32 神と魔王を天秤に掛ける噺
「あいつの事、どう思う?」
あいつこと神と大魔王の闘いが始まった。
十分な距離を取ったつもりだが、魔力と感じた事のない類のマナの激突、肌にピリピリ感じるほどの緊張感が届く。
「もの凄い力だ。あの大魔王に引けを取ってねぇ」
この世界にはまだ神がいて、あの冴えない青年は大魔王が言うところの“紛い物の神”なのだろうか。
「紛い物ってなんだ? 聞いた事もない言葉も喋ってたが、耳振が効いてるんだから、聞き間違いじゃあねぇよな。てことは俺の知らない内容ってことなのか」
よく分からない技術を持っていると言えば。
「アンテには分かったのか?」
「何となくだけどね。でもやっぱり知らない言葉もあって、判断材料としては色々足りないかな」
闘いは単純に術の行使合戦。武器を手にはしているが、魔王は爆裂級の魔法を放ち、それを簡単に防御する神。お返しの光線もヴァファムーアは魔法障壁を六重に張って防ぎきる。
魔王は落雷を落とすも、光線と同じくらいのマナの放出量で作ったドーム状の防壁で受けきる。
「お、俺達は俺達ができることをするぞ」
間もなく合流してきたアーチカ達は、無事に求めていたアイテムを、可能な限り全部回収してくれた。
「なんなんだ、あれは? あれを見てお前達の無事を案じたが、全員いるようだし、大魔王と闘っているのは何者なのだ?」
回収アイテムを受け取りながら、5人に説明をすると、5人は決闘場へ改めて目を向ける。
「我々はあれと戦うのか?」
「潰し合ってくれるのはありがたいがな、どちらが残ってもろくな事じゃねぇ気がするんだよ」
神という存在が害ある者なのかは、ハッキリ言って知らない。
魔王を倒したら消えてくれるなら、ヴァファムーアを討つ手伝いをするのも悪くはないが、紛い物の神と言われる理由が気になってしかたがない。
「それはそうとウイックよ。言われたままに魔晶石の残骸を集めてはきたが、こんな物をどうするつもりだ?」
マナを追って集めた欠片は、合わせれば元の形を取らせる事ができるほどに、余すことなくと言っていいほど、とことんまで探してきてくれた。
「こいつをまた俺の体に移植する」
「まっ、待て!?」
アーチカも昔の話は効かされているので、ウイックがなぜ体を失い、冒険を続けてきたのかも知っている。
「大丈夫なの?」
仲間でも、旅を一番長く一緒にしてきたミルも心配をしている。
「俺は師匠を信じるよ。魔晶石に関する研究資料は全て目を通した。アンテも時間がある時に検査を続けてくれたしな。今度はちゃんと師匠の思い描いたみてぇに成功させてみせるさ」
戦闘は激しさを増しているが、ノアールとエレノアが懸命に壁を作ってくれて、衝撃波をせき止めてくれている。
ピューレとマニエルが障壁の無効で警戒してくれている。
「それじゃあアイナニナ姫とシズは、ウイックに再生術をかけ続けて、怪我はしてないけど、治癒をするイメージでね」
アンテはワークボットを収納し、バックパックを背負う。
「うん、セイラはこの魔晶石が一纏まりでバラバラにならないように、強化術を掛けておいて」
アーチカとミル、イシュリーとエルラムには、アンテのバックパックにオーバーブーストを欠けるためのマナを分けてもらって起動、作業を開始する。
「マズイよ。なんかあの人達、こっちに少しずつ近付いてきてるみたい」
魔晶石への強化とウイックの生命維持の治癒術を開始した途端に、状況は変化が生まれ、タイミング悪く神と魔王は戦場をこちらへと移そうとしている。
「場所、移すわけにいかないの?」
マニエルの目には劣勢にある神が、魔王の攻撃を避けながらこっちに寄ってきているように見える。
「急いではみるけど、今から止めらんないよ。魔晶石の加工を始めちゃったからね」
装置の起動に必要なマナの供給の終わったミルと、イシュリーにアーチカはマニエル達のところに行った。
「ごめんねエル、君は最後までつき合ってね」
「もちろんですの、ワタクシの術衣でなら、出だしのビックリするほどのマナ量は無理でしたけど、後の分は間に合うのでしょ?」
「うん、頼むよ。みんなもお願いね」
アンテの作業は順調なのだが、完了にはまだまだ時間が掛かる。
敵の足を押さえるのは至難の業と思えるがやるしかない。
「どうする姫様、この場合はどちらかに手を貸すべきだと思うんだけど」
「そうだな。だったら胡散臭い神という方だな。どうもワタシはあれを受け入れられないのだ。だから魔王に手を貸さないか?」
「奇遇ですね。私もそうです」
ミルとイシュリーが走り出し、ピューレとマニエルがそれに続く。
アーチカには念のために、ノアールとエレノアが張る障壁と結界の位置に残って貰い、特攻隊は魔王との挟み撃ちの態勢を取る。
「なっ、なんなんだお前達、来てくれたのか? 俺に手を貸してくれるか?」
神は見るも無惨な姿で、鎧はボロボロ、剣も盾も持ってはいない。
「よ、よしこれで形成を一気に逆転させてやる」
現れたばかりの時のような冴えない青年に逆戻り、やはり神とは到底思えない男は、こちらを巻き込んで逃れようと考えていたようだ。
ミルは構え直したミレファーレを、敵対者に斬りつけた。




