つ。
「ぐぁはっ!」
体をくの字にして腹を押さえる神に、ピューレは武器を大槌にして頭をかち割る。
俯せに倒れ込む神に、マニエルは両足を揃えて相手の背中を踏みつけ、手を掴んで振り回し、魔王に向かって投げ捨てる。
意識を失った神は、大魔王が出す黒煙に呑み込まれて、跡形もなく消えてしまった。
静寂が訪れる。
黒煙を収めた大魔王が目を瞑っている。
「これで我らは自由を取り戻す。悲願はここに果たされた」
ヴァファムーアは目を開き、まだ作業の続くウイック達の方を見やる。
「なに? 今度は私達を殺ろうっての?」
ミルは大剣を握る手に、無駄な力が籠もるのを抑えられない。怯えているのだ。
「ミルさん、とにかくここは何か話を振ってみませんか?」
イシュリーは時間稼ぎを提案してくる。
確かに分からない事だらけだし、無駄かもしれないが大魔王に話を聞けたら、それこそ打開案が浮かんでくるかもしれない。
「ねぇ、大魔王様、貴方の目標は達成されたのよね?」
「……そうだな」
乗ってきてくれた。
「と言う事は、あれが貴様の言う紛い物の神で間違いないという事だ」
一時休戦を察したアーチカも近付いてきて、ミルの横に並ぶ。
「そうだな。世界の理に触れ、戦乱を生むことなく改革のできる者を神と呼んでいる、紛い物だがな」
「その神様の事を、貴方はなぜそんなに嫌っていたの?」
「嫌ってなどはおらん。ただあの紛い物を許す事ができずにいただけだ」
ミルの問いに大魔王は興味なさそうにしながらも、懇切丁寧に答えてくれる。
「創世の神々がこの世界を食物連鎖のバランスも考えずに、無闇に我を生み出してみたり、世界の混沌を望み、戯れのままに戦乱を巻き起こし、それに飽きたら人間の勇者に道具を与えて我を封印させ、太古よりの時を越えてまた我を甦らせた。
自らの欲求を満たすためだけに多くの生命を翻弄し続けてきた。
「神の奇跡を起こせようとも、紛い物と呼ぶ他ない所行、許されるものではない」
大魔王と呼ばれる存在でありながら、聞こえてくるのは至って筋の通る話。
「我の行動理念は創造の神々に通じるものだ。その理から逸れる存在を抹消する。それこそが生まれるべきでなかった我に、存在意義を与えてくれた先神への報いとなる」
その理念に基づいて、先神の意に沿わない紛い物の神の抹消も完了した。
「そんでお前はこの後はどうするつもりなんだ?」
「ようやく終わったようだな」
ミル達は時間稼ぎをしていたつもりだったが、大魔王ヴァファムーアは全てを察した上で、ウイックの邪魔をしないよう待っていてくれたようだ。
「流石は伝説の大魔王様だな。俺は俺でやれるだけの事をやったが、勝てる気がしねぇや」
「ウイック、男に戻ったのね」
「なんだよ、女のままの方が良かったのか?」
「バカね……、そんな事より勝てる気がしないって?」
ミルはウイックがなぜ、大魔王を挑発するような態度を取るのかと聞く。
「こいつの目的は本人が喋ったまんまさ。創造神が望んだ世界を取り戻す事。その為には俺達は人種ではなく人間に戻らんといかん。のだよな?」
「お前はどこまで理解に及んでいるのかは知らんが、お前等が人間に戻るなどは叶わぬ事だ。滅びるのが必然と知れ」
創造神が作り上げた世界、そこに生まれた知的生命体、人間がなぜ人間ではなくなり、人種と呼ばれるようになったのか?
「教えてくれるよな大魔王様よ」
「この世界には人間が扱えるマナは存在しなかった。
人間は魔人や妖怪共に虐げられるだけの存在だった。
人間は力を持てぬままに燻り、しかし人間はどの世界の生き物よりも発達した知恵で科学文明を生み出し、やがて世界は均衡していくはずだった」
だが紛い物の神によって人間に与えられたのは、魔力や妖力を理解し、人でも扱える力に変換する術、理力を手にした人間は魔人や妖怪よりも力を増し、パワーバランスの崩れる世界は、まだそれだけならば放置しておく事もできた。
「そこの錬金術師は過ぎた技術を手に入れた。それが大問題になる」
アンテのカガク技術は別格として、ランドヴェルノが扱う技術が問題視されているのだ。
秘術と科学を手にした人間族は、もはや人の形をした別の何かになっていた。
「神をも脅かす存在、あの紛い物の神がそれまで人間だったお前達を人種と呼び、我と共に創造の神々に背く力として手駒にしようとしていた。
我は人種を全てこの世界から排除し、神々が望む世界に戻す義務が残されている」
大魔王はなぜ創造主たる紛い物ではなく、世界創世の神に準ずるのかを語ろうとはしないが、これでヴァファムーアが自分達が倒すべき相手である理由は、みんなにも伝わった。
「わ、分かった? ピューレ」
「うぅうん、全然だよセイラ、マーニーは分かった?」
「わ、私に振らないでよ。多分この中で今のが分かったのって……」
伝わって……いなかった。
ウイックを含めて6人、ミル、エルラム、アーチカ、そしてアイナニナとアンテ。
神話や伝承を暗記して、分析能力のあるメンバーだけが理解することができた。
「でも大魔王ヴァファムーアが、私達の敵なのは変わりない事は、よく分かりましたよ」
イシュリーが覚悟を決め、全員が同調する。
ウイックは復活した魔晶石からマナを受け取り、最大出力の“秘弾の秘術”をいきなりぶっ放した。




