25 少しずつ秘術士の体に馴染んでいく大魔王が増長する噺
厄介なのはその回復能力。
小さな傷など気にもとめていない。
「いいぞいいぞ、随分と動かし易くなってきたぞ」
怒りに任せ剣を振るった一撃を除き、本気で打ち込む事のできない少女達。
それに対して敵は少しずつだが動きがよくなり、魔力攻撃に使われるマナの量も増していく。
まだ強力とは言えない魔弾攻撃も、エルラムの障壁やノアールの結界を抜く事はできないが、調子付いた大魔王の増長を止められない。
「もっとだ、本気で掛かってこないとこの大魔王、仕留められるのは今が最後かもしれんぞ」
確かに今なら聖光気を高めて魔晶石を押さえ込み、天上界でしたように完全に封印もできるのだろうが、ウイックの人格が本当に消え去ったとは信じられず、思い切って踏み切る事ができないでいる。
「私が行く。近付いてしっかり確かめる」
ミルはショートソードに持ち替えて、突っ込む姿勢を調える。
「待て、剣豪殿は何をするつもりだ? いかがわしい事じゃあないだろうな、抜け駆けか?」
「あ、いや……」
アーチカが働かせた勘がミルの動きを止める。
「それではワタクシが行きますの。ワタクシならあの程度の魔弾なんて、屁でもありませんから」
「わ、私、私! 私なら機動力で簡単に取り付けるよ」
ミルの目論見を知った少女達が気色立つ。
エルラムやマニエルなら、ミル同様に空を飛んで簡単に近付ける。
「わ、私も跳べます。私のとる軌道なら、あの程度の攻撃しかできないあれに、捉えられる危険は感じません」
「それなら僕だって、スモーク弾を使って、目眩ましをすれば簡単なことさ」
イシュリーとアンテも乗り出してきて、スモークや精霊術で足場を作ってもらえば誰でも近付けると気付いた他のメンバーも手を挙げる。
「悪いけど、ウッくん見てくれている三人はそのまま続けてね」
「分かっとるよ。しゃあないわな」
シズは霊糸を探し集中している。
回復を祈り続けるアイナニナ。
ミルに言われるまでもなく、呪術コントロールをしているノアールも動く事はできない。
「私はここで見てるわ」
「そうだね。やっぱり自分で飛べる人が行くのが、一番成功しそうだもんね」
セイラとピューレは意見をひっくり返して棄権すると、アーチカやエレノアも自分達が出る幕でない事に気付き、大魔王には5人が向かい合う事となった。
「そう言えばセレーヌは? また知らない間にどっか行っちゃって」
こちらの世界に干渉できないと言っていたから、こうなるとは思っていたが、ウイックの一大事にも動じない事が気に入らない。
とは言え、それぞれの立場というものも理解できなくもない。
「行くわよ。やり方はそれぞれに任せるわ。あのバカをたたき起こすわよ」
少々待たせても攻めてこない大魔王に向き直り、先ずはスタートダッシュが一番早いアンテが飛び出し、トップスピードが一番のマニエルが続く。
「なんの相談かは知らんが、早く諦めて俺の物になれよ」
バカの一つ覚えで飛ばしてくる魔弾を、マニエルのドラゴンブレスが飲み込み、アンテがスモーク弾を発射する。
黒煙が拡がり、驚いた魔王は急上昇して回避するが、既にミルが回り込んでおり、ショートソードを叩きつける。
「ぐほぁ!?」
斬られながらも反撃をと想定していたようだが、刃の腹で地面に叩きつけられて、直ぐに立ち上がる事のできない魔王に、跳びかかったイシュリーが鳩尾に獣王拳を叩き込む。
衝撃は魔王の体越しに地面を陥没させ、呼吸を止めさせる。
エルラムが追いついて氷漬けにし、渦を巻いた風で上空のみんなの元へ押し上げる。
「お、お前等!」
竜巻から抜け出したところで氷を砕き、翼を拡げる魔王がミル達を睨み付ける。
「な、何なんだ。さっきまでと全く違うではないか?」
攻撃の激しさに付いていけず、焦りまくるヴァファムーアは魔力量を一気に膨れ上がらせる。
「俺の物にしてやろうと手加減をしてやっていたがもういい。全てを片付け、一気にこの世界を制圧してくれる」
膨らむ魔力は確かに強大で、この辺り一帯を吹き飛ばす威力を発揮できそうだが、あまりにも無防備すぎて、逆に警戒してしまう。
「後悔する間もなく消えるがいい」
高めた魔力を振り上げた腕に集めようとする魔王の目の前に、障壁全開にしたエルラムが現れ、その男の唇を奪う。
使用する術は“ドレインキッス”、マナを口伝いに吸い取り、ゴスロリの下に着ている“ぶるまぁ”の能力で完全吸収する。
「な、んだと……」
「やはりそうですの。貴方、大魔王なんかじゃあありませんね?」
魔晶石を利用したのか、それなりに持ってはいたのか、確かにただ事ならぬ魔力を扱う力はあるようだが、烙印の力を得たとは言え、エルラムに御せるだけに過ぎないマナは、ウイック以下だということは間違いない。
魔力の枯渇した自称大魔王は肩で息をし、苦悶の表情が敗北を意味している。
「エルに先越されちゃったけど、これで寝覚めなさいよウイック、そこにいるんでしょ」
ミルは男と唇を重ね、舌も使って激しいベーゼを交わした。




