29 目的は達成できたのに、厄災が復活しちゃった噺
「なぁ、お前」
「なんだ人間」
「……ニンゲンって何だ? どっかで聞いたな……。まぁいいや、お前はなんで大魔王を復活させたいんだ?」
「敵対する神を討つためだ。我々の運命を弄ぶ存在を滅ぼすためなら、この身を捧げるのも厭わない」
右腕を失っても叫び声一つ上げない胆力に驚かされる。
また、その信念も痛烈に伝わってくる。
「ああ……、ああ、あぁ……、ぎゃあーーーーー!?」
ウイック達がディーフィンに気を取られている間に、ウイックの精神体から滲み出た黒い影が、そのまま体を呑み込み、高らかと上がる断末魔の悲鳴。
「ザモン、ようやく使命を果たしたのですね」
大量の血がこぼれ落ちていき、影が形を成して現れた人影は、しかしウイックとは似てもにつかない長身の長髪、切れ長の瞳の男前。
「大魔王ヴァファムーア様」
ディーフィンがその名を呼ぶ、確かに途轍もない魔力が男から溢れ出しているのを感じる。
男の元へ跳んでいこうとするディーフィンだが、ノアールが結界に閉じ込め、動きを封じる。
「空間を跳べたって、結界の中からは出られへんで」
左腕を振るい、結界を破ろうとするが、烙印の力で張った結界は簡単に突破はできない。
男はゆっくりと目を開けると、右手で胸の魔晶石を掴み、自分の体ごとえぐり取ってしまう。
「えっ?」
その場にいる誰もが息を呑む、手に取った魔晶石を大魔王ヴァファムーアは、粉々に砕いてしまった。
「今まで何をしてもビクともしなかった魔晶石を、握力だけで壊しちまったってのか!?」
「いいえ、あの手に込められた魔力量が尋常ではありませんの、さっきまでの紛い物とは格が違いますの」
ヒシヒシと伝わってくるプレッシャーに、押し潰されそうになるエルラムと、そして!
「にゃーーーーーっ!?」
全力を込めていた結界は、男が指を鳴らした瞬間に粉々に、パリンと音を立てて消えてしまう。
「お前が我を眠りから覚ましたのか?」
「はっ、ディーフィンと申します。ザモンと共に手を尽くしました」
空間移動で大魔王の眼前まで来たディーフィンは、膝をつく姿勢でひれ伏している。
「やべぇぞ。勝てる気がしねぇ、逃げるか?」
ウイックが体を取り戻した事で、一応こちらも目的は果たしている。
ここで逃げ出したとして、誰もウイックを責めたりはしないだろうが……。
「逃げたいのは山々だが、ワタシは引くわけにはいかんがな」
「私もお供します、殿下」
アーチカは帝国軍全軍を呼び寄せてでも討ち取る覚悟を決め、イシュリーも獣王の勤めとして、乱世を呼ぶ存在を見過ごす事はできない。
「ワタクシも一緒ですよアーちゃん」
「ワタシもだな。あれは我々の世界にも害成す存在だ」
自分がここにいても役に立てるとは言える自身もないが、アイナニナにも護るべき民がいる。
精霊界もそうだが、大海洋界に被害が拡がれば、多くの精霊が危険に見舞われてしまう。
それにエレノアは大海洋界も救いたい。
セイラもピューレもノアールもシズも、引くつもりはない。
「どうするのウイック? 僕も逃げるつもりはないけど」
「うん、私も! 全部ウイックに任せる」
アンテとマニエルはウイックと共に逃げる事をアリと考えている。
「最初から引く気なんてないんでしょ? あんたも」
全員の考えは分かった。
ミルが言う通り、ここで知らん顔をしていいなんて、本当は微塵も考えていない。
「わかった。やろう」
運命を弄ぶ神という存在も気にはなるが、目の前の厄災を取り除くのが先決。
本当なら一度引いて、完全に回復してからにしたかったが、野放しにはできない悪魔に大魔王。
ディーフィンはウイックが抑える事ができそうだが、全員係でも取っ掛かりすら見えてこないヴァファムーアを、どの角度から切り崩していくか?
「魔晶石をかき集めて復元するってのはできねぇかな?」
「建設的ではないね。あの石は純粋な結晶体だったからね。集めたところでどうにもならないよ」
アンテはウイックの“復元の秘術”が、そこまで万能ではない事を知っている。
「そこなんだがよ……」
まだ大魔王に動きがない。
おかげであれやこれやと相談する時間がもてたのだが、業を煮やしたディーフィンが前に出てくる。
「いくぞ! みんな」
「はい!」
ウイックは部隊を二つに分けて、迎撃を始めた。




