30 ケダモノに変化した悪魔は圧倒的力で暴れ回る噺
幸いなことにというか、ヴァファムーアは上空で腕組みをしたまま目を瞑っている。
「けっ、俺達なんて眼中にもないってか」
「それはお前達だろ!?」
悪魔の攻撃は容赦ない。
ウイックが右腕を切り落とした時とは違う。
悪魔は人型を捨て、異形のケダモノへと姿を換え、人智を越えた力で暴れ回る。
パーティーで一番突破力を持っているミルの大剣を、復活した右腕一本で軽くあしらい、空間跳躍で蹴り出した足は、目前にいるミルの背中を強く打ち、受け身も取れないまま地面に落下。
ミルとほぼ同時に、渾身の獣王拳を背後から打ち込んだイシュリーの攻撃は、衝撃のみがピューレに打ち付けられ、獣王本人もケダモノが両拳を組んで、高らかに上げてからの打ち下ろし攻撃に脳天を打たれて、ミルを追って落ちていく。
ノアールが結界を張るが、今のディーフィンには全く通用せず、先ほど魔王がしたようにパリンと割られてしまう。
マニエルのドラゴンブレスは、悪魔に届く直前で歪められた空間に遮られてしまう。
アンテのワークボットはディーフィンの空間断裂攻撃でも装甲を割られる事はなく、だが理力銃も理力剣もミサイルも、搭載された武器のほとんどが、竜の咆吼と同様に無効化されてしまう。
ウイックから空間跳躍の原理を教わったエルラムが、少女達の中で唯一、敵に攻撃を当てる事ができたが、ケダモノ化した強靱な体に有効打を浴びせる事ができない。
「まさか“ぶるまぁ”の妖力供給用レイラインを断裂されるだなんて、思いもしませんでしたの」
大海洋界の術士が用いる理力の中には妖力も含まれており、それを術式に練り込む変換をするシステムは有効活用できている。
それでも使えるのは小技が関の山、大技までとはいかない。
ディーフィンの物理攻撃は距離を置こうと意味はない。
「こ、これでは全く近づく事もできませんの」
善戦しているエルラムも敵の攻撃を気にして、なかなかいいポジションもとれやしない。
「不味いな、アーチカ達にもこちらに来てもらうべきだったか?」
アーチカをはじめ、アイナニナ、エレノア、セイラ、シズには別の事を頼んで走り回ってもらっている。
「マジでヤバイな、あの空間攻撃を防御に使うと、こんなに厄介なモンになるとはよ」
空間攻撃を体得したウイックは、ミサイルをゼロ距離まで飛ばして爆発させるが、威力は通っているはずなのに、悪魔の今の耐久力を抜くに至らない。
レールガンの弾をミサイルのように、ゼロ距離に跳ばせれば、かなりのダメージを与えられるとは思うのだけれど、飛翔速度が速すぎて空間に押し込むのは不可能に限りなく近くて使えない。
とは言えウイックも空間跳躍を完全に物はできた。
敵の攻撃を避けきるにはかなりの集中力が必要だが、年齢のわりに経験値の高いウイックは、直感で回避を成功し続ける。
「くそっ、こっちは無傷であっちはダメージがあるはずなのに、ずっと圧されっぱなしじゃあねぇか」
「きゃあああ!!」
「エル!?」
上手く躱し続けていたエルラムも、一瞬の判断ミスでミル達のいる地表に叩き落とされる。
『ま、待って! ちょっ、ちょっと離れてよ』
取り付かれたアンテのワークボットは、ディーフィン以上の強度を持っているが、執拗な爪攻撃に噛みつき攻撃、機体はみるみる傷だらけ、その攻撃の一つが肩の付け根にヒットし、そこが外装よりも弱いと知ると、両手の爪を関節部にねじ込み。
『や、やめてぇえええ』
無理矢理引きちぎられた右腕は、中の配線もズタズタにされ、誤作動をした前腕にセットされた小型のミサイルが暴発する。
「ぎゃあああああ!!!!!」
今までどんな攻撃にも動じなかったディーフィンが叫びを上げる。
突然の爆発に対処が遅れて被弾したようなのだが、これほどに大騒ぎをするほどに、なんの攻撃がダメージを与えたのだろう。
「い、今のって消火弾?」
勢い強く燃え上がる炎を、鎮火するために作った消化液を詰めたミサイル。
人命救助のためにと搭載していた物で、殺傷力は極めて小さい。
「もしかしてこの悪魔……」
アンテはレッドアラートを報せるランプを停止させて、ここまでの戦闘データに目を通す。
「そっか、そう言う事か!」
アンテは念話を使ってウイックに推測した事を伝える。
「なるほどな、やってみる価値はあるな」
ウイックはアイコに命じて、プロテクターに搭載しているミサイルを全弾発射。
残弾は種類を問わず、16発がタイムラグほぼゼロで着弾。
もちろんウイックの理力干渉で悪魔の空間操作術も阻害し、全弾が敵にヒットする。
全種全弾ということで、煙幕弾も着弾と同時に黒煙を撒き散らし、照明弾は黒い霧の中で眩い光を照らし、消火弾は悪魔に大きなダメージを与えた。
「なるほどお前は火属性の悪魔だったんだな」
痛みに耐えかねて、変化の解けたディーフィンは、苦悶の表情でゆっくり地表へ降りていく。
地面に降り立った悪魔を背後から斬りかかったのはミル。
防御を取る事もできず、大きな傷を付けられて膝を付くディーフィンは、立ち上がる様子も見せない。
「一気に畳み掛けるか」
この後も大魔王を相手にしなければならない。
その配下の悪魔に、これだけの痛手を負わされたが、ここで彼女だけでも仕留めて置かなければ、手の施しようも見付からなくなる。
「悪いけど容赦はしねぇ、覚悟しな」
ウイックも地面に降りて、レールガンを正面に構えた。




