31 大魔王の目的が少しだけ見えてくる噺
部下が追い込まれても、動じることなく佇む大魔王だったが、目を開けると大きな声を上げてディーフィンを呼ぶ。
「早く来い!」
その一言に大ダメージを受けた悪魔は、残り少ない魔力を使って、主の眼前まで跳躍する。
「しまった、逃がしちまった。まさか大魔王があんな大声上げるなんて思ってなかったから、思わずマジマジ見ちまったじゃねぇか」
ウイックはレールガンの砲身を大魔王のいる方に向けると、躊躇なく発射する。
狙いはディーフィンだったが、弾丸がヒットしたのは、彼女を庇って前に出てきたヴァファムーアの右手。簡単に握り潰されてしまった。
「とんでもねぇな。やっぱり逃げねぇか? 勝ち目ねぇよ、今のままじゃあ」
言葉とは裏腹に諦める気などない闘士漲る目、少女達を引きつける魅力がここにもある。
「ふん、相手はしてやる。だが暫く時間をもらうぞ」
大魔王の体から滲み出る黒い霧。
「お前の力、我に渡してもらうぞ。我の糧となれ」
「御意、元よりそのつもりです」
ディーフィンは霧に呑み込まれ、苦痛に耐えながらその姿を消した。
「ふむ、忠誠に報いよう、我らが悲願、ここに果たそう」
大魔王ヴァファムーアは地表に立ち、ウイック達立つ方角から、二時の方向に目を向けて、ディーフィンがやったように右手を振り上げて、掻ききるように空間を割いた。
「見つけたぞ、神よ」
避けた空間の向こう、暗がりの向こうにいるのは一人の青年。
ヴァファムーアは神と呼ぶが、変わった服装はしているものの、どこにでもいるようなパッとしない容姿の男は、大魔王のみならず、ウイック達のことも順番に顔を見ては、驚きのあまり表情を凍り付かせる。
「な、なんでこいつらが俺の世界にいるんだ? なにがあったんだ!?」
混乱状態の青年は、直ぐに我に返り、ラフな恰好からゴテゴテとした戦闘向けとは到底思えない全身鎧に身を固めた。
「なんだ? あっという間に姿が換わっちまった。さっきのヤローが入ってるのか?」
ウイックは思った事を思ったままに口にする。
「顔見た後だと、なんか間抜けだな」
の一言に火が点いたのは神と呼ばれた少年。
『あまり調子に乗らない方がいいぞ。この世界のありとあらゆる物は、俺の思いのままなのだからな』
あまりにも常識はずれな事を言われて、分かったのはアブナイヤツが出てきたと言う事だけ。
『ふん、どうせ理解はできないのだろうが、今はどうやら貴様等の相手をしている時ではないようだ』
神と呼ばれる少年はこの場の強者を見抜き、大魔王に相対する。
『大魔王ヴァファムーアか、デリートしようにも、コアプログラムにアクセスできずに仕方なくでっち上げた勇者に封印させた、システムに寄生したバグが、なんで今頃ノコノコと出てきた?』
「お前を消すためだ神よ。想像の神々がいなくなった世界で好き勝手をしてくれた紛い物を処分するために、封印された身でも、時間を掛けて準備を整え、今の我ならば、長年の悲願を達成できるだろう」
前置きはここまで、大魔王は神に対して魔弾を撃ち出す。
神はそれを指を軽く振るだけで消してしまう。
神が指を振るう度に、宙に浮かぶ文字や表が形を変えて、その操作に応えて何らかの効果が現れる。
『無駄な事だ。がなるほどな、こういう手があったんだな。システムに干渉できなくとも、この世界のルールの下で消し去れば、今度こそお前をデリートできるということだ』
今度は神が光の弾を作り、大魔王に向かって飛ばすが、こちらも空間断層に呑み込まれて消されてしまう。
『簡単な仕事かと思ったが、同じ土俵に降りてきたことが足枷となるか。いいだろう創造主ではなく、一人のプレーヤーとして相手になろう。たまには本気でゲームをするのも悪くはない』
神はまた姿を換え、今度はもう少し動きやすい軽装な鎧姿になると、剣と盾を装備する。
「戯れと嘯き、またもこの世界に無意味な干渉をしてくるか、なるほど逃げ隠れをしないと言うなら与し易い」
大魔王ヴァファムーアは、今まで感じていた異常な魔力を更に強大に、更に醜悪にあふれ出させると、マナを物質化させて、漆黒の鎧と剣を作り上げ、秘術士達を無視したままに闘いを始める。
「なんだか本当に事態が読めないが、今の内にこっちはこっちの策を実行に移すぞ」
ウイックはここにいる危険を肌で察知し、皆を連れて少し距離を置く事にした。




